第12話

 自転車を公園の入り口の脇に止めて、ブランコのほうへ行く。


 ブランコから入り口は見えるはずだが、宮野さんが気付いた様子はない。


 ザッザッと公園の砂が心地の良い音を立てる。 


 ブランコの柵の前まで来たとき、宮野さんが顔を上げた。


 「あれ、神ちゃん?」


 こちらを見て首を傾げる宮野さん。

 かわいいな、その動作。


 「こんばんは、宮野さん」


 「こんばんは、神ちゃん」


 「何してるの?こんな時間に」


 「見ての通り、ブランコだけど……」


 そういう事を聞いたわけじゃないんだけど。


 俺が困った顔をしていたのか、宮野さんが笑う。


 「ははっ。ごめんごめん、そんな顔しないでよ〜。強面の神ちゃんがそんな顔すると面白いから」


 困り顔が面白いって、乙女心はわからんな。


 どうやらツボだったようで、しばらくの間宮野さんは笑っていた。




 「はぁーぁ、神ちゃんのせいでお腹痛い」


 ようやく収まったのか、お腹を抱えてそんな事を言う宮野さん。


 「勝手に笑われただけなんだよなぁ」


 「さて、聞きたいのは私がここにいる理由だっけ?」


 うーん。話題転換が強引だ。

 まるで、さっきの誰かさんみたい。


 「無理に聞きたいわけじゃないけど……」


 「うーん?別に聞かれて困ることじゃないよ〜。ただ、親と喧嘩して家出してきただけ」


 宮野さんって喧嘩するんだ。衝撃の事実だ。


 「失礼だなぁ、神ちゃん。人間だよ?私も」


 また、エスパーが増えたか……。

 もう驚かんぞ、俺は!!


 「神ちゃん、すーぐ顔に出るからね!」


 なっ、この思考も読まれている?!


 「そんなに分かりやすい?」

 

 「うん。それはもう凄く」


 俺のポーカーフェイスの問題か。

 以後気をつけよう。


 そう心に誓っていると、


 「あっそうだ、神ちゃん」


 突然何かを思い出したかのように、声を張り上げる宮野さん。


 「ん?」


 「今晩だけ泊めてくれない?」


 俺は石化した。


 「…………」


 「あっ、あれ?神ちゃん?」


 「…………」


 「おーい。聞いてる?というか生きてる?」


 「…………」


 「そんなっ、神ちゃん。何もこんなところで逝かなくても……」


 「ハッ!!!」


 何だ?何があった?


 「あっ、生き返った?」


 「宮野さん、俺は一体……」


 瞬間先程の宮野さんの言葉が脳裏に浮かんできた。(今晩だけ泊めてくれない?)

 泊める?泊めるってなんだ?誰が?泊まる?どこに?誰を???


 「神ちゃーん。大丈夫?」


 「ああ。…………なぁ宮野さん、泊まるってなんだ?」


 「やっぱり、いきなりは迷惑だよねぇ」


 「そうじゃなくてさ、何処に誰が泊まるんだ?」


 「私が、神ちゃんの家に、泊まる」


 んんんん????


 俺の家に宮野さんが泊まる?


 つまり、俺は宮野さんに合法的に近づける?


 ということは、あの宮野さんとキャッキャウフフできる?


 ピコーン!!と俺の頭が答えを出す。


 「うーん。カプセルホテルでも探……」


 「いいよ!俺の家に来な!」


 宮野さんが何かを言い終える前に、許可を出す。


 「ホント?助かるよ〜、ありがとね♪」


 フハハハ。これで宮野さんは俺のもんだ!!


 …このときの俺は、一人暮らしだからこその失念をしていた…。




 ガチャンと上の鍵を開ける。下の鍵穴に刺して鍵を回そうとすると空回りした。

 あれ?出るときに下の鍵閉め忘れたのか?


 ドアを開けて、すぐに後悔した。


 「おかえり、弘人」


 何故か別居しているはずの母親が家にいた。






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 1000PV超えました。ありがとうございます!

 

 


 

 



 


 




 

 


 


 


 


 


 

 

 




 


 


  


 


 


 

 

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