~もうすぐ終わり~ 創造主と連絡先

 目が覚めるとそこはいつものリヒトの部屋だった。

 カーテンの隙間から差し込む細い光が朝の到来を告げている。

 一人暮らしの狭い部屋で、身支度を整えて出社しようと身を起こしたところでリヒトは異変に気付く。固い感触を感じて手を開くと、人差し指に指輪。あの時、月と地球を吹き飛ばした神の道具。

 恐る恐る指輪を指から外す。少し考えた末にリヒトは指輪にチェーンを通して首から下げることにした。これなら誰かに盗まれることも間違って使ってしまうこともない。


 あの時、地球を破壊する前にリヒトはまひろに再生を願った。自分が破壊してしまったもの、破壊してしまうもの、それら全ての再生を。そして自分の地球への帰還と、今の現実を夢としてしまうことを。


「わかったよ」


 まひろはリヒトの多すぎる願いに簡単に頷いた。


「本当に出来るんだよな?」


 とは聞かなかった。

 素朴な笑顔で肩の小さな猫と戯れる神様女子高生を、リヒトは全面的に信じることにした。自由で何でも出来る神様が嘘を付く理由なんてどこを探しても見当たらなかった。


「その代わり、私の願いも聞いて欲しいんだけど」


 上目遣いにリヒトを見つめてまひろはそう言う。


「なんだよ。神様に願い事なんてあるのかよ。なんでもできるんだろ?」


「『なんでも』、じゃないんだなあ、それが」


「え?そうなの?」


 ちゃんと俺が壊す地球を再生できるんだろうな―。リヒトがそう言葉に出す前に、まひろが言った。


「私、戦っているんだよね。ずっと。なかなか手強い相手でさ。きっとこのままだと負けちゃうんだ。だから手を貸して欲しいんだ、リヒトに」


「戦っている?神様ならどんな相手でも瞬殺だろ?」


「それがそうも行かないから困っている」


「どんな相手?」


「創造主」


「ソウゾウシュ?」


 リヒトは鸚鵡返しに呟く。宇宙空間で女子高生と会話して驚く限界社会人。なんだこれ。


「そう。創造主。創造する、主。私を創ったのも創造主」


「そんな人がいるのか」


「人じゃないよ。神でもない。でも人にも神にも似ている。私の生みの親であり、私を今の私として定義した存在」


「どこにいるんだよ、そいつ。っていうかそんなやばい奴との戦いに俺なんか役に立つのか?まひろだって叶わないんだろ?」


「リヒトの力は頼りになる。ううん、力というよりもその存在と人格が、というべきかな」


「存在と人格・・・?」


「うん。あと最初の質問に答えるとすると、創造主はどこにでもいるし、いない。ここにもいるし、いない」


「・・・意味がわからない」


「今はまだわからなくていいよ。時が来たら連絡する」


「・・・どうやって?」


「あ、なんか今、期待した?女子高生と連絡先交換できるんじゃないかーなんて」


「し、してねえよ!」


 けらけらと笑うまひろは年相応に幼くて、屈託ない。でもそれはリヒトには少し危うくも見えた。なにせ彼女は世界を簡単に滅ぼしたり再生したり出来る力を持っているのだから。


「冗談。私、神様なんだよ?時が来たら、わかるように連絡する」


「・・・わかった」


 拳を突き出すまひろ。その拳にリヒトは自分の拳を合わせる。漆黒の空間でそこにだけ温かい何かがあった。


「さてと」


「やりますか!」


 向き合うのはどでかい地球。叩き潰しがいがある存在。


「せーのっ!」


 振りかぶったリヒトはありったけの力を込めて、地球に拳を叩き込む。

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