シュウとの再会、気付く想い (愛梨 専門学校時代)

 ついに成人式の日がきた…… 

 私は成人式には参加せず小葉紅さんと二人で過ごしていた。

 シュウに会うのが怖くて、でも会いたい私を小葉紅は寄り添いながら勇気付けてくれていた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だって、黒田くんもきっと愛梨ちゃんと話したいはずだから」


 冬矢くんには申し訳ない事をするのは分かっている。

 でも私の…… 私達の未来のためにはここでいつまでも踏み止まっているわけにはいかない。


「……うん」




 そして……





「……元気だったか?」


「……うん」


 久しぶりに会ったシュウ。

 あれから二年経ち、お互いに二十歳になった。

 おじさんの工務店で仕事をしているせいか身体も少し大きくなって、金髪で日焼けして…… ちょっぴり変わっていた。


 でも隣にシュウが座っていると、まるであの頃に戻ったみたいな気分になってしまう。


「学校はどうしたんだ?」


「……今は冬休み、それで小葉紅さんにどうしても来て欲しいって呼ばれて…… 帰って来たの」


「そうか…… その、学校はどうだ?」


「……うん ……楽しいよ」


 学校は楽しかった…… 冬矢くんとお付き合いを始めてからはより楽しく…… でも、シュウには伝えられなかった。


 そしてみんなで近況や高校時代の話しなんかをしていると、急に大庭竹くんが立ち上がって


「みんな! 今日、実は報告があるんだ! 実は俺達…… 結婚しまーす!」


 みんな驚いた顔をしているが、私とヤエちゃんは事前に聞いていて知っていたから、シュウの反応が気になって、ついシュウの横顔を眺めてしまっていた。


「……リキ、小葉紅さん、おめでとう! ビックリしたよ」


「ありがとう! 秋司!」


 幸せそうに笑う二人を祝福するシュウ……


 そんな様子を見つつ私も拍手していると、シュウが私の顔を見つめてきた。


 その後、幸田くんと大庭竹くんはお酒も入り楽しそうに話をしていたのだが、私はあまりお酒を飲みたいと思わなかった。

 シュウとちゃんと話をするためにはお酒が入っていたからと後で言い訳になってしまう事をしたくなかったから。


「……愛梨はメロンソーダか?」


 最初に私が飲んでいた、ウーロン茶が入ったコップが空になっているのにすぐに気が付いたシュウは、私にそう訪ねてきた。


 ああ…… そうだったなぁ……



『愛梨はメロンソーダがいいんだよな!』


『うふふっ、よく分かってるね! 持ってきてくれるの?』


『ああ、任せとけ! ついでにコーラも混ぜてきてあげるからな!』


『シュウ! 変な事しちゃダメだからね!』



 ……シュウとのデートで頻繁に行っていたファミレスのドリンクバー。

 私はいつもメロンソーダを飲んでいて、いつも他愛のない話をしながら長居してたなぁ……


「うん、じゃあ頼んでもらおうかな」


「おう、任せとけ」


 ……シュウ


「ほら、さっきから食べてないだろ?」


 さりげなく私の好きそうな物を取り分けてくれたり


「ほい、ティッシュ」


 今取ろうと思っていたティッシュをシュウが先に渡してくれたり…… ああ、何で分かっちゃうのかなぁ…… シュウは。


 そして大庭竹くんが飲み過ぎてしまったので、結婚報告会をお開きになった。


 みんなと別れの挨拶をする中、小葉紅さんとヤエちゃんから目配せをされた。

 きっと私達が二人きりで話が出来るよう気を使ってくれたんだと思う。


 そしてみんなと別れてシュウと二人きり…… どう話し合おうか悩んでいると


「……愛梨は今日どこに泊まるんだ?」


「……実家に帰るよ、こっちに帰って来るの久しぶりだし」


 あの頃とは違い、少し離れた距離で歩く私達。

 私に気を使って何とか無言にならないよう話しかけてくれるシュウの姿を見て、このままじゃ駄目だと思い


「……シュウ、もう少し話がしたいから、もう一軒行かない?」


 勇気を出してシュウにそう伝えた。

 すると、一瞬戸惑った顔をしたシュウだったがなんとか頷いてくれた。


 そして落ち着いた雰囲気で個室がある居酒屋に入った私達は、ソフトドリンクと軽いつまみを注文してから話し始めた。


 この時点で、私の気持ちは固まっていたのかもしれない。

 ずっと左右に揺れていた心の天秤は、シュウと再会して大きく傾いたから。



「……シュウ、仕事は慣れた?」


「ああ、だいぶ慣れてきたよ、それに昔から手伝いはしていたからな」


 私が聞いていいことではないかもしれない、でも小葉紅さんが言っていたことが気になって、私はついに……


「そう…… それで、今、誰か付き合っている人とか気になっている人はいるの?」


 聞いてしまった…… 


「いや、いないよ…… 仕事でそれどころじゃないって言いたい所だけど……」


 そう言って、シュウは少し悩んだ顔をし始めた。

 何か言いたいけど、言えないような…… でも、私だってシュウの事が分かってしまう…… 私も本当の気持ちをちゃんと伝えないと。


「愛梨…… あの時はごめん、許されないと思うけど、どうしても謝りたくて…… 俺はあの頃からずっと…… ずっと酷い事をしたと謝りたかったんだ」


「……シュウ」


 謝るのは私もなのに…… 


「あははっ、酷い奴だよな! 最後には泣いてる愛梨をそのままにして…… こんな奴の事は忘れて……」


 忘れる? そんな事……


「私は! ……ずっと忘れられなかった、酷い振られ方しても! ずっと…… シュウの事を忘れられなかった! だって…… シュウが泣いてたんだもん! 『さよなら』って言えずに! ……私の方こそごめんなさい…… シュウに辛い思いをさせて…… うぅっ…… シュウぅっ……」


 ずっと…… ずっと心の中で蓋をして、誤魔化しながら過ごしてきた想いが、一気に溢れ出した。

 シュウと冬矢くんへの申し訳なさと、弱くて逃げてばかりだった私の不甲斐なさで、涙が止まらなくなってしまった。


「……ぐすっ、でも、久しぶりに、っ、シュウに会って…… うぅっ、やっぱり私…… シュウじゃなきゃ駄目なんだって分かったの! だから……」


「愛梨…… ごめん! ……本当に、ごめん」


 私の本当の気持ちをさらけ出した…… ずっと言いたかった想いを伝えると、シュウが私を抱き締めてくれた。


 シュウの大きくてゴツゴツした身体、匂い、体温…… やっぱりここが私の居るべき場所なんだと今更ながらに気付かされてしまった。


 冬矢くん…… ごめんなさい…… 私、やっぱり……


「うわぁぁぁん! シュウぅぅぅ……」


 そして私達の止まっていた時間が再び動き出した。

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