第16話

 「いてえ」


 どうにか昨日の夜は比較的寝やすい体勢を見つけて眠ることは出来たが、ソファの狭いスペースで寝ていたせいで、体が痛い。


 何時だろうか……。

 今日は遅刻するわけにはいかないんだけど。


 スマホ、何処に置いたっけ。

 

 「おはよう」


 「ああ、おはよう……」


 おはよう?

 声がしたキッチンのほうに顔を向ける。


 そこには制服姿でエプロンを身に着けて、菜箸を持っている宮野さんがいた。


 何で宮野さんが……。


 寝ぼけている頭をフル回転させて、記憶を辿る。


 「そうか、昨日泊めたのか」


 「寝ぼけてるの?」


 「そうだよ、朝は弱いんだ。知ってるだろ?」


 「確かに、そうだね」


 でも、宮野さんがいるってことは、寝坊ではないのだろう。


 「今何時?」


 「七時だね、っと。ちょっと待っててね、もう少しで出来るからさ」


 「朝食作ってるのか?」


 「うん。本当は出来たら起こそうと思ってたんだけど……」


 宮野さんのその言葉に、スーと俺は大きく息を吸い込むイメージをして……


 結婚してくれぇぇぇ!!!と心中で叫んだ。


 「どしたの?そんな顔して」


 「心で叫んでた」


 「???」


 宮野さんが俺の意味不明な言葉に首を傾げている。


 分からなくていいのだ。

 ここでもエスパーになられると俺が困るから。

 心の中でプロポーズした奴になっちゃうから。


 ……プロポーズしてはいるか、宮野さんに届いてないだけで。


 「気にしないでくれ、寝ぼけてるんだ」


 「もう少し時間かかるし、顔洗ってきなよ。目、覚めるよ〜」


 「そうする」


 リビングを出て洗面所へ。


 レバーを上げ水を出す。

 冷たい水を手の平に溜めて、顔をつける。


 べたべたに濡れた顔をタオルで拭く。


 そして、寝ぼけていた頭がしっかりと覚めた感じがした。


 「はぁ。やっぱり嫁だよなぁ」


 


 「おっ、戻ってきたね」


 すでに朝食の準備を終えて座っている宮野さん。


 「悪い、全部やってもらって」


 「借りがあるからね、これくらいは寧ろさせて欲しいかな」


 テーブルには、朝食が並べられている。 

 椅子を引いて、座る。


 「「いただきます」」


 


 「絶対ズラしたほうが良いって」


 「神ちゃんの気にしすぎだって」


 朝食を手べ終え、登校の準備も整った俺たちはどう登校するかで揉めていた。


 俺は互いの登校時間をズラしたほうが良いと言って、宮野さんは同じでいいと言う。


 「神ちゃんは何をそんなに気にしてるの?」


 「いいか?俺は今命を狙われているんだ」


 「え?」


 「俺は全男子生徒の夢(一ノ瀬さんの連絡先)を持っている」


 「うんうん」


 「それで昨日殺られかけた……。そこに、追い打ちで宮野さんと登校するなんて暴挙に出たら、今度こそ助かるかどうか分からない」


 「なるほどねぇ。……神ちゃん、あおっちの連絡先持ってるんだ」


 えっ、そこ?

 違う。違うよ、宮野さん。俺の命の危機の話をしていたのに……。


 「私とも交換しようよ」


 「へっ?」


 「だって、あおっちとはしたんでしょ?」


 「そうだけど……。でもそれは、俺の罰と関係があるからで……」


 「いいじゃん、理由なんてさ」


 「俺死にたくないんだけど」


 「バレなきゃいいんだよ~」


 宮野さんが今まで見たことないくらいに、悪い笑みを浮かべている。

 これが、小悪魔宮野さんか……。店員さん、この小悪魔を下さい。…えっ?非売品?


 「宮野さん、他に男子の連絡先持ってるよね?」


 「持ってるよ?」


 よし、なら逃げられる。

 最悪バレても、そいつを贄にすれば生き残れる。


 「わかった。交換しよう」


 「ありがと~。ついでに一緒に登校しよっか」


 「それは嫌だ」


 「でも、時間ないよ?」

 

 宮野さんがスマホの画面を見せてくる。

 そんなっ、あと二十分はあったはず……。


 ……話してるうちにか。


 「宮野さん、策士だな」


 「でしょー。ほら、行くよ♪」


 すっかり宮野さんの手中でコロコロと転がされた俺は、抵抗を諦めて宮野さんと共に家を出た。





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 家に泊めた同級生が嫁過ぎる件

 

 



 

 


 


 

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