第17話
「おはよう、あおっち!」
校門の少し前で自転車の荷台から降りた宮野さん。
俺も自転車を降りて、押しながら校門の前まで来た。
校門で皆に挨拶をする一ノ瀬さんに、宮野さんから挨拶をする。
「おはようございます、宮野さん。それと……神崎君?!」
「おい。失礼だろ」
「すみません。昨日の約束を守ってくださったんですね」
そんな話したな、草むしった後に。
「意図せずな。ま、たまには遅刻しないところを見せておかないと」
「誰にですか……」
「神ちゃん。それ、当たり前のことなんだよ」
そんな、美少女二人が呆れている。
「それよりも、珍しい組合わせですね」
「そうだね~。ちょっとした事情がありまして……」
「宮野さん?!」
昨日のことを話そうとしてらっしゃるの?
やめて差し上げて!
こんな人通りの多い校門でそんなこと話したら、神崎さん命が……。
「あっ、そうだよね。ごめん神ちゃん」
「頼むよ、これで何とか生き残っ……」
「そうか?今からが危機だと思うが」
この声は……。
「朝から良いご身分だなぁ?神崎ぃ」
はっ、林。
「待て、林誤解だ」
「遺言くらいは聞いてやろう」
駄目だ、理性を失っている。
目に殺意しかない。
「一ノ瀬さん、宮野さん。罪人を借ります」
「はい、どうぞ」「うん、いいよ」
えっ?君たち?
そんなあっさり納得しないで。俺の命が危ういんだよ?
「女神からのお許しも頂いた。行くぞ、罪人」
引きずられて空き教室に連れ込まれる俺。
ドアを後ろ手で林が閉める。
「やめてくれ、林。俺はただ仕事の話をしていただけなんだ」
「俺はすべて聞いていたぞ?」
馬鹿な。すべて聞いたうえで、行動に移しただと。
「大変だった。駅から歩いているとき、お前が宮野さんと二人乗りしているのを見てから……殺意を抑えるのに、すごく苦労したんだぁ」
まずい、言い逃れが出来ない。
くそ、やっぱり時間をズラすべきだった。
どうすればいい。どうすれば生き残れる?
「け、契約の話はどうするんだよ」
「契約?ああ、生徒会メンバーとの橋渡し役をしてくれるんだっけか。いらねぇな、俺は自分の力で生徒会に入る」
「推薦は……どうするつもりだ」
「お前よりも優秀な人間と意気投合してなぁ。そいつがやってくれる」
駄目か、取引する土俵にすら立てない。立たせてもらえない。
前回の負けを糧に成長していやがる。
付け入るスキが……ない。これは詰みか。
「言い残すことは……それだけか?」
「林、お前はまたミスをした」
「何が言いたい?」
「ここが人目につかない空き教室でよかった」
そう、ここなら……
「一ノ瀬さんの連絡先」
「っっっ!!!」
林の顔が変わる。そう、俺の奥の手中の奥の手。
これならば大抵の男子生徒は取引に応じる。
「お前にやろう、それを」
「なるほど、強行策だな」
「許可は取ったさ」
「は?そんな時間はなかったはずだ!」
「舐めるなよ?俺を」
林の声が聞こえた後、コピーしていた文章を張り付け送ったのだ。
生徒会の事で林が色々聞きたいと言ってるから、連絡先を教えてもいいか?と。
「神崎……お前そこまで俺のことを……」
「当たり前だ、親友だろ?」
「ああ、お前こそ親友だ。疑って悪かったよ」
「いいってことよ」
フハハハハハ。少し危なかったが、上手くいったぞ。
「いたいた」
突然ガラガラとドアが開き、宮野さんが入ってきた。
ドアの前に立つ宮野さんには、一ノ瀬さんの連絡先を手に入れてうずくまって喜ぶ林の姿が、ちょうど見えなかったようで、
「お弁当作ったから、渡そうと思ったのに忘れててさ~」
と無邪気な笑顔で死刑宣告をしてきた。
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