愛梨と秋司


『古江! こっそりお菓子食べようぜ!』


『が、学校にお菓子持ってきてたの!? ……駄目なんだよ?』


『古江とお菓子パーティーしようと思って、昨日駄菓子屋で買っておいたんだ! ほらほら、好きなのを選べよ!』


『駄目なのに…… でも、うーん、これかなぁ?』


『おお、さすが古江! お目が高い! それ、俺も好きなんだよ』


『じゃあ…… 半分こ、する?』



 ……………………



『暑いねぇ…… うふふっ』


『じゃあ離れるか?』


『イヤっ! ……くっついてたいの!』


『はぁ…… 体育があったから汗かいてるぞ?』


『んふふっ、いいの……』


『愛梨がいいならいいけどさ……』


『もうすぐ夏休みだね、どこ行く?』



 ……………………



『ふぅ…… で? 話って何?』


『愛梨…… 許してくれよ』


『喧嘩をしたからって、この公園に連れてきて…… 私が許すと思うの?』


『だって…… 俺達の思い出の公園だろ? ここでなら許してくれるかなぁって……』


『ふん! そんな簡単には許してあげないんだから!』


『愛梨が楽しみにとっておいたケーキを食べちゃってごめん! 許して!』


『……ケーキバイキング!』


『……へっ?』


『今度の休みにケーキバイキング連れてってくれたら許してあげる!』


『わ、わかった! 絶対連れていくから!』


『うふふっ、もう、シュウはズルいよ…… この公園には私達の思い出がいっぱいあるから…… 怒るに怒れなくなっちゃうよ…… それを分かってて連れてきたんでしょ?』


『ははっ…… いやぁ、愛梨が滅茶苦茶怒ってたから…… 謝るならここかなぁって思ってさ』


『うふふっ……』



 ……………………


『……じゃあ付き合っちゃう?』


『ふふっ、何それ…… じゃあ付き合っちゃおっか』


 ……………………


『……愛梨を愛してる、ずっと一緒に居て欲しい ……俺と結婚してくれ』


『はい! よろしくお願いします…… うふふっ、私…… 凄く嬉しい、私も愛してるよ…… シュウ』


 ……………………





 大した遊具もない小さな公園。

 入り口以外は目隠しになるように俺の身長くらいの植木がある、何の変哲もない公園だ。


 だけど、中学、高校の下校時や、社会人になってからも懐かしさから何度か訪れては、愛梨との思い出を作ってきた、俺達にとって大切な場所。


 そして俺達は手を繋いだまま、公園にあるベンチに腰掛けた。


「…………」


 ここに来ると必ず公園内のベンチに座り、二人で色々と話していたな……


「……なぁ、愛梨」


 俺が声をかけると愛梨の身体がビクッと反応した。

 少し震えていて怯えているみたいだ……


「もう出会って十年経つんだな…… 俺達」


「……えっ? う、うん、そうだね……」


 色々…… 本当に色々あった……


「俺と一緒に居て、楽しかったか?」


「……うん」


「幸せだったか?」


「…………うん、凄く…… 幸せだったよ」


「そっか…… 俺も凄く幸せだった」


 ……でも、そんな楽しくて幸せな日々も壊れてしまった。


 バラバラに、粉々に砕けてしまった……


「…………シュウ、ありがとう」


「愛梨……」


「もう私達……」





 砕けてしまった…… けど、その欠片は残っているんだ。


 欠片を一つ一つ拾い上げてよく確かめてみると、しっかりと形が残っていて、それ以上どんなことをしても砕けない……  とても強固な欠片だった。


 今まで俺達はその欠片を沢山積み上げて、より強固なものにしてきた…… でも、ちょっとしたことで傷付き、その傷は長い時間をかけて少しずつ大きくなり、衝撃を受けて一気に崩れてしまった。


 そして、沢山積み上げたその中の一つだけ…… 、信頼という欠片が壊れて粉々になり使えなくなった。


 じゃあその一つのために全部を捨てなければならないのか?


 いいや…… その一つは新たに作り直せばいいだけだ。

 

 どれだけ時間がかかるか分からない。

 でも、足元には形が綺麗に残っている欠片は沢山ある。


 一つなんてすぐに補えるだけの、強固な欠片が……


 その無事な欠片をまた積み上げているうちに、砕けて無くなってしまった欠片は形を変えてまた新しい欠片として生まれ変わり、もしかしたら今までよりも高く積み上げられるかもしれない。


 それなら……





「愛梨…… 俺達、やり直せないかな……」


「……えっ?」


「どれだけ悩んで苦しんでも、やっぱり俺は…… 愛梨を愛してるんだよ……」


「シュウ……」


「愛梨が信頼を失くしたと思っているだろうけど、最初に失くしたのは俺だよ…… 俺達の未来のために道を選んだ愛梨の…… 道を断ってしまった、俺を信頼して選んだ道だったはずなのに、俺が逃げて信頼を失くしてしまったのが始まりだ」


「だからそれはシュウのせいじゃないよ……」


「だから、俺も信頼してもらえるよう必死に頑張るからさ…… 愛梨、許してくれないか? バカだった俺を……」


「シュウは悪くない!! 悪いのは全部…… 私なの!!」


「愛梨…… 今までごめん…… もう一度…… 一からやり直して欲しい……」


「うぅっ…… わ、私なんかじゃ…… ダメだよぉ……」


「いいや、愛梨じゃなきゃダメなんだよ」


「私…… シュウを裏切ってたくさん傷付けた……」


「うん、俺も愛梨を傷付けた、だからおあいこにしてくれないか?」


「それに…… 汚れちゃったよ……」


「汚れてなんかないよ、もし愛梨が汚れていると思っているなら俺が綺麗にする、ピカピカになるくらい綺麗にするから」


「うぅっ…… 母親になる資格も……」


「愛梨がそれを罪と思うなら俺も同罪だ、一緒に償っていこう」


「私…… バカだから…… また間違えちゃうかもしれない…… だから……」


「今度からは一緒にとことん話し合って間違えないように確認しよう、俺も間違えると思うから…… しっかり見ていてくれ、ずっとそばで……」


「うぅぅっ…… シュウ…… どうして? いつも、シュウは優しすぎるんだよぉ…… 私のことになると…… 特に……」


「愛梨だってそうだろ? いつも俺のことばかり優先して…… 今度からはお互い、自分も大切にして過ごしていこう、だから…… 愛梨、俺のそばにずっと居てくれ…… 愛梨が居ないと…… 俺は駄目なんだよ、愛梨と一緒じゃなきゃ……」


「あぁぁ…… シュウ…… わ、私もぉ…… ぐすっ、シュウじゃ、なきゃ…… 駄目、なのぉ…… ごめんねっ…… ごめんねぇぇっ…… 許してぇ…… 私も、ずっと…… 一緒に居たいよぉぉ…… シュウぅぅぅっ…… 許してぇ…… うぅぅぅっっ……」

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