私への罰 罪の重さを知る (愛梨)

 えっ…… 嘘…… 何で?


 画面に映っていたのは、昨日の朝まで居た温泉宿の一室だった。

 定点で映されていて、生まれたままの姿の男女が……


 間違いなく、私と冬矢くんだ……


 血の気が引いて震える身体、そんな震える手で映像を閉じようとしたら……


 メ、メールで送られてきたの!? しかも八件も…… すぐに最初のメールから確認してみると、初日のホテルや温泉宿での行為まで上手く場面を送られていた。


 そして混乱した頭の中、最後まで確認するまでもなく、このメールの送り主は分かった。


 冬矢くん……


 じゃあシュウに見られたの!? 私が不貞をしている姿を…… 嘘を知られてしまった…… あぁ、私はなんてことを……


 そっか…… これが罰なんだね……


 私はこの事実を不思議とすぐに受け入れられた。

 再会してからの冬矢くんの目は…… そういう事だったんだね?

 今回の旅行はきっと…… 私の罪に対する、冬矢くんの復讐だったんだ……


 愛していたからこそ許せなかったのかな? 私が別の人と幸せになっていたのが…… それとも…… もしかして…… やっぱりあの怖い目は……



 うぅっ……! ごめんなさい…… ごめんなさい…… シュウ……


 そして、今更遅いのにメールを削除し、パソコンの電源を落としてからシュウの仕事部屋から出ようとした時、デスクの一番上の引き出しが少し開いているのに気が付いた。


 そしてそこに入っていた分厚い大きな封筒に…… 『大沢探偵事務所』と書いてあるのが…… 見えてしまった。


 震える手で封筒を取り出し、中身を確認してみると…… 冬矢くんと私が二人きりで食事や歩いている写真、それに冬矢くんの情報が入った調査報告書だった。


 えっ、これって一ヶ月以上前の…… じゃあ…… シュウはだいぶ前から気付いて……


 怖くなった私は居ても立ってもいられなくなり、自宅から逃げるように飛び出した。

 シュウへの申し訳なさでぐちゃぐちゃになった頭と心を少しでも落ち着かせるために樹里ちゃんの家に泊まらせてもらったのに…… 私はまた…… 逃げ出してしまった。


 ……どうして!? どうしてなの!? 気付いていたんでしょ!? それなのに…… 何も言わないで、いつも通り優しくて…… うぅっ、どんな気持ちで…… 私が嘘をついて旅行に行ったのを見送ったの!?


 分からないよ…… どうして怒ってくれなかったの!? 


 もう…… 終わりだよ…… 

 やだよぉ…… やだよぉ…… ごめんなさい…… ごめんなさい……


 自分の罪を軽く見ていたのかもしれない、シュウに尽くせばいつかは償えると心のどこかで思っていたのかもしれない……


 償い、癒すつもりで悩んだ末に差し出した身体…… そんな身体が酷く汚れて見えて…… とてもじゃないがシュウには近付けないと思った。


 こんなバカで、ズルくて、汚い女……


 シュウ…… やだぁ…… ごめんなさい…… 許さなくていい、どんな扱いでもいいからぁ…… もう、二度と離れないって決めたのに…… シュウしかいないって気付いたのに…… 私はなんてバカなんだ……


 帰るに帰れず、だからといって外にずっといるわけにはいかない…… どうしよう……


 実家に帰ろうかな…… でも…… なんて説明しよう……

 お母さんにまで嘘をついて、いずれ真実が分かってしまったら……


 頼れる人が思い付かない…… だって、私が悪いんだから……


 かろうじて財布とスマホは持っていたので、一人になれる空間をと思い、仕方なく駅の近くにあるネットカフェに向かった。


 そして個室に入り、自分の犯した罪の大きさに押し潰されそうになりながら、声を押し殺して泣くしか出来なかった。


 冬矢くんに恨み言を言うつもりはない、だって…… 冬矢くんを傷付けるようなことをしたから。

 それよりも、傷付けてしまったシュウの方が私は心配だった。


 家にいなかったということは、あれを見て私と会いたくないからいなくなったんだと思う。

 連絡もないし、こちらからもとてもじゃないが出来ない……


 後悔はしてる…… けど、私には冬矢くんの望み通りにするしか選択肢はなかったと思っている。

 復讐を求めていたとしても何にしても、私は…… 冬矢くんに求められた事は断るつもりはなかった。

 それに…… 断ったらいけないような気がしたから。


 ならば、すべて受け入れて、すべて受け止めて償おう…… そう覚悟して行くことを決めた旅行だったから。


 ただ、シュウのことは…… この事は心に秘めたままこれからはシュウだけを見て、一生を賭けて償うつもりだった…… でも予想外の事が起きてどうしたらいいのか分からない。


『離婚』の二文字が頭をよぎる……


 うぅっ…… 嫌だよぉ…… シュウと、また離れ離れになることを考えたら、胸が苦しくなって、上手く呼吸ができなくなる……


 すべて私の選択のせいなのに…… 

 これ以上…… シュウを傷付けたくないからと、選択したはずなのに……

 

 そして、この状況をどうしたらいいのかも何も浮かばず、ただネットカフェの個室に込もって、心の中でシュウに謝り続けた。


 次の日に自宅前まで帰ったけど……


『裏切り者』


 そう言われるのが怖くて、しばらく自宅を見つめてからまたネットカフェに戻って…… 


 誰にも連絡出来ず、何をすればいいか分からずただ泣いていた私に……


『愛梨ちゃん!? 秋司が…… 秋司が!!』


 お義母さんから、シュウが脚立から落ちて頭を打って病院に運ばれたって連絡が来て…… 私は慌てて病院に向かったの……


 そして……





「何でもします、どんな風に扱っても構いません、だから…… シュウのそばで償わせて下さい…… お願い…… します…… お願いします……」

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