第18話
なんてことを言うんだ宮野さん。
折角命が助かったのに……。
俺は引きつった笑みを浮かべざるを得ない。
また、逃げるとなると今度は交渉の手札がない。
完全な詰み……。
恐る恐る宮野さんから視線を外し、林のほうを向けるように体を回す。
「神ちゃん?」
宮野さんが不思議がっているが気にしてられない。
林のほうを向くと、まだ林はうずくまっていた。
聞こえてなかった?
この距離で?
「おーい。林?」
「なんだ神崎、俺は今喜びを噛みしめているんだ」
どうやら、本当に聞こえていなかったようだ。
ドアのほうに向きなおると、宮野さんが手を合わせてこちらに静かに謝罪していた。
「あれ?宮野さん。どうしてここに?」
林も俺がドアのほうに向いたことで宮野さんに気付いた。
「予鈴なったのに戻ってこないから、呼びに来たんだよ~」
言い訳が上手いな。
「そっか、ありがと。ほら、戻るぞ神崎」
「俺はお前に連れてこられただけなんだよなぁ」
「お前が悪い」
「うそだろ?!ただ二人と話してただけなのに」
「大罪だ」
「そんなことで罪に問われちゃうの?」
宮野さん、貴方衛兵(林)に俺の事渡したじゃん。
しかも、結構すんなりと……。
「ええ。こいつは同盟加盟者なので」
勝手に加盟者にされているんだが?
許可してないんだが?
「なんの同盟に入っているの?」
「ボッチ同盟」
「ダサいなぁ。せめてもっと、ましな名前にしろよ」
「今考えたんだよ、仕方ないだろ?」
「ボッチ同盟っていう割には、林君も神ちゃんも友達いるよね」
「それなりには」
「同じく、でも俺はこいつと違って女の子の友達がいないんだよ」
「それ、俺に対しての脅しかな?」
「違うけど、でも妬ましいとは思うんだよ」
分からないことはないな、友達が多い奴は楽しいことも多いだろうし。
「そんなことないよ」
宮野さんが少し低い声で言う。
「友達が多くてもさ、話を合わせなきゃいけないし、流行を常に把握する必要があるし、グループの中心が気になっている男子とは話すな、みたいな意味が分からない暗黙のルールはあるし……」
闇堕ち宮野さんだ……。
「私からしたら、林君たちみたいに狭く深い関係でいいんだよ」
「苦労してるんだな」
「今のを聞くと、このままでいいかって思うな」
確かにそうか。関係が広がるほど、相手の知らない部分のほうが多くなる。
そこに触れないように関係を維持したところで、それは上辺だけの関係だ。上辺だけの関係は気疲れするんだろうな。
「ま、今は愚痴を聞いてくれる人が増えたからいいんだけどさ」
いつの間にか、そんな関係に持ち込まれていたらしい。
二ッと笑った林が自分の胸を叩く。
「俺らでよければ、いつでも聞くよ」
頼もしそうにしてるのは結構だが
「お前は俺の都合を聞けよ」
林が勝手に決定するのを、口をはさんで阻止する。
「ははっ、いいね。やっぱり」
「だろ?」
宮野さんと林が笑う。
何の事か分からんが、楽しそうならいいか……。
俺たちはそうやって廊下を歩いて、無事に授業に遅刻したのだった。
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お久しぶりです。
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