再会 2

「……元気だったか?」


「……うん」


 久しぶりに会った愛梨。

 あれから二年経ち、お互いに二十歳になった。


 でも隣に愛梨が座っていると、まるであの頃に戻ったみたいな気分になってしまう。


「学校はどうしたんだ?」


「……今は冬休み、それで小葉紅さんにどうしても来て欲しいって呼ばれて…… 帰って来たの」


 小葉紅さんに? そう言われ小葉紅さんの方を見ると、リキと二人揃って笑顔でサムズアップして俺達の方を見ていた。


 ……アイツら。


「そうか…… その、学校はどうだ?」


「……うん ……楽しいよ」


 髪を触りながら笑って答えた愛梨だが、俺には楽しそうな顔に見えない…… そりゃそうか、俺が隣にいるんだもんな、あんな振り方をした俺が……


 そしてお互いに沈黙してしまい、どうしようかと悩みながら初めて飲むビールに口を付けた。


 すると急にリキが立ち上がり


「みんな! 今日、実は報告があるんだ!」

 

 んっ? 報告?


「急にデカイ声を出すなよ!」


「……ショウちゃんの声もデカイ」


「何だと!? ……むぐぐっ」


「……静かに ……ショウちゃんお口にチャック」


 そう言って大沢さんは小吉の口に自分の胸部を押し当てて…… チャックじゃないだろ、それ……


「で? 報告って何なんだ?」


 このままじゃ話が進まないと思い、小吉のことはほっといてリキに尋ねる。

 するとリキは小葉紅さんも立ち上がらせて


「実は俺達…… 結婚しまーす!」


 えぇっ!? ……いや、いつするんだろうってくらい仲良しだったから不思議ではないんだけど、いきなりの報告だったから驚いてしまった。


「ふふっ、みんなに報告してから籍を入れるつもりだったから、明日役所に行こうと思ってるの」


「へへっ、そういうこと」


「……リキ、小葉紅さん、おめでとう! ビックリしたよ」


「ありがとう! 秋司!」


「ぷはっ! マジかぁ…… リキ、おめでとう! 小葉紅さん、本当にリキでいいのか? こんなちゃらんぽらんな…… 痛っ!」


「……ショウちゃん?」


「分かったから叩くなよ…… 小葉紅さん、おめでとう」


「心配になる気持ちも分かるわ、でも二人きりの時はすごく頼もしいのよ? 二人きりの時は、ね?」


「何だよ小葉紅ぅー、それじゃあみんなでいる時は頼もしくないみたいじゃないか!」


「ふふっ、さぁ? どうかしらねー?」


 幸せそうに笑う二人を見て、お似合いだなと思う反面……


 拍手しながら複雑そうな顔で笑う愛梨が気になってしまった。


 その後お酒も入り、高校時代の話で盛り上がったり、リキと小葉紅さんの惚気話を聞いたりと楽しくみんなで話をしていたのだが


「ふへへぇっ…… こはくぅ…… あいしてるぞぉー!」


「もう! 飲み過ぎだよ、リキ」


 リキが飲み過ぎたのかベロベロになってしまったので、俺達は飲み会兼リキ達の結婚報告会をお開きにする事となった。


「じゃあなぁー、しゅうじぃ、ちゃんとふるえさんをおくってかえるんだぞぉー」


「ほら! 二人の事はいいから、帰るよ! ……じゃあ、愛梨ちゃん、秋司くん」


「うん、またね…… お幸せに!」


「じゃあ俺達も帰るか…… ヤエ?」


「……うん、帰ろう ……エリちゃん、また」


「ヤエちゃん…… うん、またね……」


 そしてみんなと別れて愛梨と二人きり…… 少し気まずいが、夜も遅いし、女性…… 愛梨を一人で帰すのは危ないから送って行くか。

 最後に大沢さんと愛梨が何か見つめ合っていたのがちょっと気になりはしたが、俺達は歩き始めた。


「……愛梨は今日どこに泊まるんだ?」


「……実家に帰るよ、こっちに帰って来るの久しぶりだし」


 あの頃とは違い、少し離れた距離で並んで歩く俺達。


 ぎこちないが何とか無言にならないよう、他愛のない話をしながら歩いていたが……


「……シュウ、もう少し話がしたいから、もう一軒行かない?」


 ……何の話だと聞きたかったが、愛梨に真剣で少し泣きそうな顔をしながら見つめられると、俺は首を縦に振るしか出来なかった。


 そして少しおしゃれで落ち着いた雰囲気の個室がある居酒屋に入った俺達は、ソフトドリンクと軽いつまみを注文してから話し始めた。


「……シュウ、仕事は慣れた?」


「ああ、だいぶ慣れてきたよ、それに昔から手伝いはしていたからな」


「そう…… それで、今、誰か付き合っている人とか気になっている人はいるの?」


 いきなりかよ…… うん、でも何となく分かっているから聞いているんだよな。


「いや、いないよ…… 仕事でそれどころじゃないって言いたい所だけど……」


 今更だけど…… 本当に今更だけど、愛梨には伝えておかないといけない。


「愛梨…… あの時はごめん、許されないと思うけど、どうしても謝りたくて…… 俺はあの頃からずっと……」


 引きずってて、愛梨の事を忘れられないんだ…… なんて言われたら迷惑だよな。


「ずっと酷い事をしたと謝りたかったんだ」


「……シュウ」


「あははっ、酷い奴だよな! 最後には泣いてる愛梨をそのままにして…… こんな奴の事は忘れて……」


「私は! ……ずっと忘れられなかった、酷い振られ方しても! ずっと…… シュウの事を忘れられなかった!」


 愛梨…… 


「だって…… シュウが泣いてたんだもん! 『さよなら』って言えずに! ……私の方こそごめんなさい…… シュウに辛い思いをさせて…… うぅっ…… シュウぅっ……」


 泣き出してしまった愛梨…… どうしていいか分からない…… こんな俺が、自分の事だけ考えて逃げ出した俺が……


「……ぐすっ、でも、久しぶりに、っ、シュウに会って…… うぅっ、やっぱり私…… シュウじゃなきゃ駄目なんだって分かったの! だから……」


 無意識に身体が動いていた。

 泣いて必死に訴えている愛梨をこのままにしている事が出来ずに抱き締めてしまっていた。


「愛梨…… ごめん! ……本当に、ごめん」


「うわぁぁぁん! シュウぅぅぅ……」


 そして俺達の止まっていた時間が再び動き出した。

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