冬矢くんとの交際、そして…… (愛梨 専門学校時代)
シュウの名前が出て、私の身体は一瞬金縛りにあったかのように動かなくなった。
……心のどこかで『もう一度シュウに会える口実が出来た』と思ったのかな。
それと同時に頭の中で『私は今、冬矢くんの彼女なんだよ?』と現実を突き付けられ、言葉が出なくなってしまったんだと思う。
小葉紅さんを祝ってあげたい気持ちももちろんあった。
でも、シュウに会ったら今まで築き上げてきた冬矢くんとの関係がおかしくなってしまいそうな気がして……
「ごめん…… ちょっと考えさせてくれないかな?」
『……うん、分かったよ、まだ時間もあるしゆっくり考えてね?』
「ありがとう……」
『でも愛梨ちゃん……』
「何?」
『後悔のないように…… ね?』
…………
後悔…… 私はどうしたらいいの…… どうすればいいんだろう……
穏やかで満たされていたはずの心がグチャグチャと掻き回された気分だった。
私がどうしたいのか分からない……
やだ…… 考えたくないよ……
答えは……
冬矢くんに会いたい……
「もしもし? ……冬矢くん、今から会えるかな?」
安心したかったのか、逃げたかったのか……
連絡に少し驚いていたが、私の様子が少し変だと気付いたのか、冬矢くんはすぐに私と会ってくれた。
そして、グチャグチャの心を落ち着けるために冬矢くんと食事をしながら二人でデートをした。
「急に電話してきて何かあった?」
「ううん…… ただ、冬矢くんに無性に会いたくなって…… うふふっ」
冬矢くんと会って、満たされていく心……
そして食事を終えてぶらぶらと歩いていると
「いきなり会いたいって言われてビックリしたよ」
「うふふっ、嫌だった?」
「そんな事ないけど…… あっ! そうだ、もうすぐクリスマスでしょ? ……だからプレゼントを用意しようと思ったんだけど……」
そう言うと、冬矢くんは私の首にかかっているペンダントに触れようとしてきた。
「これじゃなくて、新しいのを探しに行かない? サプライズでプレゼントしようかと思ったんだけど、エリが気に入って毎日付けてくれるようなやつを、二人で探しに
……」
……ペンダント
『シュウ、この青くて丸い宝石…… 私、気になるなぁ』
『これが良いな、うん、これにしないか?』
『そうだね、私もこれ以外に良いと思うのないかも』
『なんか不思議だけど、愛梨の瞳みたいで綺麗だな……』
…………
「……止めてっ!!」
「エリ!? ……ご、ごめん」
「……冬矢くん、ごめんなさい、私…… 帰るね」
「エリ!!」
触れられたくないと思ってしまった。
外したくないと思ってしまった。
そして…… やっぱりシュウに会いたいって思ってしまった……
私、最低な女だ……
冬矢くんに会って満たされたと感じていても、どこかでシュウと会うことを諦められていなかったんだ。
冬矢くんの事は好き…… でも、忘れられないんだよ……
『後悔のないように…… ね?』
そしてデート以来、就職活動も相まって私と冬矢くんは少しギクシャクしてしまい、二年生の冬休みを迎える頃には……
「私…… 今年は実家に帰るから…… 成人式もあるし」
「ああ…… 気を付けてね」
クリスマスを一緒に過ごす予定を断り、逃げるように実家へ帰ることにした。
成人式まではまだ日にちがあった、一年半ぶりくらいに地元だし、実家にいるお母さんと久しぶりの再会ということもあって、冬休みに入ってすぐ地元に帰ってきたのだが……
「ずっと家に居るわね……」
「えー? 私が居ちゃイヤなの?」
「……ううん、そんな事はないけど」
お母さんが何を言いたいのかは何となく分かる。
『シュウくんに会いに行かないの?』って。
シュウと別れたことは伝えたけど…… 冬矢くんとの事はお母さんに話せていなかった。
