第21話

 放課後、俺は生徒会室の前に来ていた。


 ドアをノックし、待機する。すぐにドアの向こうから「どうぞ」と一ノ瀬さんの声が聞こえてきた。ドアを開けて、生徒会室に入る。今まで来たことがなかったが、装飾はなく、大きなテーブルと複数の椅子がある会議室の様な部屋だ。


 「ようこそ、神崎君」


 「一ノ瀬さんだけ?」


 迎え入れてくれた一ノ瀬さん以外に人がいない。確かメンバーは六人いるはずだけど……。


 「まだ、来てないんです。皆それぞれ仕事があるみたいで……」


 生徒会に入るくらいだし、先生や他生徒からの信頼も厚いだろうから、それで仕事を色々任されているのかな?


 「生徒会に入ってるから信頼されてるんだろ」


 「信頼されるのは嬉しいですが、だからといって仕事を押し付けられる謂れはないと思います!」


 押し付けられたことがあるんだろうな、この語気の強さは……。

 

 少し言い過ぎたと思ったのか、頬を赤らめわざとらしくコホンと咳をする一ノ瀬さん。


 「神崎君、今日は何をするか聞いていますか?」


 「何も」


 考えている素振りを見せる一ノ瀬さん。見るからに俺の役割・仕事を考えてなかったんだな。……楽できるなら、それに越したことはない!


 「一ノ瀬さん。やることがないなら俺は……」


 「帰るのはなしです。そうですね、ここの備品の位置を紹介します。そのあとに選挙の際に使う投票用紙を各クラス分に分けてください」


 仕事が割り当てられてしまった。逃げたいが相手は超人・一ノ瀬さんだ。諦めも時には肝心か……。


 「はぁ、わかったよ」


 「はい、お願いしますね♪では、こちらが……」

 

 そのまま備品の位置と大体何に使うかを丁寧に説明してくれる一ノ瀬さん。そこまでの量があるわけではなく、それ自体は三十分もかからずに終わった。


 その後の投票用紙を分ける作業がとても面倒なのだ。見るからに絶対一人でやる量じゃない。目の前に置かれた紙束を見てそんなことを思う。

 

 「ああ、多い。あと指紋が削れている気がする」


 「指サックありますよ、はいどうぞ」


 一ノ瀬さんがそう言って、今の俺からしたら魔法のアイテムを渡してくれた。

 これがあれば紙を捲れずにイライラする必要がなくなる、最高のアイテムだ!!


 だが、そんなアイテムがあってもキツイ量だ。一ノ瀬さんも自分のやることを切り上げて手伝ってくれているが、やはり量が多すぎるのだ。終わりが見えない……。


 「一ノ瀬さん、これいつまで?」


 「期限は明後日の朝ですね。そこまでには終わると思いますが、なかなか精神的に辛い作業です」


 「他の生徒会メンバーはもう来る?」


 「はい、そろそろかと。そこまでの辛抱ですね」


 残りの五人が来てくれれば、分担が出来てかなり楽になるし多分今日中に終わる。


 チクタクと時計とペラペラと紙の擦れる音だけが鳴る生徒会室。


 「遅れた~」「葵、まだいる?」「お疲れ」

 「もう、こんばんはかな?」「よ~」


 一ノ瀬さん以外の生徒会メンバー五人全員が一斉に、それぞれ挨拶をしながら入ってきた。

 

 俺は助かったという気持ちと、美少女たちがいる空間に男一人という気まずい気持ちで感情がぐちゃぐちゃになった。


 


 


 

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