第6話
「話を聞いてもまだ思い出せないのだけど、そのとき告白の返事はされた?」
「いや、その前に事故に遭ったと思う」
「じゃあそれが心残りなのかもね」
ふふ、と蓮見は嬉しそうに笑った。夏の太陽光が彼女の笑顔をすり抜けてきらきらと輝いている。
「事故に遭ったのがそんなに嬉しかったのか?」
「なわけないでしょ」
呆れるようにため息をつきながらも、彼女の口元から笑みは消えていない。
「私ね、運命なんて信じてないの」
今朝と変わらぬトーンで蓮見は主張した。
「仮にご近所に生まれて幼稚園と小学校で同じクラスまでは運命だったとしてもよ。だから中学校も同じでしょなんて呑気に信じられる? それでいざ離れちゃったら最悪じゃない。リスキーだわ」
信じる者は救われるとも、掬われるとも言う。
どちらにも転ぶなら信じる価値は無いと彼女は斬り捨てた。
「だから私がんばることにしたの。考えてみて。高校や委員会がたまたま一緒、なんてこと本当にあると思う?」
言われてみれば確かにそうだ。
高校も委員会も学内行事の担当も自由選択。避けようと思えばいくらでも避けられる。
いつも蓮見が隣にいることは僕にとって当たり前のことで、あまり深く考えてはいなかった。
けれど彼女はずっと考え続けて、動き続けていたのか。運命なんてものに頼らずに。
「川越くんが私を呼び出したせいで巻き込んだと思ってるなら、謝らなきゃいけないのは私のほう。私を呼び出すよう仕向けたのは私だから」
ごめんなさい、と蓮見は謝罪した。
風が吹き、地面に置かれた花束が揺れる。くしゃりと包み紙が音を立てた。
「でも事故に遭ったのは不甲斐なかったわ。油断したんでしょうね。きっと頭の中がいっぱいで、周りなんて見えなかったんだと思う」
ゆっくりと顔を上げた蓮見は満面の笑みを浮かべていた。僕は思わず見とれてしまう。自分の人生が終わったというのに、そこには一片の後悔も見当たらない。
これまでのすべての努力が報われたかのような清々しい表情を浮かべて。
ずっと傍にいてくれた彼女は、僕に一日遅れの答えを差し出した。
「ありがとう。夢が叶ったわ」
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