第10話

 ゴミ捨て場から戻ると、一ノ瀬さんがまだ校庭にいた。

 

 帰ってなかったのか……。暗くなってきているから、一人で帰るのは危ないだろうし残ってくれていて安心している俺と、さっきの事で気まずい俺がいる。


 「着替えてなかったんだな」


 「あっ、はい。少し考え事をしていて」


 「そっか、もう遅いし着替えて帰ろう」


 俺と一ノ瀬さんはそれぞれ更衣室に入り、ジャージから制服に着替える。

 

 着替え終わったあとに更衣室の鍵を職員室に返す。


 「おつかれ、神崎、一ノ瀬」


 「もう二度とやりません」


 「お前が遅刻しないようになれば、やらなくて済むぞ。っと神崎……わかっていると思うが一ノ瀬のこと送ってやれよ?」


 「私は大丈夫ですけど……」


 「神崎?」


 「わかってますよ。紳士である俺が責任もって送ります」


 「それでいい。じゃあ気を付けてな」


 職員室で高崎先生と会話した後、下駄箱で靴を変え帰路につく。


 「一ノ瀬さん、電車?」


 「いえ、歩きですね。大体十五分くらいの距離です」


 歩きか、好都合だ。


 「今日は悪い子になろうか。一ノ瀬さん」


 「はい?」


 俺は自転車の荷台を手でたたく。


 一ノ瀬さんも俺が何を言わんとしているか理解したんだろう。


 「あの、それはちょっと」


 「俺のためだと思ってさ、一ノ瀬さん送ってからじゃないと帰れないし」


 多分一ノ瀬さんは自分の不利益には目を瞑るが、他人が不利益を被ることを嫌う傾向にある。

 だから、説得できると思った。


 「…………わかりました。今日は悪い子になります」


 「助かるよ」


 一ノ瀬さんが後ろに座ったのを確認してペダルを漕ぎ始める。

 皆安心してほしい、ちゃんと荷台の上にはクッションを敷いてある。


 漕ぎ始めは大変だが、速度が乗ればかなり楽だ。


 というか、漕ぐことに集中していないと腰に回された一ノ瀬さんの手に、背中にくっつく体の柔らかさに意識を持っていかれてしまう。


 「結構速いですね」


 「割と限界速度だ。車通りも少ない、この時間くらいしかこんなことできないけど」


 「バレたら大変ですもんね」


 何で楽しそうなんだよ。

 いや、こんな機会ないからか……。


 顔は見えないが、後ろから聞こえる声で楽しんでいるのがわかる。

 外見だけを見るとクールな人だが、表情豊かだよな一ノ瀬さん。


 「そうそう。次期生徒会長様がこんな事してるってバレたら確実に候補から外されるよ」


 「それならそれでいいです」


 へぇ。生徒会長に固執してるわけじゃないのか。


 「結構淡白なんだな」


 「淡白なんですよ」


 それも会長には大事な素質の一つだろうな。

 問題解決や、行事の運営、生徒の代表としての行動、様々な物が必要になる。


 一つに固執せずに行動できるってのは、一ノ瀬さんの強みだろう。


 「でも、そんな私にも一つだけ、諦めきれないことがあるんですよ」


 「諦めきれないこと?」


 人間誰しもそういうものはあると思うけど……。


 「はい。私の恩人のことです」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 明日から一話投稿でいきます。

 (嘘言ってすみません)


 ※自転車に二人乗りは辞めましょう。

 


 


 

 

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