第13話

 「なんでいるんだ?」


 「息子の一人暮らしをチェックしに来たのよ」


 確かに定期的に来ていたけども、なんでよりによって今日なんだ。


 やばいな、どうにかして宮野さんの事を隠さないと。


 「……何時までドア開けっ放しで突っ立ているのよ。さっさと入りなさい」


 「あっ、ああ」


 こちらの会話は外にいる宮野さんにも聞こえているだろう。

 ここは空気を呼んで一旦外で待ってくれ。




 が、そんな俺の思いは通じず……


 「神ちゃん?早く進んでよ、外寒いんだけど」


 あ、終わりだ。俺は今日死ぬんだ。今度は逃げられないんだ。


 「弘人、早く入れてあげなさい」


 母さんの抑揚のない声に俺は絶望する。

 諦めて、宮野さんを玄関に入れる。


 「お邪魔します。……神ちゃんのお母さん?」


 「そうだ。はぁー」


 項垂れる俺。

 俺に構うことなく挨拶を交わす二人。


 「こんばんは、彼女さん」


 「彼女じゃないですけど……こんばんは。急にお邪魔してすみません」


 「気にしないでいいわ。私はここに住んでいるわけではないから。とりあえずリビングに行きましょうか」


 母さんとその背を追ってリビングに行く宮野さん。俺もトボトボと後についていく。

 

 この後、何言われっかなぁ。


 リビングに入って母さんから放たれた記念すべき一言目が


 「弘人?あなたはそこで正座。……彼女さんはそこね」


 「……はい」


 フローリングの上で正座する俺、椅子に座る母さんとその対面に座る宮野さん。


 ああ、次期生徒会長様!どうか、処刑台の上の罪人をお救い下さい。


 「聞きたことは一つだけよ。こんな時間に女の子を連れ込んで、何をするつもりだったのかしら?」


 逃げることが出来ないのなら!!


 「母さん。何分かりきったことを。そんなの決まっているだろう?せっ……」


 おいおい。母親が自身の息子に向けていい目じゃないぞ、それ。

 あまりの恐ろしさに俺の、前進するためのおふざけは不発に終わった。


 「泊めようとしてました」


 「そう、理由を言いなさい」


 「彼女、宮野さんが親と喧嘩して家出していたところを私が発見。そして今に至ります」


 物凄く簡潔だが、ダラダラと話しても仕方ない事なので要点だけ伝える。


 「……宮野さん、事実かしら?」


 「はい。それと、ここに来ることは私が提案しました」


 おお、次期生徒会長様なんか頼りにならん。 

 頼りは宮野さんただ一人!


 「なるほどね、合意の上なら私が言えることは何もないわ。……弘人ちょっと来なさい」


 そういって立ち上がり、廊下に戻っていく母さん。クッソ、我が母親ながらなんて自由な人だ。


 「わかったよ」


 呼ばれた通りついていく。


 玄関で靴を履いて、母さんがこちらを向く。


 「私はもう帰るわ」


 「かえれかえれ」


 俺はしっしと手を払う。それを気にすることなく母さんは話し続ける。


 「ちゃんと掃除しているみたいだし、あの彼女さんがいるなら安心できるわ」


 「彼女じゃないぞぉ」


 「大切にしなきゃだめよ?あなたの事頼ってくれてるんだから」


 「彼女じゃないぞぉ」


 「あと、はっちゃけるのはいいけど……避妊はしなさい」


 「彼女じゃないぞぉ」


 「じゃあ、帰るわね。また近くを通った時に見に来るわ」


 「彼女じゃないぞぉ」


 ドアを開け去っていく母さんを俺は、特に見送ることなくドアを閉める。どうせ、マンションの下で父さんが車で待っているだろうしな。

 鍵を両方とも閉め、玄関から移動する。


 リビングのドアを開けると、宮野さんがソファの上で溶けていた。


 「慣れるの早いな?一応男の家だぞ」


 あとその体勢、目のやり場に困るんだけど……。

 ああっ、お尻と太腿に目のピントが吸い付いてぇ


 「ちょっと喧嘩で疲れてて。ごめんねぇ、行儀悪いのはわかってるんだけど……」


 「ま、宮野さんが気にしてないならいいよ。それよりも風呂どうする?先に入るか?」


 「うーん。……そうしようかな。というか神ちゃん、すごく否定してたね?」


 ソファから立ってそんなことを言う宮野さん。


 「事実だからな、聞いてなかったけど」


 「ははっ。そっかそっか。それじゃあ、お風呂先に頂くね?」


 「まだ沸かしてないけどな」


 「えー、どうするか聞いておいて?」


 「聞いておいて。それに飯まだだろ?」


 「うん、そうだけど……」


 ニヤッと俺は口角を上げて


 「じゃ、宮野さんに任せた!」


 「そうなるよねぇ。……泊めてもらった恩を返しますかな」


 そう意気込んで、キッチンのほうに歩いていく姿を見て俺は、ふと思う。

 制服であることを除けば、嫁じゃん……と。


 キッチンで冷蔵庫を開けて何を作るか考えている宮野さん。


 そんな宮野さんから視線を外し、テレビを見る。

  ……煩悩退散。煩悩退散。







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 神崎ィ゙羨ましいぞォォ、貴様ぁぁ!! by.林

 

  


 

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