第7話

 「佐藤先生、頭潰れるから。グシャってなっちゃうから。」


 「そうか?いい具合の力加減だろう?」


 俺は今、空に浮いています。


 授業終わりに先生に呼び出されて、ついてきてみればこれだ。

 ハッ!これがハニートラップか!


 「変なことを考える余裕があるようだな」


 うーん。これもう俺以外全員エスパー説。


 「すみませんって……。以後ないようにします」


 「あたしは何度その謝罪を聞けばいいんだ?」


 「卒業するか退学になるまで、ですかね」

 

 「はぁ~。あれほど優秀だったお前はどこに消えた?目の前のお前は別人か?」 


 「いやいや、同一人物ですよ」


 全く、過去のことを引っ張らないでほしいな。


 「ちゃんとやらないと進級出来るか怪しいからな?」


 「わかってますよ」


 「ならいい」


 先生が俺の頭を離す。

 強い力で抑えられていたから頭の形が変わっているかもしれん。


 先生が職員室の方に歩いていくのを見送って、教室に入る。


 「神崎さぁ。いつも誰かしらに怒られてるよね」


 「有名人だから」


 「ははっ!悪い意味でね」


 入口近くの席にいる宮野さん。

 少し制服を着崩していて、校則違反ギリギリを攻めている、割とクラスの全員と仲がいい女子だ。林を除いて……


 「それより、さっきの休み時間あおっちと何話してたの?」


 「あおっちって……。一ノ瀬さんにこれからお世話になるから、その挨拶を」


 「それ、逆じゃない?」


 「そだね。まぁ、遅刻しすぎた罰の話だよ」


 「あ~なるほど。毎日遅刻だもんね、神ちゃん」


 早いなあだ名化が。でも、いいな。かみちゃんではなく、しんちゃん。

 気に入った、これから会う生徒会のメンバーにはそう呼んでもらお!


 「はい、神ちゃんです」


 「なに、気に入ったの?いいね!順応早い人は好きだよ~私」


 おおっ。これが男子を勘違いさせる女子か。

 あぶねぇ……。危うく告白して玉砕するところだった。


 「おーい神崎ぃ。飯行こうぜ!」


 廊下のほうから林が顔を出して、俺を呼ぶ。

 宮野さんもまだ昼飯を食べていないだろう。


 「悪いね、宮野さん」


 「いいよ~。……………………

 かんはや、はやざき、どっちかな?」


 許可を貰ったので林のほうへ行く。

 瞬間ブルッと寒気がした……なんだ?

 今、宮野さんのほうから……いや気のせいか。


 「どうしたよ?早く行かないと混むぞ食堂」


 「そうだな、急ごう」




 食堂は既に多くの学生で賑わっている。座る席をどうにか確保して、恒例のじゃんけんをする。


 「「じゃんけん……ぽん」」


 俺の勝ちだぁぁ!


 「じゃっ、行ってくるわ」


 「おーよろしく」


 昼時は席がすぐに埋まるため、このじゃんけんは席を確保しつつご飯を買いに行くための必要処置だ。


 ちなみメニューは負けたほうが選べる。そのため、普段の仕返しをここでしてくる場合もある。


 見ると結構長い列が出来ているので来るのはまだ先だろう。スマホを取り出して、適当にゲームを開く。時間つぶしには丁度いい。


 「なにをしてるんですか?」


 「ん?ちょっと前に流行ったゲー…ム?」


 誰と話してるんだ俺。


 声がした後ろを向くと近くに美しい顔があった。


 「うおっ、近いな次期生徒会長様」


 俺は思いっきりのけ反る。


 「すっ、すみません。少し気になってしまって」


 あぶねぇ、今日二度目の危機だった。マジで近すぎて触れそうだった。


 平静を装うために口を動かす。


 「それはいいけど、後ろから来ないでくれ。トラウマなんだ、それ」


 志藤先生が音もなく背後に回る人だからな。

 

 「トラウマですか。すみません、そうとは知らず……」


 「いいよ、冗談だから。それで気になったって?」


 「スマホの音が聞こえたのと、画面が少し見えまして……。勝手に覗いてすみません」


 「別にいいよ。見えたなら仕方ない。それより一ノ瀬さんってゲームするの?」


 「いえいえ、私はほとんどしません。あまり得意ではなくて…。ただ、生徒会の先輩方や書紀の紗季さんは、似たような画面のゲームをしていました」


 優等生のギャップを期待したんだけど、しないのかゲーム。

 でも、生徒会のメンバーにゲームの話が出来る人がいるのは朗報だ。


 「そっか……。それよりもいいの?友達呼んでるよ?」


 俺が見たほうを一瞬だけ見て、俺のほうに向きなおる。


 「そうみたいですね、ありがとうございました」


 礼を言うことじゃないと思うけど……


 去っていく一ノ瀬さんから目を離しスマホに視線を戻す。

 ありゃりゃ、ゲームオーバーか。


 スマホをポケットにしまって列のほうを見る。林がちょうど注文している所のようで、財布から金を取り出している。

 

 林が来るのを待っていると別人が歩いてきた。 

 あれ?一ノ瀬さんこっちに戻ってくるな、どうしたんだろ。


 「神崎君、明日以降一緒に働く訳ですし……よければ連絡先交換をしませんか?」


 座っている俺にスマホを見せるために少し屈む一ノ瀬さん。

 垂れてくる髪を耳にかけ、こちらを期待に満ちた眼差しで見つめてくる。


 髪を耳にかけながらなんて、癖に刺さることをォォ

 俺は敗北した…。


 「いいよ。……はい」


 「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね♪」


 いい笑顔だこと。あれは人気になりますわ。


 見惚れる俺を他所に一ノ瀬さんが、友人のほうに戻っていく。


 一ノ瀬さんの連絡先か……。

 嬉しいが……交換する場所を考えてほしかったな。


 「かーんーざーきぃ?どうやら死にたいようだな?」


 さて、逃げるか!








 


 



 


 


 


 


 


 


 



 

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