目覚め、そして療養 1 (シュウ)
どうやら俺は脚立から転落して、右手の手首が粉砕骨折、腕も骨折していたみたいだ。
足にも擦り傷があり、そして頭を打って気絶していたみたいで、検査をして今の所異常はないと言われたが、病院のベッドで点滴を受けてほぼ丸一日寝ていたらしい。
「…………」
愛梨はベッドの横に置かれた椅子に座り、チラリと俺の方を見ながら、目が合うとすぐにうつ向いて目を逸らす。
痛む右腕とボーッとする頭、それに無言でうつ向く愛梨…… 俺も愛梨の顔をまともに見れず天井を見つめていた。
そして病院の先生が来て色々と説明を受けた後、痛み止めを処方された俺はそのまま帰宅することとなった。
無言だが寄り添い、肩を貸してくれる愛梨に支えられながら病院を出た。
「…………」
「…………」
全治六ヶ月…… しばらくギプスは外せないみたいだし不自由になる……
その間、愛梨はどうするんだろうか。
そして自宅に帰って来て、俺はとりあえずソファーに座らせてもらったが、愛梨はその場に立ったまま動こうとしない。
……帰りたいのか? アイツの所に。
そう思ったが、今はそう言える気分ではなかったので、何も言わずソファーの前にあるテーブルを見つめるしか出来なかった。
「……うっ ……うぅっ」
何で愛梨が泣いてるんだよ、泣きたいのはこっちだ…… 怪我は仕事に集中してなかった俺が悪いが、立て続けにどうしてこんな目に会わなきゃ……
「……うっ、ごめっ、ごめん…… な、さい…… ごめっ、ん、なさい! ごめんなさい! うぅっ!」
「…………」
何が『ごめんなさい』なんだ? 帰ると言って帰って来なかったことか? 俺がケガをした時に居なかったこと? それとも俺に嘘をついて元カレと会ってたことか? そして不倫したことか?
何に対して謝ってるのか、今、この状況の俺にどうしろと言うんだ?
そんな考えが頭の中をグルグルと回るが…… 言葉には出てこない。
「ごめんなさい…… ごめんなさい……」
だから何と言って欲しいんだよ。
『うん、許すよ』とでも言えばいいのか?
そう簡単に許せるはずないだろ…… 許せるはず……
だが俺の中で怒りが湧いては、結局俺が気付かないふりをして見逃したことを思い出し、泣いて謝る愛梨にどう問いかけていいのか分からなくなった。
感情のまま愛梨を責めたい気持ち、知らないふりをしたんだからと水に流そうという気持ち、だけど俺の気持ちの中で一番大きくて、これからどうしていけばいいのか分からなくなる原因はきっと…… 愛梨に裏切られていた事だ。
もちろん不倫もそうだが、専門学校時代に彼氏がいたことを隠しながら今までずっと過ごしていた事。
彼氏がいたと分かって俺が怒ると思ったのか? 俺が酷い振り方をして別れていたんだ、愛梨を責める訳がないだろ?
それよりもそれを隠したまま『ずっとシュウを忘れられなかった』『愛してる』と言っていた事が、結局今まで過ごしてきた日々が、もしかしたら嘘だったんじゃないかとショックを受けているんだ。
「うぅっ…… 傷付けて…… ごめんなさい…… 私…… とんでもないことを…… ごめんなさい…… ごめんなさい……」
泣き崩れ、土下座のような体勢で『ごめんなさい』と繰り返す愛梨。
ただ、今の俺にはそれすらも『嘘』なんじゃないかと感じ、愛梨の謝罪を信じる事が出来なかった。
「どうして…… どうして不倫なんか…… 俺の事が嫌いになったなら、先に言ってくれよ……」
すると愛梨は床に付けていた頭を上げて、泣き顔だが必死な顔で俺に向かって
「嫌いになんてならないよ!! 信じてもらえないかもしれないけど…… 愛してるのはシュウなの!」
…………
「自分でもバカだと思う! ……でも、どうしても断れなくて…… 私がバカなせいで苦しんでいたから…… でも、それでシュウまで傷付けて…… うぅっ、ごめんなさいぃぃ! 捨てないでぇ…… シュウのそばに…… いたいよぉ…… うぅっ、うぅぅ……」
もし愛梨が素直に話してくれていたら、嘘をつかなかったら、俺が愛梨に関するあらゆることから逃げなければ…… こんな事にはならなかっただろう。
でもこうなってしまった場合、どうしたらいいのかすぐには浮かばない、下手したら一生答えなんて出ないんじゃないかと悩んでいた。
もう…… 今日は考えたくないな、怪我と疲労で頭が回らない……
ソファーから痛む身体を庇いながらヨロヨロと立ち上がり、床に蹲るように泣いている愛梨の横を無言で通り抜け、自分の部屋のベッドに倒れるように横になった。
◇
…………うぐっ!!
どれくらい寝ていたのか分からないが、痛み止めが切れてきて腕の痛みが増してきた。
立ち上がるにも右腕は固定され、動くと身体のあちこちが痛み、頭痛もする。
左手でようやく上体を起こし、ベッドの横を見ると、床に座りながら壁に寄りかかり、何も掛けずに寝ている愛梨の姿、そしてその横にはトレイに乗せられた飲み物と薬が置いてあった。
愛梨の寝顔をよく見ると、目は腫れて目の下には隈ができている……
鏡で見た俺と同じような顔をしている愛梨。
そんな姿を見て、怒りよりも悲しみが大きくなる。
どうして愛梨がそんな顔をしているんだよ、傷付けた側なのに俺よりも酷い顔をして……
……何で、不倫なんか。
愛梨の横にある痛み止めの薬を飲み、しばらく愛梨の寝顔を見つめていたが、痛み止めの副作用よる眠気がしてきて悩んだ末、愛梨に毛布をかけて再びベッドに横になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます