第6話

 次期生徒会長候補筆頭 現副会長 一ノ瀬葵

 長い黒髪が特徴的な同学年の女子生徒だ。

 世話焼きな性格で男女問わず人気がある。


 そんな大人物に俺は……

 

 「林デコイ行け!体当たりだ」


 当たり前のように林で攻撃をしようとしている。


 「神崎曰く。林デコイより蟻のほうが有能らしいぞ」


 神崎、なんて言葉を残してやがる。おかげで林デコイが使えんではないか。


 「神崎君。駄目ですよ、先生方を困らせることしたら」


 うーん、いい声や。

 優しく凛とした張りのある声。


 そんな声で、怒られたので話をそらす。


 「一ノ瀬さん、なんでいるの?」


 ……というかいつからいたんだ?


 「これから生徒会の一員として働いてくださると聞いて、挨拶に来ました」


 情報が間違っているな。俺はあくまで奉仕活動をするだけだ。生徒会に入るわけじゃない。


 「一ノ瀬さん、その辺の認識の違いは後日正そう。今日は生徒会室行けないし」


 「へっ?今日来てくださるはずじゃ……」


 まだ聞いてないみたいだ。まぁ、ここは先生に変わって伝えておくとしよう。


 「遅刻した罰で、放課後は校庭の草をむしる仕事があってね」

 

 「それで、逃げる作戦会議をしていたんですね」


 うわぁ、結構序盤から聞かれてる……。


 「そうそう。っと、そうだ一ノ瀬さん。こいつの代わりで俺が先に生徒会参加してもいいかな?」


 林め、ここぞとばかりに……。

 それに俺は生徒会に入るわけじゃないっての。


 「林君がですか……。男手が増えるのは嬉しいですが他の子が納得しないかと」


 プッ。断られてやがる。


 それにしても、さすが次期生徒会長だ。同学年の関りがない男子の苗字を覚えているなんて。


 「そっかぁ。やっぱ選挙でどうにかするしかないか」


 「そうですね、それなら他の子も文句は言えません。もちろん私も大歓迎ですよ♪」

 

 林の顔が赤くなっている。後で揶ってやろうと思いつつ…時計を確認する。


 さてと…次期生徒会長様には悪いが俺からの洗礼、意地悪の餌食になってもらおう!


 「なぁ。次期生徒会長様よ……」


 「その呼び方やめてください。まだ決まったわけでは……」


 時計を指さしながら、俺は悪魔のような笑顔を張り付けて


 「じ・か・ん。だいじょうぶ?」


 「っぅしっ、失礼しますっ///」


 一ノ瀬さんは頬を赤く染めて、急いで自分のクラスに戻っていった。


 「ケケッ、やってやったぜ」


 「お前……。あえてギリギリに教えるなんて、俺以上のクズだよ」


 林が何か言っているが、気にならないな!

 俺は今なら何でも出来る。


 チャイムが鳴る。皆が席に着いた後、号令が掛かる。


 いい気分で礼をして座ろうとしたら、先生に止められた。


 「神崎、ちょっと前に来い」


 呼ばれたら行かざるをえない。

 提出物関連かな……。


 「神崎、冬休み補習」


 「…………」


 「決定事項だから、諦めろ」


 俺は笑い声を背中に一身に受ける。ボケてこの笑いが来るなら嬉しいことだが、これは堪える笑われ方だ。


 「先生、慈悲は……」


 「ない!!あたしも補習はしたくないんだが、しないと進級できんぞ?」


 断言されて俺は力なく席に戻る。

 クツクツと後ろの席にいる林が腹を抱えて笑っている。


 さっきまでの全能感が消えてなくなってしまった。気分は最低……俺は無力だ。


 「一人補習が確定してしまったが、これ以上人数増えると面倒だから頑張れよ」


 先生による精神攻撃。

 神崎弘人の急所に当たった。

 神崎弘人に一万ダメージ。

 神崎弘人は静かに寝ることにした。


 「おい、神崎。補習確定の奴が寝るな!」


 「先生、俺はモチベーションがないです」


 「御託はいい、真面目に受けろ」


 最近の女性の先生って強いなぁ。俺、将来尻に敷かれたい!!


 「おい神崎、昨日俺に散々言っていたくせに似たようなこと考えるんじゃねぇ」


 お前やっぱエスパーじゃん。絶対心読めるじゃん……。


 なら、読まれないように寝るしかない!

 

 その後、先生に何度も起こされながら、四時間目を乗り切った。










 

 


 


 

 


 


 

 




 

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