第25話

「人選を間違えているし、俺は断りたいかな」


 ミスっている。明らかな人選ミスだ。

 俺なんかに頼んでも当選する可能性が下がるだけ、クラスメイトにでも頼んだほうがよっぽどいい成果が出るだろう。


「それでも、お願いします。当選するためには必要なんです。神崎君の力が」


「そう言われても、面倒ごとは嫌いなんだ。それに俺が推薦人になるってことは、天野さんの評価が下がることを意味しているんだ」


 俺は落ちぶれたと皆に言われている人間だ。そんな人間に推薦人を任せるってことは天野さんの見る目がないと全生徒に宣言するようなものだ。


「そうかもしれません。でも、その評価を覆せたのなら……私の勝ちが決まったようなものです」


 確かに覆すことが出来れば、天野さんの評価は上がるだろう。


「俺を利用して当選しよってこと?」


「はい。私の駒になってください」


 ストレートだなぁ。


 天野さんは周りからの信頼が厚いだろう。それを、わざわざ落とすと分かっているのに何故俺に拘るのか。


「一つ聞きたい。どうして他の人に任せない?評価が覆れば勝ちと言っているけど、別に天野さんは評価されているだろう?なら、俺に任せるのは、ただ自分の可能性を狭めているだけだと思うけど……」


「私は……自分を信じています。なので、自分の直感に従って神崎君にお願いしています」


 直感……か。何とも言えないが、何故だか納得している自分がいる。


「そうか、わかった。引き受けるよ」


「ありがとうございます、神崎君。選挙までは相棒ってことでよろしくね♪」


 相棒ね、林が聞いたらしばかれそうだな。

 あと、その砕けた口調最高だね。


「神崎君、ありがとうございます」


 一ノ瀬さんもお礼を言ってくる。

 何でも、見つからないと選挙自体不参加という扱いになってしまうため本当に焦っていたそうだ。


「別にいいよ。面倒だとは思うけど、納得しちゃったし」


「納得?」


「いや、何でもない」


 少し上を向き星空を見る。

 そんな空を見て忙しくなる明日からの事を憂鬱に思いながらも、何処か浮足立っている自分に、苦笑してしまう。


 そんな俺は、これからの事を二人と話しながら並んで帰路を辿っている。






「どう思いますか、雫会長」


「な~にが?」


「今日から生徒会の補佐的役割に入った彼です」


「瀬戸ちゃん怖い顔してるよ~?何かあったの」


 雫のフワフワとした空気と瀬戸のぴりついた空気が相対する。


「堕落の象徴を何故、生徒会に関わることを許可したんですか!」


「そ〜んなこと考えてたの~?物騒だよぉ~」


 堕落の象徴。言うまでもなく神崎弘人の呼ばれ方の一つだ。


「あの男を今すぐ生徒会から離し、先生方に返すべきです」


 瀬戸がまくしたてる様に、怒気をはらんだ声で抗議する。


「ダ~メだよ~?わたしのお気に入りだし~」


「そんな私的な理由で!」


 まだ言い足りないと瀬戸が言葉を発しようとした瞬間、まるで瀬戸を脅すかのように普段の雫の雰囲気が消え去る。代わりにまるで梅雨の様なジメジメとした重苦しい空気が瀬戸を襲う。


「瀬戸ちゃん。大丈夫だよ。ちゃんとあれは役に立つからさ」


 昏い瞳を宿した雫が機械的に話すことに、瀬戸がこれ以上何かを言うことは無かった。







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