再会 3
愛梨が泣き止むまで抱き締めていたら、ふと愛梨の首元にチェーンがあるのが視界の隅に見えた。
見慣れたチェーン…… お揃いのペンダントのチェーンに間違いない。
愛梨も…… ずっと付けていたのかな? そう思うと申し訳ない気持ちになり、俺は強く愛梨を抱き締めていた。
「ぐすっ…… シュウ……」
それに答えるように愛梨も抱き締める力が強くなる…… お互いにもう離れ離れにならないよう、強く……
そしてしばらくして泣き止み、愛梨が落ち着いたのを確認してから俺達は店を出た。
「……明日には飛行機に乗って東京に戻るけど、卒業まであと少しだから、出来れば待ってて欲しい」
「……分かった」
「……何も用事がなくても連絡するかもしれない」
「……ああ、俺もするよ」
「じゃあ、またね…… シュウ」
「またな…… 絶対に待ってるから、卒業まで頑張れよ」
「うん…… うふふっ、おやすみ…… シュウ」
愛梨の実家の前まで辿り着き、そして俺達は再会する事を誓い、本当はまた抱き締めたいと思ったが、何となく、再会して関係を修復するための第一歩を踏み出した俺達には握手の方が良いような気がして、握手をして別れた。
その後、毎日ではないがメッセージのやりとりをしていた俺達だったが、再会から三週間ほど経ったある日、いきなり愛梨から電話がかかってきた。
『シュウ、お願いがあるんだけど、空港まで迎えに来て欲しいの』
しかも前日までメッセージのやりとりはしていたのに、愛梨は地元に帰って来るとは一言も言ってなかったので驚いてしまった。
そして俺は買ったばかりの中古車に乗り、空港まで愛梨を迎えに行ったのだが……
「愛梨!? ……どうしたんだよ、その荷物は」
大きなキャリーバッグに肩にはこっちも大きなボストンバッグを斜めがけにして、重そうにしながら立っていた愛梨を発見した。
「ふふっ、とりあえず…… 助けて、重い……」
慌てて愛梨の持っていた荷物を受け取り、代わりに持ってあげたのだが…… これ、どれだけ詰め込んでるんだ? というくらい両方とも重かった。
そして車まで荷物を運び、積み込んでから改めて愛梨に聞いてみた。
「どうしたんだよ急に帰って来て、しかもこんな荷物…… 学校だって始まって、卒業までまだ日にちがあるって言ってたのに」
「うふふっ、とりあえず移動しようよ、駐車場で話すのも…… ねっ?」
「……ああ、それじゃあ乗って」
「わぁー! シュウが話してた車ってこれなんだぁ、うふふっ、緊張するぅ」
就職してから免許を取り、会社の車を含め約二年乗っているから危なくはないと思うが…… 助手席に親以外の人を乗せるのは初めてだから、俺も少し緊張する。
そしてとりあえず車を発進させ地元方面へと向かった。
「うふふっ、シュウが運転する車に乗っちゃった、うふふっ」
愛梨は機嫌が良さそうに外の景色や運転する俺を見てニコニコしている。
「……で? いい加減教えてくれよ、どうして急に」
「んー? あのね、もう卒業までほとんど学校行かなくてよくなったから…… 下宿先を引き払ってきたの」
「えっ!?」
引き払ってって…… 再会した時にはまだ住んでいて、三週間しか経ってないぞ?
「愛梨、おばさんは知ってるのか?」
「ううん、言ってない、急に思い付いたからねー、うふふっ」
「うふふっ、じゃないよ! えっ、言ってないなら今日はどうするつもりだったんだ? 急に実家に帰ってもおばさんビックリするだろ」
「だから…… シュウに迎えに来てもらったの! うふふっ」
だから『うふふっ』じゃないよ!…… えっ? 俺に迎えに? まさか……
「シュウ、今は一人暮らしなんでしょ? じゃあ大丈夫だよね?」
……実家に住んでいると色々と思い出して辛くなってしまうから、一人暮らしの練習だと言って、逃げるように実家を出たんだ。
愛梨には理由は言わなかったが一人暮らしをしているとは伝えてある、だけど……
「シュウに断られたら行くとこないよ? 外で寝泊まりしなきゃいけなくなっちゃう」
……それ、脅しているのと変わらないよな? ……はぁ、本当に強引だな、でも仕方ない。
「……泊まるのはいいけど、おばさんにはちゃんと伝えるんだぞ?」
「うん! ありがと!」
そして俺の一人暮らししているアパートに到着すると、愛梨は荷物を運び入れ
「ふーん、意外と綺麗にしてるんだねー」
「綺麗にしてるっていうか、狭いから物をあんまり置けないというか…… って、おい!」
到着すると愛梨は荷物を広げ、俺の部屋の空いているスペースに私物を並べ始めた。
「ちゃんと片付けないと寝るスペース作れなさそうだね、あっ、タンス開けてもいい? 押入とかも、邪魔になりそうな物を整理して入れたいから」
特に見られちゃマズイものもないし別にいいんだけど、愛梨の私物をタンスや押入にしまって…… 泊まり、だよな?
「家電は…… 必要なさそうだから実家に送るかな? あとで買い物もしたいなぁ、歯ブラシとか予備で置いてないよね? ……あっ、冷蔵庫に何も入ってない! 食材も買わないとね?」
本当に泊まり? そう思いながらも一日、二日、一週間と過ぎ……
「いってらっしゃい! はい、お弁当」
「ああ、いってきます、愛梨も気を付けて」
泊まりにしては長く、ほぼ同棲なんじゃないかと思い始めた頃、愛梨は卒業のために一時東京へと戻っていった。
ちなみに俺の家に愛梨が居る事は、愛梨の母親、俺の両親にはきちんと許可はもらっている。
愛梨の母親には俺達が再会した事を喜ばれ、愛梨を気に入っている俺の母親は、愛梨にこっそり生活費を渡し、ずっと俺の側に居させようと企んでいるみたいだ。
それにあとで分かった事なんだが、愛梨は決まっていた就職を断り、地元に帰るのを選んでいたみたいで、それを知ったのは愛梨の母親に久しぶりに会った時だった。
有名な映像製作会社だったらしいが、それよりも俺との生活を選んだと聞き、俺は今度こそ愛梨を幸せにしようと決意した。
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