償いの日々、微かな希望 (愛梨)

 償い続ける日々。

 こんな汚れた身体じゃシュウに近付くことは出来ないが、それでもシュウの怪我が良くなるように支えたい。


 私のワガママを黙って受け入れてくれるシュウに、もう嘘はつかない、疑われるようなことはしないと決意し、失った信頼を少しでも取り戻すために、感謝しながら生活している。


 だけど、どうしたらいいのか分からない…… 信頼を取り戻すためには何をしたらいいのか。


 だから私は怪しい行動をしないよう、リビングで仕事をすることにした。

 あと、常にシュウにスマホを預かってもらい、仕事で必要な連絡がある時はシュウの許可を得て連絡している。


 GPSアプリも登録し、買い物などで家を出る時は必ず監視してもらうようにした。


 これならシュウも安心するだろうし、何より…… 監視されることで、僅かでもシュウと繋がってるような気がして、私自身が安心出来るから。


 私の汚い身体にはシュウも触れたくないだろうし……


 トイレやお風呂の時に介助しているが、シュウはあまり私に触れられたくないみたいだ。

 苦痛そうな顔をし、時々隠れて吐き気を堪えるようにしているのは知っている。

 それに…… 男性としての反応も良くないみたいだ。


 全部私のせい…… 汚れた私の……


 

 そんなつもりはなかった。

 シュウに今まで、そしてこれからも捧げる愛情と、冬矢くんに一時的に捧げた愛情は別のものだと思う。


 だけど私なりに愛を捧げ、本気で冬矢くんに『つもり』だった。


 でも、その愛情を捧げた結果、返ってきたのは『復讐』だった。


 最初からそのつもりで隠しカメラで撮影し、私から積極的に愛を叫び、まるで私から冬矢くんを求めているよう編集されて……


 でも、編集されたところですべて私の口から出た言葉で、たとえ自分で何を言っているか分からなくなり、冬矢くんに言わされた言葉を口に出していただけとしても……

 結果、頭が真っ白になるくらい乱れてしまったのも…… 


 シュウに知られ、冬矢くんからの復讐だと分かった瞬間から、捧げた愛情は無駄なもので、ただ私が穢らわしい女という事実だけが私の中に残ってしまった。


 償っても償い切れない罪……


 とにかく、疑われないよう過ごしシュウに尽くすと決めた私。

 目を閉じるとあの動画の中の汚い私や、シュウの絶望したような顔が浮かび、すぐに目覚めてしまう。

 シュウがいつの間にか居なくなっている夢を見て、泣きながら飛び起きたこともあった……


 だけど……


 寝不足と疲労でフラフラしていた私を、シュウはベッドに寝かせてくれた。

 私が寝るまでずっと手を握ってくれて……


 嬉しかった…… やっぱり私にはシュウしかいないんだと思った……

 ただ、手を握られるだけで幸せで……

 ……っ!! ……シュウなら怖くない。


 そして、ふと目が覚めると、ベッドの脇で私の手を握りながらウトウトしているシュウが居て……


 ずっと握ってて欲しかったけど、怪我人のシュウをそのままにしておくことも出来ず、ベッドを譲ることにした。


 でも、それをシュウに伝えたら、思いもよらぬ答えが返ってきた。


『愛梨…… そのままでいいから、隣に寝てもいいか?』


 そう言われ私は断ったのだが、繋いだ手は離してくれず、久しぶりに…… 私の隣にシュウが横になった。


『自分でもどうしていいか分からない、でも、今は愛梨の手を握っていたいんだ』


 そして、手を握ったままシュウは目を閉じて、少しすると寝息が聞こえてきた。


 酷い顔…… 顔色も、目の下の隈も、痩けた頬も……


 でも…… 安心したような顔で眠っているシュウを見て、私は涙が止まらなかった。


 ごめんなさい、こんなボロボロになるまで傷付けて。

 だけど信じて欲しい…… 私が心の底から愛しているのはシュウだけだと。


 今すぐ抱き締めたい気持ちを必死に抑え、今得られている微かなシュウの温もりを感じながら…… 私も再び眠っていた。


 そして、目が覚めるとそこには私を見つめるシュウの顔が目の前にあった。


 一瞬近付いてはいけないと焦ったが、まだ手は握られたままだったので、私は身動きが取れなかった。


「……シュ、シュウ?」


「……おはよう、愛梨」


「……っ! お、おはよう」


 シュウに見つめられ、ただ『おはよう』と言われただけなのに、心が温かくなったように感じる。


 隣にいるだけでこんなに幸せな気持ちになる人…… シュウしかいないよぉ……


「もう少しだけ…… 手を握っててもいいか?」


 いいの? 私なんかの手を…… でも、私ももっと繋いでいたい…… もう、離したくない…… 絶対に。


「……シュウがいいなら、私は大丈夫だよ」


「そっか……」


 その後も、心地よい無言の時間が続き、このままずっと続いてくれたら嬉しいなぁ…… と思っていたが


 シュウのお腹が鳴る音が聞こえてきた。


「……お腹空いた?」


「ああ、そういえば今日まだ何も食べてなかったな」


「じゃあ…… 私、ご飯作るから、シュウは休んでて?」


 寂しいけど…… 握られていたシュウの手を離し、私はキッチンへと向かった。


 少しだけど…… 信頼を取り戻すための一歩が踏み出せたかな? そう思うと少し気分が良くなり、元気が出てきた。


 これから…… どれだけ時間がかかっても、シュウに償わないと……

 

 そう改めて決意をし、お腹を空かせているシュウのために急いで料理を作った。




 だけど…… その後、私の罪は更に重くなった。

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