何でだろう…… 好きなのに…… 今思えば、伝えたらもう引き返せないという気持ちが強かったんだと思う。
言いたくても言い出せない、そんな様子を見ていたお母さんは勘違いしたんだろうな。
そんな時、帰って来たのを伝えていた小葉紅さんとヤエちゃんが私の事を遊びに誘ってくれた。
小葉紅さんが家まで車で迎えに来てくれて、助手席にはもうヤエちゃんが座っていた。
「愛梨ちゃん、久しぶりー! ……綺麗になったね」
「お久しぶり! そうかな?」
「……エリちゃん大人っぽい ……東京に染まった?」
「もう! 染まったって何? うふふっ」
心を許せる親友とも言える二人と久しぶりに会って、モヤモヤしていた気持ちが少し明るくなった。
高校時代はトリプルデートなんかしたり…… 楽しかったな。
「さっ、今日は気晴らしにドライブだよ!」
「……おーっ!」
「うふふっ、ありがとね、二人とも」
暖房の効いた車の中、外はうっすらと雪が積もり、地元に帰ってきたんだなぁと改めて思った。
小葉紅さんの惚気話聞いたり、ヤエちゃんは相変わらず口数は少ないけどボソッと面白い事を言ったりとドライブをしながらみんなで盛り上がる。
何となく話しやすい雰囲気を二人とも作ってくれて、私もついに二人に打ち明けることにした。
「実はね…… 東京に行ってる間に、彼氏が出来たんだ」
「ま、そうだろうなーって私は思ってたけどね」
「……私も、エリちゃんの雰囲気がちょっと違ったからね」
あはは…… やっぱりバレちゃってたか。
「フリーだったんだし、別に悪い事じゃないでしょ?」
「……そうそう、恋愛は自由」
「うふふっ、ありがと」
「でも、愛梨ちゃん、今…… 幸せ?」
幸せ…… だと思う。
つい最近までそう思っていたはずなのに、即答出来ない自分がいる。
「……愛梨ちゃん、ずっと引きずってるもんね」
「……誰かさんと一緒で」
「……えっ?」
「愛梨ちゃん達が決めた事だから口出しはしないようにしようってヤエちゃんと話してたんだけど」
「……ショウちゃん達ともそう話してた」
「でも…… 黒田くんも、愛梨ちゃんも見ていられなくてね、ちょっとだけおせっかいのつもりで帰って来て欲しいって呼んじゃった…… 勝手な事してごめんね」
「……黒田くんもずっと付けたままだよ、それ」
そう言ってヤエちゃんは助手席から後ろに振り向き、私の首元のペンダントを指差した。
……えっ? シュウがまだ…… ペアのペンダントを?
……この時、塞がったと思っていた心の蓋がずれて、中から何かが溢れてきた。
……何で?
傷付けて…… 私の事が嫌になって…… 別れを切り出したんじゃないの?
……シュウ、どうして?
「だからね…… 前に進むためには、一度会って話をした方がいいよ? 中途半端じゃ可哀想だよ、黒田くんも、東京の彼氏さんも、そして愛梨ちゃんも」
「……そっ、話してから次の一歩を決めてもいいんじゃない?」
……シュウ
「別れてもうすぐ二年でしょ? 二人とも少しは大人になったんだから、あの時とは違って落ち着いて話せると思うし、丁度良かったんじゃない?」
「……大人、ぷぷっ…… 黒田くんの髪型と色…… ぷぷぷっ!」
「コラッ! ヤエちゃん笑っちゃダメでしょ? 『イメチェンしよっかなと思って』って言って、金髪にしてたんだから、黒田くん」
シュウが金髪…… 元々ちょっぴり怖い顔で身体が大きいんだから、余計に怖くなっちゃうよ……
「……ショウちゃん、毎回黒田くんに会うたびに笑ってるよ?」
「だから染めるのをやめたのかまだらになっちゃって、余計に…… ふふっ!」
あの頃からどんな風に変わったのかな、見てみたいな……
「だから直接会ってみなよ」
……そして、私はこの時、シュウと再会してみようと決意をした。
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