第15話

 ドアを開けて、玄関に入る。

 鍵を閉めて、靴を脱ぐ。


 「ただいま」


 外よりは暖かい廊下を歩いてリビングへ。

 リビングのドアを開けると

 

 「おかえり~。何買ってきたの?」


 ソファに座ってテレビを見ていた宮野さんが、こちらに顔を向けて聞いてくる。

 俺が貸したシャツを着ているため、肘掛けに乗る手がシャツの袖に隠れている。


 萌え袖!!さすが、俺のよっ……違う違う。

 

 俺は袋を見せるように持ち上げ


 「明日の朝飯と飲み物」


 「あっ、お金出すよ。ちょっと待ってね」


 ソファから立ち上がり、財布を取りに行こうとする宮野さん。


 「別にいいよ。大した額じゃないし」


 「……それ、困るなぁ。私としては借りをこれ以上増やしたくないんだけど」


 「十分すぎるくらい返してもらったけど?」


 「安いねぇ神ちゃん。ご飯作ってもらうだけでいいなんて」


 「何?それ以外の事要求してもいいの?」


 「そりゃもちろん!」


 胸を張って言う宮野さん。

 宮野さんの態度のほうが困るんだけどなぁ……。


 「男にそんなこと言うもんじゃない。体を要求されたらどうするんだよ」


 突然言われたことに、顔を赤くする宮野さん。


 「なっ///……そ、それは受け入れるしか」


 「受け入れるなよ!……いいか?男の理性をあまり信用するなよ。たとえ同学年で関りのある男でもだ!」


 どれだけ普段紳士な奴でもそういうことは考えるだろうし、宮野さんのような美少女と二人きりとなるとなおさらだ。

 スーパー紳士である俺ですら逃げ出したんだ。同学年の他の男が耐えられるとは思えない。


 「でも……、神ちゃんはそういうことしないでしょ?」


 「しないよ。俺はまだ生きたいから」


 「なら神ちゃんは安心だね♪」


 「襲うぞ、このクソ美少女が!」


 「キャー、襲われちゃう」


 どうして毎回茶番になってしまうのか。


 はぁー。ま、信頼されていると思っておこう。


 「じゃ、俺は風呂行くから」


 「はーい。いってらっしゃーい」


 そう言って、微笑む宮野さん。


 さっきは考えないようにしたけど……。

 やっぱり嫁だよな?!

 俺、知らない間に宮野さんと結婚してたのか?


 そんな思考を振り払って一度自分の部屋に戻り、寝間着を取り出し風呂に向かう。




 

 あ~。俺が先に入ればよかった。


 脱衣所に入ってそう思った。

 普段と匂いが違う。何でだ?いつも俺が使っているものと同じもののはずなのに。


 折角薄くなった煩悩が戻って来てしまう。

 

 そうだ!!


 俺は服を脱ぎ捨て、籠にぶち込み風呂場に入る。

 そして初めに取った行動はそう、追い炊きだ。


 熱さで思考を鈍くすれば、余計なことは考えないはずだ。


 全身を洗った後に、馬鹿みたいに熱くなった湯船に浸かる。


 外で冷えた手足がジンジンとして痛い。

 これならいける、超えられる。今の平凡な自分を!




 「神ちゃん、ダメだよ。熱くしすぎは」


 「はい、とても反省しております」


 萌え袖宮野さんの前で正座して、お茶を頂く寝間着の俺。


 「よろしい!ちゃんと、このお茶飲んでね」


 「はい」


 熱い湯船に浸かりすぎた結果、無事に軽い脱水になりました。


 宮野さんがいてくれて助かった。

 あまりの俺の遅さに心配になって、飲み物を風呂に持ってきてくれたのだ。


 それがなかったら湯船に沈んでいたかもしれん。


 「ありがとう、助かったよ。」


 お茶を飲み干し、改めてお礼を言う。


 「いえいえ。……そういえば、今日私何処で寝ればいいかな?」


 「ああっと……」


 寝る所なんて……ないな。ソファは寝るには狭いし、客人用の布団もないしなぁ。


 「俺の部屋のベットでよければ、そこかな」


 「えっ。でも神ちゃんはどうするの?」


 「俺もベットって言いたいところだけど、ソファで寝るよ」


 「それなら私がソファで……」


 「いいって。あ、いや。俺のベットが嫌ならソファになるけど」


 「うーん、嫌☆」


 「そんないい笑顔で言うな!傷つくわ」


 「ははっ、ごめんごめん。冗談だけど、私の気持ち的にね……。申し訳なさでいっぱいで」


 「なら、俺と添い寝になるけど」


 「いいね!」


 「よくない!」


 なんでノータイムでオッケー出すんだよ、この娘。


 「ダメか~」


 「ダメです。ノット不健全!!」


 「健全だよ~。添い寝は健全」


 「アウト。あと俺の理性が耐えられない!!」


 「それは、自信満々に言うことじゃないよ~」


 「ふふん。襲われたくなければ、大人しくベットで寝るんだなぁ」


 「うーん。神ちゃんなら別にいいけど」


 「はい、襲います。俺は今から狼です」


 「なら、羊である私は神ちゃんの寝室に逃げるとしようかな」


 そう言って俺の部屋のほうに逃げる宮野さん。

 部屋は教えてないけど、消去法で分かるだろう。

 

 だから俺は追うことなく、宮野さんがいなくなったソファに向かいあい、眠りやすい体勢を探すため体と思考を動かした。



 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  

 宮野さん、強過ぎる……

 


 


 

 


 

 


 

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