第11話
「恩人?」
「はい。去年の夏に男性の方に助けて頂いたことがあるんです」
へぇ。ナンパにでもあったのだろうか?
「その通りです。友達と遊ぶ約束をしていて、その待ち合わせの時の事でした」
えー。一ノ瀬さんもエスパーかよ……。
やっぱ俺以外エスパーだよね?
「ま、一ノ瀬さん可愛いからね。声かけたくなるのは分かる」
「こちらからすると迷惑ですけどね」
それはそうだろうな。
一対一ならまだしも多対一は怖いだろうし……
いや、一対一も怖いか。
「どんなふうに助けてもらったの?」
参考にして、女の子を虜にしちゃお!
「私と待ち合わせをしている風に装ってくれたんです」
「……ん?」
何かそんな光景覚えがあるな……。
「あの、神崎君?」
突然固まった俺に疑問を抱いている一ノ瀬さん。
どうにか記憶を呼び起こそうと奮闘する俺。
‘’FIGHT‘’
違う違う、そんなことしてる場合じゃない。第一今は運転中だ……自転車を。
考え事に集中しすぎは良くない、危ないからな!
「どうかしましたか?」
「なっ、何でもないです。気にしないで……」
「敬語……出てますよ?」
そういえば癖を見抜かれていたんだっけ。
普段考えずに会話している弊害だ。会話の内容をすぐ忘れてしまう。
「それよりも、そろそろか?」
強引な話題転換!
「……逃げましたね?ふふっ、今日は乗ってあげます。次の角を左に曲がってください」
良かった、見逃してもらえるようだ。
一ノ瀬さんの指示通りに左に曲がる。
この辺は住宅街という言葉がぴったりな地帯だ。
「ここです」
キュッと自転車のブレーキをかける。
足を地面に下して確実に止める。
「はい、到着!」
一ノ瀬さんが自転車が止まったことを確認して荷台から降り、家の門の前に立つ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「送って頂いて何ですけど……明日は遅刻しちゃダメですよ。それと明日こそは生徒会室に来てくださいね」
「遅刻は保証できないかな。でも生徒会室は行くよ、行かないと高崎先生にまた草むしりさせられる……」
アレはもう嫌だ。校庭の草はほとんど抜いたから、今度は学校の周りをやらされかねない。さすがにあの恰好で外はキツイ。
「遅刻しても任されそうですけど……」
「それは言わないでくれ。わかってるから」
「ふふっ。そうですか。……今日は本当にありがとうございました。帰り道気を付けてください」
きれいなお辞儀だな、ほんとに一挙手一投足が様になる人だ。
「ああ。それじゃあ」
地を蹴って速度を乗せペダルを漕ぐ。
もう六時過ぎだ。日は完全に沈んで月が出ている。
季節は秋。肌寒くなってきた風を顔に感じながら帰路につく。
あと少しだなぁ。
家の近くにある公園が見えてきた。ここを超えたら家はすぐそこだ。
……だが、俺は公園を通り過ぎることが出来なかった。
こんな夜に独りブランコで座り俯く宮野さんを見てしまったから。
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8時か18時のどちらかで一話更新にします。
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