愛梨との旅行 2 

『あー、美味しかったぁ!』


『愛梨が喜んでくれて嬉しいよ、でもなんか疲れたな……』


『うふふっ、高級そうなレストランだったもんね?』


『美味しかったけど、俺は…… 愛梨が作ってくれたご飯が一番だな』


『もう…… うふふっ、これからはずっと作ってあげるからね? あっ、でもたまには外食したいなぁ』


『ありがとう、たまには俺も作るから……』


『ダメ! シュウはすぐ味付け濃くしちゃうんだから! 私がちゃんと健康を管理して、長生きしてもらわないとね? うふふっ』



 ……………………



「美味しかったか?」


「……うん」


「たまには外食もいいだろ? ま、旅行中だから仕方ないんだけどな」


「っ!? ……うん、たまには…… ねっ」


「さて、そろそろ部屋に戻るか、明日は少し観光をして、北海道に帰らないとな」


「……あの時と一緒、だね」


「ああ、一緒だ」


「うん、わかったよ、部屋に戻ろう?」



 ……………………



『ふぅっ、さっぱりしたな!』


『うん! ねぇ、髪乾かすの手伝ってー?』


『はいよ』


『うふふっ……』


『……何笑ってんだよ?』


『ううん、今日も…… 元気だなぁって』


『そりゃ、愛梨がそばにいるからな』


『新婚旅行…… だもんね?』


『そうだな…… 新婚旅行だもんな』


『ありがと、もういいよ…… じゃあ…… うふふっ…… キャッ!』


『それでは参りましょうか、お姫様』


『何それー? うふふっ…… うん、行こ?』



 ……………………



「そろそろ寝るか」


「う、うん……」


 あの時のようにはいかないか…… ダメだな……


 でも……


「おやすみ、シュウ…… あっ……」


「愛梨、抱き締めてもいいか?」


「ダ、ダメ…… だよ、私なん……」


「愛梨」


「わ、わかった…… いいよ……」


 広いベッド……


 あの時は新婚旅行ということもあり、風呂に入ってすぐに愛梨をお姫様抱っこしてベッドに向かったが…… 今はそういうわけにはいかない。


 だけど、どうしても今は愛梨を抱き締めたいから、ベッドの中で横になったまま愛梨を抱き寄せた。


 相変わらず反応はしないが……


「シュウ……」


 腕の中に愛梨がいると…… 『これだ』と思うくらい安心する……


 そして抱き締めながら、治りかけの利き手である右手で愛梨の頭を後ろから撫でた。


 ふわりと香るいつもとは違うシャンプーの香り。

 その中には嗅ぎ慣れた…… しばらく嗅いでなかった安心する香りが混ざっている。


「おやすみ、愛梨……」


 もう一度少し力を入れて抱き締めると、恐る恐るという感じで愛梨の腕も俺の身体に伸びてきた。


「うぅっ…… シュウ……」


 俺の胸に顔を埋めるような体勢になった愛梨がむせび泣く小さな声が聞こえてきた。


 そして俺は愛梨の頭を撫で続けているうちに…… むせび泣く声は寝息に変わっていった。


 


 ……………………



『飛行機の時間もあるし、食べ歩きしながら見て回ろう? ……あっ! シュウ見てよ! あの肉まん大きい! 食べてみたいなぁ』


『えっ? どれどれ……』


『もう! どこ見てるの!? ……そっちはいつも食べてるでしょ?』


『はははっ』



 ……………………



「食べ歩きはいいのか?」


「うん…… まだお腹いっぱいだから大丈夫」


「そっか、あっ…… あの店無くなったんだな」


「…………」



 ……………………



『可愛いー! 見て見て! シュウみたいなぬいぐるみがあるよ?』


『俺? ……ってゴリラのぬいぐるみじゃないか!』


『うふふっ! 可愛いけど…… 荷物になっちゃうから連れて帰れないの、ごめんね?』


『ぬいぐるみに謝ってるし……』


『大丈夫だよ! シュウは絶対連れて帰るから!』


『何が大丈夫なんだよ…… まったく…… おっ、こっちに愛梨みたいなぬいぐるみがあるぞ?』


『えっ、どれかなー? ……って、牛さん!? もう! シュウのバカ!』


『あははっ!』



 ……………………



 何気ないものも、二人で見て回ると楽しかったな…… 愛梨と二人なら。


「…………」


 手を繋ぎながら街を歩いていると、新婚旅行した当時にはあったぬいぐるみを売っている店はもう無くなって、関係のない別の店になっていた。

 でも愛梨は、その店を無言でしばらく見つめていた。


 その後も新婚旅行中に回った場所を思い出しながら歩き続け、時々当時の思い出が甦ってきたのか、立ち止まってはしばらくその場所を見つめていた愛梨。


 色々見ているうちに時間も無くなってきたので俺達は空港に向かい、飛行機に乗って北海道に帰った。



 そして北海道に着くと、空港の駐車場にある自分達の車に乗り込み、自宅へと車を走らせた。




 …………………



『冬といえば温泉だよな! どうせならちょっと遠出して、雪を見ながら入りたくてな』


『うふふっ、シュウ、おじさんっぽいよ? でも…… 温泉かぁ……』


『嫌だったか?』


『ううん、でも…… 家族風呂があるんだよね? ……うふふっ、のぼせちゃいそうだなぁーって』


『好きな時に好きなだけ入れるのがいいと思ったからその部屋を予約したんだけど…… 愛梨ちゃん、何を想像してるのかなー?』


『ベ、別に…… 肩こりも酷いし、いっぱい入ってのぼせないか心配してただけ!』


『肩こりか…… うん、大変だろうな』


『うふふっ、シュウちゃん、何を見て想像してるのかなー?』



 …………………



 夢の国から帰ってきて一日、今日はまた別の場所へ旅行に行くために朝早くから愛梨と車で遠出をしている。


「ねぇ…… こっちの方向に行くってことは、目的地はあの温泉旅館…… なんだよね?」


「ああ、そうだぞ」


 温泉宿と聞いて、助手席に座った愛梨はうつ向いてしまった。


 それはそうか…… 場所は違うが、温泉宿に…… 行ったんだもんな。


 思い出してしまうかもしれない。

 もしかしたら不安定になり泣き出してしまうかもしれないが…… それも理解した上で決めたから…… 俺は大丈夫だ。


 そして、自宅から三時間ほど車を走らせて、俺達はまた思い出の地にやってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る