壊れたペンダント (シュウ)

 どうしてこんなタイミングで壊れるんだよ……  


 床に落ちたペンダントを拾い、手に取って壊れた部分を見てみると、チェーンの小さな輪の一つが刃物で切ったかのように綺麗に真っ二つになり壊れていた。


 必要ないと思うが…… 一応壊れた輪も一緒に拾って保存しておこう…… そうだな、近いうちに小葉紅さんの店に行って修理してもらうか。


 愛梨とペアのペンダント…… 高校二年の時に買ったから…… 買ってからもう七年は経つもんな。


 こまめに拭いたり軽く磨いたりして大切に使ってたんだけどな…… 俺も、愛梨も。


 チェーンにも寿命とかあるのかもしれない…… 青い宝石の付いたトップの部分は何ともないし、最悪チェーンを新しく取り替えれば使えるだろう。


 ……リキにメッセージでも入れておくか。


「シュウ、仕事行かないの?」


「いや、もう家を出るよ」


「うふふっ、じゃあお弁当持っていってね? ……ちゃんと家に居て、必ず連絡するから」


 俺が頼んだわけじゃないけどな……

 もう俺を裏切りたくないと思っての行動なんだろうけど、やり過ぎなんだよ……


「……ああ、分かった」


 ごめんな、愛梨……


「じゃあ、行ってくるよ」


「いってらっしゃい! 帰りの時間分かったら教えてね?」


 傍から見たら仲睦まじい夫婦に見えるのだろうか。

 笑顔で旦那を見送り、帰りを待ち遠しく思っているお嫁さん……


 そんな愛梨から目を逸らし、また今日も逃げるように仕事へと向かっている。




『今日来いよ、店に居るからさ』


 リキにメッセージを送ると返事が来た。

 その前に午後に行く予定だった現場が後日に延期して欲しいと連絡がきたので丁度良かった。


 相変わらず愛梨から自分の行動を知らせるメッセージは沢山来る。

 とりあえず延期になる前に伝えた帰宅時間には間に合いそうなので、返事のメッセージだけ送っておこう…… 長くメッセージが途絶えると泣きながら電話が来るからな……


 そして俺は小葉紅さんの店に向かうため、車に乗り込み現場を出た。


『昼ご飯を食べました』


『家でちゃんと待ってます』


『早くシュウの顔が見たい』


 小葉紅さんの店までは仕事をしていた現場から車で走って二十分ほどの距離だったが、その間にも愛梨からの連絡は続く。

 一応仕事中は返せないから電話はしないようにと言ってあるので滅多なことではかかってこない。


 とりあえず適当に返事をして、車を降りて小葉紅さんの店『アンバー』に入った。


「よっ! ……久しぶりだな、秋司!」 


「秋司くん、久しぶりね……」


「リキ、小葉紅さん、急に悪いな」


「へへっ、気にすんなって、なっ? 小葉紅」


「ふふっ、そうだよ、友達でしょ? 私達…… じゃ! 早速見せてもらおっかなぁー?」


「ああ、お願いするよ」


 そして小さな袋に入れておいたペアのペンダントを小葉紅さんに渡した。


「あらぁ…… 綺麗に割れちゃってる…… でも、すごく大切に使ってくれてたんだね、凄く状態良いんだもん」


「うん、まあ……」


 そりゃ大切だ…… 沢山の思い出が…… 詰まってるもんな。


「チェーンを新しく取り替えれば早いけど…… 大切だもんね? チェーンにも色々思い出があるでしょ?」



 …………



『見て見て! シュウとお揃いなの!』


『わぁー! シュウは身体が大きいからチェーン長めなんだね? 私がすると…… うふふっ、どこ見てるのかなぁー?』


『絡まっちゃった…… このままだったらずっと離れられなくなっちゃう…… うふふっ』



 …………



「そう…… だな……」


「ふふっ、取り替えるのは簡単、でも…… この壊れちゃった小さな輪っかの部分だけを補修することも出来るのよ? ……手間がかかって難しいし、ここだけ新品になるから元通りではないけど…… 時間が経てば周りと同じよう馴染んで分からなくなるわ…… 大切にしてたって壊れることはある、でも壊れたからって全部捨てることなんてないのよ? その壊れた所をしっかり繋いであげれば…… ちゃんと直るんだよ?」


 …………


「大切なんでしょ?」


「ああ、大切だ…… 何よりも」


「じゃあ待ってて、直すから」


「……ありがとう」


「……秋司」


「……どうした、リキ」


「俺達は…… どんな事があっても親友だからな!」


「……ははっ、当たり前だ」


 ………………ありがとう。


 

 そして、しばらく待っていると小葉紅さんが作業を終えたようで


「一部だけシルバーが新品でピカピカだけど、使っていればきっと色合いが似てきて気にならなくなるよ! だから…… ずっと大切に使ってね?」


「……本当にありがとう! じゃあまた!」


 

 ◇



「リキ、よく我慢したわね? 偉い偉い」


「ちぇっ! 秋司のやつ、いかつい顔のくせに辛気臭い顔しやがって…… まあ小葉紅のおかげで店を出る時はいつものいかつい顔に戻ってたけどな! ははっ…… でも何で口出しするなって言うんだ? 小葉紅も、ヤエちゃんも」


「ふふっ…… あの二人の問題は…… 二人でしか解決出来ないのよ、他の人が手出ししたら上手くいかないのよね、あの二人は……」


「まあ、高校時代もよく二人だけの空間を作ってイチャイチャしてたからな、教室で」


「ふふっ、でもまたちょっぴりおせっかいしちゃった」



 ◇


 

 もう迷わない……


 もう逃げない……


 やることは決まった。


 車に乗り込むとエンジンをかける前に直してもらったばかりのペンダントを首にかけた。

 そして、スマホをポケットから取り出し、親父に頼み事をするために電話をかけた。


「……もしもし、親父? 時間大丈夫か? 悪いんだけどお願いがあるんだ……」


  

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