愛梨との思い出

 親父に頼んで、貰った休みは一週間で残りはあと今日と明日だけ……


 オムライスを食べている途中に泣いてしまった俺に、愛梨は何も言わず少し涙ぐみながら寄り添ってくれた……


 背中をさすり、手を握って…… でも、やはり遠慮がち。

 

 寝る時にはまた抱き合うように眠ったが、朝起きると悲しそうな顔で俺を見つめている愛梨と目が合った。


「おはよう」


「……おはよう」


 そして俺が愛梨の顔をジッと見つめると、目を逸らしながら起き上がり、ベッドから降りて寝室から出ていった。


 仕方ないよな…… それよりも今日は…… 




「愛梨、だいぶ暖かくなってきたし、今日は散歩しに行かないか?」


「……えっ?」


「ほら、行くぞ、愛梨も少しは外に出た方がいい」


「わ、分かったよ…… お化粧してからでもいい? さすがに恥ずかしいから……」


「ああ、待ってるからゆっくりでいいぞ」


 愛梨は最近、買い物に出掛ける時はマスクをして帽子を目深に被るだけで、あとは家にずっと居て全く化粧をしていなかった。


 夢の国への旅行の時に久しぶりに化粧をした愛梨を見たが、やっぱり……


「お、おまたせ! ……どうしたの? お化粧…… 変かな?」


「いや…… 綺麗だし、可愛いよ……」


「あ、ありがとう……」


 愛梨は困惑しながらも少し照れたような顔をして目を逸らした。

 

 ……こんな風に愛梨を『可愛い』と思い、言葉にするのも久しぶりだな。

 いつも言っていたのに…… 

 そうだ、いつもそう思っていたんだよ……

 

「さて、それじゃあ行こうか」


「うん…… えっ…… シュウ、さ、散歩じゃないの?」


「ああ、行きたい所まで少し遠いから、車で会社…… 俺の元実家まで行って、それから散歩しよう」


「散歩…… なんだよね?」


「そう、散歩だ」


 俺の元実家と聞い、愛梨は何を思ったのか、少し表情が硬くなったが…… まあ、そのうち俺が行きたい場所が、愛梨なら何となく分かるだろう。


 そして自宅から車で十分ほど走った場所にある、俺の会社の事務所兼倉庫代わりになっている元実家前に駐車した。


「愛梨はここに来るの久しぶりじゃないか?」


「そうだね…… 一年半ぶり…… くらいかな」



 ……………………



『秋司ー! 愛梨ちゃんが迎えに来たわよー、早くしなさーい!』


『今行くー!』


『ちょっと待っててね? ごめんね、愛梨ちゃん』


『いいんですよ、おばさん! 私がちょっと早く来ちゃっただけですし』


『そうなの? ……それにしても愛梨ちゃんは今日も可愛いわねー? 秋司には勿体ないくらい! ふふっ』


『そ、そんな! ……ありがとうございます』


『愛梨、おまたせ!』


『おはよ! ごめんね早く来ちゃって』


『いいんだよ、俺がちょっと準備遅れただけだから』


『二人して似たような返事をして、あなた達は本当に…… ほら、秋司! 今日の愛梨ちゃんを見て、何か言うことないの!?』


『痛いな母ちゃん…… えーっと…… 愛梨、今日も可愛いよ……』


『シュウ…… ありがと』


『愛梨……』


『シュウ……』


『ああ、もう! キスをするなら親の見てない所でやりなさい! まったくあなた達は相変わらずね!』


『うふふっ、じゃあ行こっか』


『ああ!』



 ……………………



 懐かしいな…… 高校時代は俺が親父の仕事の手伝いがない時は毎週のように会って、あちこちデートに行ったよな。

 そして玄関先でイチャイチャして母ちゃんに怒られたり……


「じゃあ行こうか、愛梨」


「うん……」


 あの頃みたいに…… 俺の自宅前から手を繋ぎ、俺達は歩き出した。



 ……………………



『おはよー! シュウ、ちゃんと宿題やってきた?』


『いやぁ、愛梨との電話の後、寝ちゃってさー、愛梨、いや愛梨様! どうか宿題を写させて下さい!』


『もう! 思った通り…… 昨日の電話中、眠そうだったもんね、ごめんね電話して』


『いや、俺も愛梨の声が聞きたかったからな! でも、愛梨の声を聞いていたら癒されて眠くなっちゃったんだよ! あははっ』


『ふふふっ』



 ……………………



 実家から少し歩いた先でいつも待ち合わせをして…… 学校に通っていた。


 お互いに姿を見つけて、笑顔で手を振って…… 昨日の夜の話や学校の話題を話しながら歩いていた。


「だいぶ暖かくなってきたな…… もう雪もほとんどないし」


「暖かい日が続いたからね……」


 話題は少ないが、きっと愛梨もあの頃を思い出してくれているだろう。

 しっかりと繋いだ手は何かを懐かしむように強く握られているから……


「この道も久しぶりに通ったけど…… 古い家も無くなって少し景色も変わったな」


「道沿いにあったあの古い駄菓子屋さんも閉店しちゃってるね……」


 俺も昔、駄菓子を買いに来たな…… そんな事を思いつつ歩いていると、最初の目的地へ辿り着いた。



 ……………………



『シュウ? 今日のお弁当…… どうだった?』


『ああ、愛梨の弁当凄く美味かったよ!』


『良かったぁ…… お母さんに教えてもらいながら頑張って作ったんだよ? ふふっ』


『へぇー! あんな美味しい弁当なら毎日食べたいよ!』


『えぇっ!? 『毎日』!? ……それって…… お味噌汁的な……』


『えっ? 何か言ったか?』


『もう! ……シュウのバカ!』


『あぁー! バカって言った方がバカ…… ということは、俺達お似合いってことか?』


『何でそうなるの!? ふふっ、シュウって時々変なこと言うよね…… お似合いかぁ…… ふふふっ』


 …………


『テストどうだった?』


『私はバッチリ! ……シュウ、赤点取ってないよね?』


『…………』


『えぇっ!? 冬休みはいっぱい遊ぼうって言ったのに! 補習になったら……』


『ははっ、俺もバッチリ!』


『もう! ビックリさせないでよぉ…… ふふふっ、じゃあ…… 休み中はいっぱい遊べるね!』


『そうだな!』



 ……………………



 実家から歩いて十数分…… 俺達の通っていた高校の前までやってきた。


 ここまで歩いてきた中でも色々な思い出があったが、校門前から校舎を眺めていると…… 沢山の愛梨との思い出が頭の中を駆け巡る。


「シュウ……」


「そろそろ行こうか……」


 そして、しばらく校舎を見つめていた俺達だったが、俺は愛梨の手を引き次の目的地へと向かった。

 

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