第3話

 「先生。量が多いです!」


 放課後、俺と林は先生の仕事の手伝いとして教室に残っていた。

 そこで見せられたのは大量の紙の束だった。


 「でしょう?これを一人でやるの大変なのよ」


 「ですね。で、俺達は何をやればいいですか?」


 さすがに全部ではないだろう。それに生徒が見てはいけないものもあるだろうし、出来ることは限られているのだ。


 「そうねぇ。そこの書類をパソコンに入力していってくれる?」


 思っていたよりも簡単そうだな。さっさと終わらせて帰らせてもらうぜ。




 そう思ってましたよ最初は…。


 「なんだコレェ。全然終わらん!!」


 「そりゃそうよ、そもそも量が多いもの。それにすぐに終わるなら手伝いをお願いしたりしないわよ。」


 簡単そうだったのに……。数字の確認、誤字の確認、入力。この作業をすでに百回は行っている。


 繰り返しの作業で目と頭がぶっ壊れそうにも関わらず、まだ半分しか終わっていない。


 「でも、いきなりでこれだけ出来るのは凄いわ」


 「褒めていただき光栄です」


 ちなみ林はぶっ壊れた。眼の前の机の上でつっ伏している。(サボっているだけ)


 「はやしぃぃぃ!無事か?」


 机に顔を伏せてブツブツと呟く林の肩を揺する。


 「神崎っ、俺は、生徒会ハーレムを築きたかった……。だが、それはもう叶わない。おまえに俺の夢を託す……頼む、叶えてくれっ!」ガクッ


 「そんなっ、林、まだ逝くな。林!おい林!」


 そんなやり取りをしたのが十五分ほど前のことだ。


 「林君、まだ残っているから起きて頑張って」


 先生からのありがたい激励の御言葉がかかる。


 「林は死にました。俺は早死です」


 「おもんねぇ。そんな事言う暇あるなら、起きて働け早死。」


 「神崎。終わりが見えないことは怖いことなんだ。俺は今恐怖している隣に置かれた紙の束に。」


 何をわかりきったことを……。

 それは俺も同じだ。


 「だが林。俺等には終わりがある。約束は二時間だ」


 俺の言葉に志藤先生が不敵に笑う。


 「フフッ。神崎君には、明日も手伝ってもらおうかな?」


 その先生の言葉に俺は顔を上に向けて……


 「林。どうやら俺のほうが先に逝くらしい。」


 林は顔を上げて……


 「神崎……任せろ骨はちゃんと先生に届けてやるから」


 林が涙ぐみながら約束を果たすと誓ってくれた。


 「あぁ、任せた!」


 お互い拳を合わせる。

 約束はここに、さぁ逝こうか。


 だが……


 「林君も明日やりたい?」


 先生のにこやかな笑顔の圧がかかる。


 「……神崎、すまねぇな。俺は降りる。」


 なにっ?!林、まさか貴様誓ったばかりの約束を破る気か?


 「俺には生徒会ハーレムを築くという目標があるからな。今死ぬわけにはいかない!!」


 「はやしぃぃぃ!貴様ァそれでも、漢かぁぁ!」


 「あぁ、男さ!……だから、だから欲に従っているんだろうが!」


 「貴様は下半身に従っているだけだぁ!!」


 さっきまで伏せていたのが嘘のように元気な林を見て、突然俺は人が変わったかのように言う。


 「フッ、休憩は十分なようだな?」


 「なにっ?…………」


 突然豹変した俺の態度に困惑する林。そして俺がニヤリと笑った顔で横目で先生を見る。


 「まさかっ……!」


 「気づいたか?だが遅い!!」


 時計を指差す。なんと始めてから一時間しか進んでいないのだ。


 元気な姿を先生に見られた以上同じやり方でサボるのは通じない。つまり…働くしかない。


 「嵌めやがったなぁ神崎ぃ!」


 「フハハハ!一緒に墜ちてもらおうか!」


 このあと俺と林が滅茶苦茶頑張ったのは言うまでもない事だろう。


 


 




 

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