愛梨との思い出 2
来た道を少し戻り、別の道へと曲がり真っ直ぐ行くと、俺達が通っていた中学校が見えてくる。
中学校から近いし、通学するのにあまり距離が変わらないからという理由で選んだ高校だったので、通学路は大して変わらない、だけど……
……………………
『古江、今日も勉強教えてくれー!』
『あっ、黒田くん…… いいよ、またうちに来る?』
『やった! へへっ、じゃあ…… また古江の作った動画も見せてくれよな』
『う、うん…… そんなに面白くはないと思うんだけど…… 恥ずかしいなぁ……』
『何言ってんだよ! 動画のことはよく分からないけど、古江の動画は綺麗で感動的なんだ! よっ、古江、天才! ブラボー!』
『や、やめてよぉ、それ…… ほら、声が大きいから周りの人がみんな見てるから……』
『古江は恥ずかしがり屋だもんな! はははっ』
『黒田くんは分かってていっつも大きな声を出すんだから……』
『俺は古江が凄い奴だって宣伝してるんだよ!』
『だからそれをやめてって…… はぁっ、そんなに褒めてくれるの黒田くんだけだよ? 誰も私の動画なんか興味ないんだから……』
『古江! 古江の動画は凄い! 自信を持て! 諦めるな! 勝負はまだこれからだぞ!』
『私…… 誰とも戦ってないよぉ……』
『えっ? そうだったっけ? あははっ!』
『もう…… ふふふっ、黒田くんって面白いね! ……ありがと、私を励ましてくれてるんでしょ?』
『おーい古江、何してるんだー? 早く行かないと遅刻するぞー』
『いない!? ……あぁ、待ってよ黒田くーん』
……………………
「…………」
ふと横に居る愛梨を見てみると、何を思い出しているのか、真っ直ぐ前を見つめているが、その目にはきらきらと輝くものがうっすらと見えた。
愛梨は何を思い出していたんだろう……俺と歩いた道を…… 出会ってからこれまでの…… 二人で歩んだ道を辿って。
そして道が少し細くなった住宅街を抜け、大きな通りに出ると見えてくるのが……
「変わってないな、ここは……」
「そうだね…… 本当に……」
俺達の出会った中学校だ。
愛梨とは小学校は別だったし、あの文化祭まで俺達は、学年は一緒だったが接点はなかった。
だけど、それでもここには沢山の思い出がある。
初めて愛梨と話した日。
その日に一緒に帰って愛梨の家に行って動画を見せてもらった。
最初は俺が一方的に話して、愛梨は恥ずかしそうに頷くだけ……
でも、学校で顔を合わせれば挨拶をし、また動画を見せてもらう約束をして…… 気付けば愛梨と一緒にいる時間が増えた。
登下校を一緒にして、二人で受験勉強をして、その他に二人で遊びにも行ったな……
色々思い出があり過ぎて、ただ歩いているだけで思い出してしまう……
俺がふざけているのを困った顔をして聞いている愛梨。
俺に褒められて恥ずかしそうに笑う愛梨。
話していて、からかい過ぎて怒ってしまった愛梨。
ちょっとした喧嘩をして泣きそうな顔をしていた愛梨。
そして…… いつも隣で笑ってくれていた…… 愛梨。
楽しい時、辛い時、俺の隣にはいつも愛梨が居た……
それが…… その思い出は…… 今ではバラバラに壊れてしまった……
「静かだね……」
「学校は休みだからな……」
「シュウ…… もう帰ろう?」
少し目元の化粧が崩れている。
きっと涙を指で拭った時に滲んでしまったんだろう。
「……そうだな」
そして俺達は来た道を引き返し、俺の元実家の方へと向かい歩き……
歩いていると先の道が十字路になっていて、左に曲がれば俺の実家やそれを通り過ぎれば愛梨の実家もあり、右に曲がればさっき行った高校がある。
来た道を戻るなら左だが、でも俺は愛梨と手を繋いだまま、十字路を曲がらず真っ直ぐ進んだ。
「えっ……」
「…………」
愛梨もここを真っ直ぐ行けばどこに着くか分かっているはずだ。
……………………
『ふふっ、黒田くん、今日体育でサッカーやってたのを見たよ』
『えっ? 授業も聞かないでサッカー見てたのか!? 古江、ちゃんと先生の話を聞きなさい!』
『そうじゃなくて! 黒田くん、ゴールを決めてたから…… 凄いなぁって、褒めてあげようと思ったのに!』
『あれを見てたのか!? あの、伝説になりそうな俺の素晴らしいシュート……』
『ふふふっ、凄かったね…… 顔、大丈夫?』
『えっ!? な、何の事だ!? 素晴らしいヘディングシュートだっただろ!?』
『黒田くんよそ見してたでしょ? 目が合ったような気がしたんだけど、気のせい?』
『…………あっ、古江! 丁度良い所に公園があるから寄っていかないか?』
『誤魔化した…… って、昨日もこの公園に寄って帰ったよね?』
『いいからいいから、どれくらい丁度良いか見に行こう!』
『ふふふっ、もう、誘うの下手なんだから…… 待ってよ黒田くん!』
……………………
愛梨と少しでも長く居たくて寄り道した公園…… 俺達の大切な思い出がいっぱい詰まった…… あの公園がある。
「愛梨、丁度良い所に公園があるから寄っていかないか?」
「……シュウ」
「……どれくらい丁度良いか見に行こうか」
「うふふっ、うん…… いいよ」
そして、色々な想いが溢れてきそうなのを必死で抑えながら、俺達は公園へ入っていった。
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