~その続き~ 女子高生@神様
「や。お兄さん大丈夫?」
「え?ああ、大丈夫・・・じゃ、ないかな」
今どき珍しいセーラー服姿。髪は黒々していて肩までの長さ。目はくりくりしていて表情豊かだ。肩に小さなグレーの猫を乗せている。普通の猫よりも遥かに小さい。あんな猫いるんだ、って驚く。
「この子はマチス。珍しいよね、こんな小さな猫」
その言葉に当のマチスがニャアと小さくないて応える。賢い猫だ。
「―確かに、大丈夫じゃなさそうだね。こりゃ大変だ」
まひろ@神様と意味不明の名乗り方をした女子高生は、倒れているゴブリン鈴木に手をかざすと、年相応のいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「お兄さん、どっちがいい?」
「え?」
「お兄さんに選ばせてあげる。一、このおっさんの傷を治して今日のことも全て忘れてもらう。二、何の証拠も残さずにこのおっさんを跡形もなく消す」
「二番」
即答した。
自分は一番って言えるような偽善者じゃない。
「分かっていると思うけど、この人のような人間はこの社会にはいくらでもいる。その人がまたお兄さんの前に現れて似たようなことをするかもしれない」
「消して」
「この人だって社会の役に立っている一面だってあるかもしれない―」
「二番!」
「この人が消えても、君が変わらなきゃ―」
「っていうか本当に消せるの?適当言っているだけでほんとはできないんでしょ?」
リヒトの言葉に、まひろはむすっとした顔でかざした手をくんっと握る。するとゴブリン鈴木はかき消すように消えた。リヒトはほっと胸を撫で下ろす。この神様、わりとちょろいな。
「はいはい、よかったね―嫌いな人いなくなって」
「まじで、まじでよかった」
気がつくと目に涙が滲んでいた。そんなリヒトを見てまひろはちょっと驚く。
「―本当に嫌だったんだね」
「ほんっっっとうに嫌だった」
ふーっと一息つく。
罪悪感よりも安堵感の方が遥かに勝っている。ゴブリンを倒した戦士も同じ感情なのだろう。
でも、まひろの言うとおりだ。
こんな人が世の中にはいくらでもいる。そしてこれからの人生で、そんな人にまたエンカウントするのかもしれない。ゴブリンとエンカウントしたら倒せばいい。でもこの国の社会ではこういう人とエンカウントしても、倒すことは許されない。なんとか距離を取って生きていくしかない。
「あほらしいなあ。なんでこんなに生きるのが大変なんだ・・・」
手で顔を覆うリヒトの前にまひろがしゃがみ、ふむ、と一つ頷く。
「お兄さんは今のこの世界や社会が嫌いなんだね」
「好きな奴いるのか?こんなに生きにくい社会」
「じゃあ別の世界に生まれ変わる?社会のルールがもっと単純な、剣と魔法と力と頭脳がものを言って、話が通じる人たちの多い世界に」
「―そんなことできるのか・・・?」
その提案はリヒトにはとても魅力的に聞こえた。
「神様だからね。なんでもできる。ついでにお兄さんには最強クラスのスキルをセットして生まれ変わらせてあげるよ。神様の気紛れだよ?感謝してよ?」
勝ち誇るまひろ@神様。っていうか@ってなんだよ。
「―やっぱいいわ」
「え?まさかの神様の好意、全否定?」
胸を押さえてリアクションを取るまひろ。その仕草にリヒトは思わず笑ってしまう。
「そんな最強クラスのスキルを持っちゃったらもう、俺じゃないよ。俺は俺でいたいから、いらない」
「でもいまのまま転生したら、たぶん半日で屍の仲間入りだよ?あ、でも運がよければアンデッドとして生きられるかもしれないな―」
ゾンビリヒトっていう言葉が脳裏に浮かぶ。案外、悪くない響きだ。
「いいよ、転生なんてしなくて」
「―じゃあ、どうするの?」
「この世界で生きていく」
結局それしかないのだろう。ふーっと一つ溜め息をつく。
「こんな糞ったれな世界や社会なんて、俺が叩き伏せる。打ち砕く。それだけの力を身につける。そして、この世界や社会自体を作り直す。途方もない話だけど、それが俺の結論」
遥か前から辿り着いていた結論。結局、抗ってもがき続けるしかない。
「わかったよ」
「わかってくれてありがとう」
「お兄さんも大胆だね。そんなに大きなことを考えるなんて」
「そうかな。当たり前の結論だと思ったけど」
ううん、とまひろは首を横に振る。
「私も長く生きているけど、そこまでのことを考える人にはなかなか出会えない。大きな望みが叶えられるかどうか、そこに神様としての器量がかかってくるんだ。だから私も最大限、協力するよ」
目をキラキラと輝かせながらまひろは立ち上がり、拳を握る。お兄さん名前は?と聞かれて今さらながらにリヒト、とこたえる。こたえながら何かおかしいと感じる。この神様、俺の言っている意味をわかって―。
「じゃあ、さっそく望みを叶えようか」
そう言うとまひろはリヒトの腕を掴む。突然、世界が暗転し、気付いたらリヒトとまひろは漆黒の宇宙に佇んでいた。
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