第2話

 化学室の前まで来た。化学の授業だからか、中からはざわざわとした声が聞こえる。


 ガラガラと音を立てながら古いドアを開ける。


 途端ざわざわとした教室内が一瞬で静まり返る。

 先生を含んだ全員がこちらを見ている……。


 何回経験しても恥ずかしい時間だ。

 キャッ///ハズカシイ。


 そんなことはいい。遅刻の紙をもって先生のもとに行き、先生に紙を渡す。


 「すみません。寝坊で遅刻しました」


 「はいはい、っと。じゃあ、あそこの奥の席に座って」


 そう指示を受けて言われた通りの席に着く。

 その四人机の席には友人が一人、ニヤニヤした顔で座っていた。


 「神崎~遅刻の理由は?」


 「聞いて驚け!アスファルトの上で死にかけていた虎を助けてきた」


 「そりゃすごい。そのまま食われていたら、学校に来ずに済んだのにな」


 いつも通りの対応をすると、いつも通りの対応を返してくる。


 「そこ!遅刻してきたんだから真面目に取り組みなさい!」


 「うす!すいやせん、姐さん」


 先生の注意にすぐさま謝罪すると友人が目の前で笑った。


 「お前だけだよ……。志藤先生にそんな態度出来るの」


 俺のふざけた謝罪に呆れて先生は授業を再開する。

 志藤先生は真面目だ。けれど愛嬌や生徒の趣味に理解もあって人気の先生だ。 


 風の噂によるとファンクラブもあるとか……。

 

 「なぁ、志藤先生さファンクラブあるらしいな」


 「俺も聞いたことあるな!噂によると志藤先生に舐めた態度を取っている神崎って男子生徒は死すべきらしい」


 「まじかぁ。もし俺が死んだら骨は志藤先生に届けといてくれ」


 「キモ過ぎる。塵ひとつ残さず、今殺すべきかもしれん」


 怒られたばかりなので声のボリュームを抑えて話す。

 それにしても物騒だ。友達とファンクラブ会員から命を狙われるなんて。


 「それで。お前大丈夫なのか?進級」


 「それがな。ついに、田中先生に見捨てられた」


 「ぷっ。ドンマイ」


 静かに笑うの上手いなこいつ。

 肩が上下しているから笑ってはいると思うが……。


 「あーっ腹いてぇ。やっぱ最高だよお前。で?お前の身柄は誰先生に受け渡されるんだ?ついに高崎先生か?」


 高崎先生は体育の教員で体がでかいため威圧感が半端ない人だ。誰に対しても基本優しいが、今では俺に対してとにかく厳しい先生だ。


 「嬉しいことに違う」


 「はっ?……じゃあ校長か?」


 校長ねぇ……。あの人はあの人でいい先生だが癖が強いからな。できれば俺は関わりたくないタイプだ。


 「違うんだなぁこれが…」


 「まじか。お手上げだ、答えは?」


 「生徒会」


 答えた途端友達の顔が固まる。拳を握りしめるのを、俺に見えるように机の上に手をのせて見せてくる。


 「悪い……。聞こえなかった。もういちど、もう一度言ってくれ」


 「ああ。俺は生徒会に受け渡しされるらしい」


 「そうか……。死ね!」


 拳が飛んでくる。予備動作はあったので反応は出来た。どうにか飛んできた拳を掴む。

  

 「俺はお前を最高だと言ったな?あれは今撤回する!」


 椅子から立ち、距離を取ることで第二の拳をよける。


 周りの視線が集まっているが、命のほうが大切だ。早急に目の前の猛獣の説得を試みないと……。


 「オチツケ オレガ カノジョタチト ナカヨクナル オマエ カイワ サンカデキル チャンス ウマレル」


 「フー フー …………その言葉に偽りはないな?」


 「あぁ。約束しよう」


 「やっぱりお前は最高だ!」


 手のひらがクルックル回るな。さっきまでの殺気のこもっていた目が、今は尊敬の眼差しを向けてきている。


 「フッ。だろう、俺に任せろ!」


 俺は胸を張り、頼もしそうに答える。


 「そう……。なら任せようかしら?今日の放課後は二時間みっちりと、私の手伝いをしてもらおうかしらね、神崎君」


 先生貴方いつの間に背後に……。


 「先生……。こいつも一緒にお願います!」


 「なっ、神崎てめぇ」


 怨めしそうに睨んでくるが、残念ながらお前より先生の笑顔のほうが怖いんだ。

 それに共犯だろう?今回は。


 「そうね、林君?お願いね」


 「はっ、はい。誠心誠意手伝わせて頂きます!」


 ビシッと姿勢が良くなる林。そうか、お前も負けてしまったか。その笑顔に……。


 


 



 


 


 


 

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