《閲覧注意》心の天秤と冬矢くんへの想い (愛梨)

 ※寝取られが嫌いな人は注意してお読み下さい。















「凄く良いお部屋だね…… 大丈夫なの?」


 温泉宿も凄く高級な部屋で私は少し心配になってしまい、思わず冬矢くん聞いてしまった。


「あははっ、一応お金は稼いでいたからね、もう貯めておく必要もないし、親には残してあるしね…… それよりもエリに喜んでもらいたくて奮発したんだよ」


 こんな私のために…… でも今は笑顔で答えないと。


「ありがとう! こんな素敵な部屋に泊まれるなんて嬉しいよ」


「あははっ、エリがそばで笑ってくれるなら…… 奮発した甲斐があったよ、それに……」


 そして冬矢くんは私に抱き着いてきて


「こんな素敵な部屋でエリといっぱい愛し合えるなんて…… 夢みたいで幸せだよ」


「んっ…… と、冬矢くん、まだ着いたばかり……」


 宿に着くなり求められて、私もそのまま受け入れた。


 そしてその日は食事の時間以外、何度も身体を……


「エリ、愛してるよ……」


「……っ!!」


「エリは? 僕の事をどう思ってるの?」


「……っっ! あ、愛してる、冬矢くん……」


「あははっ、嬉しいね……」


 何度も求められ、何度も言わされているうちに、私も……


「冬矢くん……」


「嬉しいよ、エリ…… ありがとう」


 冬矢くんが癒やされるならと……


「ふぅ…… 部屋に露天風呂があるのもいいね」


「っ、う、うん…… そう、だ、ね……」


「あぁっ、愛してるよ、エリ……」


「……っっ! ……冬矢くんっ、愛してるっっ」


 愛してる……


 他にも冬矢くんの言ったことを繰り返して言うように言われて、何度も快感と共に口にするたびに、どんどん自分が誰に何を言っているのか分からなくなってきた。


 色々口走ったかもしれない…… 言い訳をするつもりはないが、私があの時口に出していた言葉は本心だったのか、私にも分からない。


 言わされていたのか、私自身が言っていたのか……


 その後は疲れた私を労るようにそのまま寝て…… 次の日は温泉街を二人で散歩した。


「時期が時期だから人が少なくていいね」


「うん…… 町並みや風景も綺麗で良い所だね」


「町並みがエリの好きそうな『色合い』だね、映像製作にも役立つんじゃない? 写真を撮っておこうか?」


 写真を残すのは…… もしもの事が……


「ははっ、冗談だよ、でも…… 今後のエリの活動に役立つといいね」


「うん、ありがとう…… きっと役立つよ」


 良かった…… という思いが一番最初に来てしまった。

 冬矢くんの思い出作りなのに、思い出を形として残せないなんて…… 


 その後、宿に戻り……


「冬矢くん……」


 写真に残せない分、私が身体を使って冬矢くんの記憶に残る思い出にしようと…… 私は冬矢くんに差し出すように身体を預けた。



 …………

 …………



 何を口走ったかも分からないくらい冬矢くんは私を……

 でも…… そんな中でも…… どんなにされようとも、私の頭の中に最後に浮かんでくるのは……



『愛梨……』



 大好きなシュウの…… 優しく微笑む顔だった。


「ごめんねエリ、急に仕事が入っちゃってさ、引き継ぎがなかなか大変なんだよ」


「大丈夫だよ、気にしないで…… 大きな映像製作の会社だもんね、凄いなぁ、冬矢くんは」


「そんな事ないよ、多分才能ならエリの方があるんじゃない?」


「私はそんな…… ただの趣味で映像製作を勉強していただけで……」


 だって私は…… ただシュウに褒められたくて色々勉強し始めたんだもん……


「ふぅーっ、さっき露天風呂で長く入り過ぎてのぼせちゃったかな? ちょっと外を散歩してくるね!」


「ああ、気を付けてね」



 宿屋から外に出た私は、どうしてもシュウの声が聞きたくなって電話を掛けてしまった。


「もしもし? 今、大丈夫?」


『ああ、旅行楽しんでいるか?』


 シュウの声…… 今、会ったらとてもじゃないけど上手く笑えない…… でも、声を聞くだけで安心する……


「うん、とっても素敵な場所ばかりで…… 楽しいよ」


 シュウを裏切り続けて、この三日間、私は不貞を繰り返している…… 本当に申し訳ないし、謝っても許されることではない。

 だけど…… バカで、こんな方法しか思い付かなかったズルい女でごめんね…… 


『……もしかして外にいるのか?』


「うん、友達が寝ちゃったから少し外を散歩しているの」


『大丈夫か? 寒いだろ』


「ううん、そっちと比べてこっちはまだ暖かいから大丈夫だよ、それに温泉に入って少しのぼせちゃったからむしろ丁度いいくらいかな、うふふっ……」


『そうか…… 風邪引かないようにな?』


 シュウの私を気遣う優しい声に、泣いてしまいそうになるのを堪える。


「うん、ありがと…… ねぇ、シュウ?」


『どうした?』


 今は…… でも伝えたい…… 何度も別の人に叫ぶように言ってしまった言葉を……


「……愛してる」


 シュウ…… ごめんね…… でも、本当なの…… 伝わって欲しい……


『……俺も、愛してるよ』


 ああ…… モヤモヤとした心が晴れるような気持ちになる…… どうして? 同じ言葉なのに…… どうしてシュウに言われると…… こんなに幸せになるんだろう……


「ありがと、シュウ…… うん、寒くなってきたからもう部屋に戻ろうかな、明日帰るけど夜遅くなると思うから、待ってないで寝てていいからね?」


『分かった、気をつけて帰ってくるんだぞ』


「ふふっ、うん、じゃあ…… おやすみ」


 常に私の心の天秤は傾いたまま、どんなに重りを置かれようと……反対側には傾くことはないんだ。


 シュウへの愛を改めて確認して、再び私は気持ちを切り替える。

 旅行中は…… 冬矢くんの妻でいると決めたんだから……

 


「遅かったね、寒くなかったかい?」


「うん、大丈夫、ちょっと夜景が綺麗で見惚れちゃってたの、うふふっ」


「そうか、でも風邪を引いたら大変だから……」


「うん…… 冬矢くんも一緒に温まろ?」

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