最終話 新たな道を歩む二人 1
一度はバラバラになった『絆』という欠片を、二人でまたかき集めて一から積み上げていくことを選んだ俺達。
今まで通り…… とはいかないだろうが、いつかお互いに心から許せる日が来るまで前を向いて歩いていくつもりだ。
そして、思い出の公園でしばらく抱き合って泣いていた俺達は、とてもじゃないが人前を歩けるような顔をしていなかったと思う。
特に愛梨は張り詰めていた心の糸が切れたのか、腰が抜けたように動けなくなってしまい、俺におんぶされながら俺の元実家まで帰る羽目になった。
それくらいは構わないのだが、おんぶしているうちに疲れていたのか寝てしまい、その日は仕方なく元実家の、今は仕事場の休憩室として使っている元俺の部屋に泊まっていくことにした。
一応仮眠が出来るように俺の使っていたベッドは残っていたから良かったが、なんせシングルのベッドだから愛梨一人しか寝れない。
なので押し入れから敷布団を引っ張り出そうとしたのだが……
「シュウ…… お願い…… 一緒に寝て欲しい…… 寂しいよ……」
寝惚けた愛梨がベッドの上で泣きながら言ってくるので、狭いが一緒に寝ることに……
……………………
『うふふっ…… 狭いね……』
『だから俺は布団で寝るって言ったのに』
『ううん、こうして…… シュウにギュウってされながら寝たかったの』
『愛梨がいいなら…… いいけどさ』
『ねぇ…… ずっと…… 離さないでね?』
『……えっ?』
『すぅ…… すぅ…………』
『寝てるし……』
……………………
「……ごめんな、もう絶対に離さないから」
「…………」
愛梨が専門学校に進学する前、泊まりに来た時の言葉を今思い出すなんて…… これからはちゃんと離さないようにするから…… 許してくれ、愛梨。
◇
私は許されないことをした。
シュウを裏切り傷付けた。
もうこんな私なんか死んでしまえばいいとすべてを諦めていた…… でも、シュウのそばから離れるのが怖くなった。
だからみっともなく縋り、泣きついて、その時を引き延ばしていたが、シュウに旅行に行こうと言われ、もう終わりが来たんだと思った……
これが最後の旅行…… シュウとの…… 人生の……
だけど、思い出の地を巡っていくうちに、二人で歩んできた懐かしい記憶が蘇り、まだ生きていたいと思ってしまった……
大切な人を酷く傷付けた、私なんかが……
だけど……
シュウはこんな私のすべてを包み込んでくれた。
そばに居て欲しいと言ってくれた。
……許されるまでどれだけかかるか分からない、もしかしたら一生償っても償い切れないかもしれない。
それでも…… シュウは私を抱き締め『やり直そう』と言ってくれた……
でも、やり直すには沢山乗り越えなければならないことがあると思う。
そう簡単にはいかないのも分かっている。
それでも前を向いて歩いて行くなら二人でちゃんと話し合わなければ進めない……
でも…… ごめんなさい……
今は…… 今だけは…… シュウの腕の中で眠らせて下さい……
大きく包み込んで、離さないと言ってくれた最愛の人……
その温もりに包まれながら、私は眠りについた。
◇
そして二週間くらい経った頃、俺達は水子供養をしに行く事にした。
必要かは分からなかったが、愛梨の心の負担を少しでも減らしたかったから俺が提案した。
近くで水子供養をしてくれる寺を探し、そして愛梨と二人で手を合わせ、俺達の罪を許してもらえるよう祈った。
「ありがとう…… シュウ…… ごめんなさい……」
「謝るなよ…… 俺達が決めた事だろ?」
「うん…… ありがとう……」
背負うと決めたんだ…… 誰に何と言われようと。
そして、俺達のその後の生活は……
時々フラッシュバックで泣き出す愛梨。
俺自身もフラッシュバックにより息苦しさや動悸などを感じたりもするし、それに…… EDになってしまい反応しない。
なので俺達は一緒にカウンセリングを受けてみることにした。
そしてカウンセラーと一対一や、愛梨も一緒に三人で話をして、通っているうちにお互いの何が問題だったのかを少し理解することが出来た。
やはり一番の問題は高校時代最後のあの別れで、お互いにそれが強くトラウマのようになってしまい、お互いに上手く本音を話せない状態にあったみたいだ。
選択を間違えて、失うことが怖くなって臆病になり、結果また大きく間違えて……
特に愛梨はそのトラウマの影響もあって専門学校時代や不倫中、簡単に言うとマインドコントロールを受けていたような状態になっていたみたいで、その事も心の傷の原因の一つになっていたらしい。
だからか…… 愛梨の話の内容や不倫旅行前の様子が変だったのは。
そしてとにかく焦らずゆっくりと、無理しないでお互いにきちんと向き合うようにとアドバイスされた。
なので家にいる時にはお互いを安心させるために極力そばにいたり、気になる事はきちんと解決するまで話し合い、寝る時も離れないように一緒に寝て、とにかく心の傷を癒すように生活をする事を心がけていた。
あと…… 旅行以来、澤田からの連絡は一切ないみたいだ。
もし、もう一度愛梨の前に現れるような事があったら、愛梨を専門学校時代からぞんざいに扱ってたくさん傷付けた責任を取らせようと色々準備をしていたのだが、澤田は結局姿を現すことはなかった。
俺は絶対に許すつもりはないが、また澤田と接触して愛梨が精神的に不安定になってしまう可能性があったので、今はお互いの心の傷を癒すのを最優先にしている。
その間に澤田が病気で死ぬかもしれない。
それならそれでいい…… もう愛梨の前に姿を現さないのなら。
そんな生活を続けて一年、フラッシュバックの回数も少しずつ減り、やっと他愛のない話で笑い合えるようになってきた。
笑顔も少しずつ増え、愛梨の目もあの頃のような、光のない暗い目ではなくなった。
だがEDの方は深刻で、色々と試してみたがまだ治ってはいない。
愛梨と裸で触れ合うことは出来るようになったのに……
「シュウ…… ごめんね?」
「いや、愛梨のせいではないよ…… なあ、もう少し抱き締めていてもいいか?」
「うん…… 私もシュウとこうして抱き合ってると…… それだけで凄く幸せだから」
俺も幸せだが『申し訳ない』そんなプレッシャーで余計に…… なんだろうな。
それでも、少しずつゆっくりと、俺達は再構築の道を歩いている。
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