希望 / 絶望 (シュウ / 愛梨)

 手を繋いで寝たことにより、愛梨との間にあった見えない壁が少し薄くなったように感じた。


 とにかく愛梨に悲しい顔をさせたくない、自分だけを責め続けて欲しくないと気付けたことにより、心が少し軽くなって気分が楽になった。


 今すぐ答えを出すのは辛いから、自分自身や愛梨と向き合う時間を作ればいずれ許す、許さないの答えが出るかもしれないとまで思えるようになっていた。


 ただ、手を握って寝ただけなのに、安心してしまう自分…… きちんと、もう間違えないように考えなければ……


 それに愛梨も心なしか少し元気になったように見える。

 ただ、お互いに距離を取りつつ様子を見ている状態だが、それでもあんな愛梨の顔をもう見たいとは思えないから…… 素直に良かったと思う。



 そして怪我をして二ヶ月が経ち、ギプスも取れて今はリハビリを開始している。

 まだあまり手に力は入らないが、固まった筋肉をほぐし、再び筋肉をつけるために痛みに耐えながら毎日動かすようにしている。

 そしてギプスが取れたことにより、風呂やトイレを介助してもらう必要がなくなったので問題は解決はしたが、愛梨はそれでも献身的に身の回りの世話をしてくれて、会話中にぎこちないが二人とも笑顔を見せることが増えてきた。


 やっぱり愛梨は笑って居てくれた方が安心する……

 そう思うということは、これからの愛梨をちゃんと見て信用してみよう、という前向きな気持ちになってきているんじゃないかとも思っている。


 ゆっくりとはなるだろうが、ちゃんと向き合って自分の気持ちを整理していかないと……


 

 手を握って寝て以来、愛梨と一緒のベッドで眠るようにもした。

 まだ少し距離は遠いが、それでも一緒に寝ると安心して、お互いに調子も良くなるし…… 見えない壁も更に薄くなると感じたから。


 俺の為に懸命に尽くしてくれる愛梨、お互いに二ヶ月もの間ほぼ出かける事なく、嫌でも顔を合わせなければならず、少しずつ抱えている苦悩と向き合ってきた結果、許せるんじゃないかとも思い始めてきた。


 愛梨の不倫のことは、俺達がお互いに間違えていた、だからすべてを水に流してこれからは自分の都合の良い方ばかりに進まないよう、逃げないよう二人で話し合って生活をしていこう…… そう思うとほんの少しだけ心が軽くなったように感じた。


 身体の不調はこれからどうなるかは分からないが手は握れるんだ、いつか心の傷が癒えれば更に近付くことも出来るようになるんじゃないかな……


 そう前向きに思うようにして、愛梨との関係修復に向けてまた一歩進み始めた頃だった……


 愛梨が壊れてしまったのは……

 

 

 ◇



 シュウがぎこちないが笑顔を見せてくれるようになった。

 それだけで私は舞い上がるほど嬉しかった。


 だからシュウが笑顔で過ごせるよう少しでも信頼を取り戻さないと思い、そう決めた私は買い物やどうしても行かなければならない用事以外での外出はしないで、誠意を持ってシュウと接し、改めて罪と向き合おうと決意した。


 そして、あれからシュウは一緒のベッドで眠ることを許可してくれた。

 こんな私なんかと寝るなんて、一度は拒否したが、それでもシュウは一緒に寝て欲しいと言ってくれた。

 少しでもシュウは許そうとしてくれているのかもと淡い期待をしつつ、提案をありがたく受け入れて…… 毎日一緒に寝られる日が…… また訪れた。


 ベッドに横になっているとシュウの寝顔が目の前にあり、握られた手の温もり感じながら眠ると恐怖で飛び起きずに済み、ぐっすりと眠れる。

 そして目覚めればまた目の前にはシュウの顔があり……

 私が粉々に壊してしまった日常を、シュウの優しさによりまた少しでも味わえる。

 そんなことを感謝しながらシュウに償う日々が続いた。


 触れてもらえることはないがそれでも構わない、ただシュウのそばにいられるのなら…… 私は幸せなんだ。


 そして、少しずつ、少しずつ家の中が明るくなってきたと感じ始めた頃……


 私はあることに気が付いた……



 あれ? そういえば…… 二ヶ月になる…… よね?


 サーッと血の気が引いていくように感じた。

 急に身体がガクガク震え始め、明るくなりかけていた気持ちが一気に暗い闇に飲み込まれていく……


 嘘…… まさか…… いや、そんなことはないはず……


 最後に生理がきたのって…… いつだっけ? 


 いや、遅れてるだけかもしれない。


 でも…… もしそうなら心当たりは一つしかない……


 やだ…… 怖い…… 


 まだ分からない、とりあえず病院に行く前に検査薬で調べてみないと……


 そしてすぐに買い物に行くとシュウに告げ、私は急いで近所のドラッグストアに検査薬を買いに行った。


 もし…… 妊娠していたら? 

 いや、ちゃんとピルは飲んだはず……

 でも、百パーセントではないとも言っていたような…… どうしよう…… どうしよう…… せっかく、シュウの笑顔が見られるようになってきたのに……


 そして妊娠検査薬を買って、急いで家に戻り使ってみる。


 お願い…… お願い……


 だが……


 私の必死の願いは通じず、検査薬には『陽性』を示す印が現れた……

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