再会 (シュウ 二十歳) 1

 今頃どうしてるのか? そう思うことは度々あるが、忘れるために必死に仕事に取り組んでいた。


 でも…… 忘れる事なんで出来ない。


 愛梨と別れて二年、俺は二十歳になった。

 高校卒業してすぐに親父の工務店に就職し、家業を継ぐために必死に仕事を覚えようと頑張って働いていた。


「秋司! そろそろ休憩だぞ」


「分かった」


 だが心に空いた穴を埋めれず、引きずったまま…… 新しい恋愛をする気にもなれず仕事ばかりの毎日。


 たまに遊ぶ、仲の良かった高校の同級生には愛梨と別れたと伝えてあるので、会ってもあまりその話題にならないのが救いだ。


 ……あれから愛梨とは一切連絡していないし来てもいない。

 まあ、あんな別れ方をしたら嫌われて当然なんだが。


 汗をタオルで拭い、休憩時に飲もうと思っていた缶コーヒーを開ける。


 そして汗を拭いた時に首元から表に出していた、今でも未練がましく付けている愛梨とお揃いのペンダントにそっと触れ、後悔している気持ちを思い出さないよう作業服の中にペンダントをしまった。




『成人式の後、飲み会するぞ』


 そう連絡してきたのは高校の同級生だったリキ。

 もうすぐ行われる成人式に一緒に参加するのは決まっていたが、飲み会は聞いていなかったので、少し躊躇いながら『了解』と返信すると


『秋司は絶対来ないと駄目だからな』と念を押されてしまった。


 そういう強引なタイプじゃないのに珍しいな、とその時はあまり気にしていなかったのだが、どうしてリキが念を押したのか分かったのは当日になってからだった。




「よう! 来たな、秋司!」


「久しぶり…… ってほどでもないか、おっ、小吉も久しぶり!」


「よっ! ……ぷぷっ、何でまだ金髪なんだよ」


 成人式の当日、リキと小吉と合流し、会場へと向かう。

 小吉とは久しぶりに会うが、会うなり俺の頭を見て、指を差して笑い出した。


 就職して、何となくイメチェンしてみようとずっと思っていて、思いきって髪を染めてみた、だが…… まあ、みんなからの評判が悪い。


「日焼けしてまだらな金色の短髪、しかもムキムキマッチョで高身長って…… ぷぷぷっ」


 すると小吉の背後にいた、俺よりも高身長な女性が喋り出した。


「……ショウちゃん笑いすぎ ……よく見るヤリ◯◯野郎みたいって誰も思ってないから安心して?」


「バカッ! 俺がせっかく言わないでおいたのに…… ヤエ、ちゃんと謝れよ?」


「……黒田くん、ショウちゃんがごめんなさい」


「俺じゃねー! ヤエがだよ!」


「はははっ…… 似たような事をよく言われるから気にしないで」


 高身長の女性は大沢おおさわさん、高校時代と一緒で小吉の後ろにピッタリとくっついて立つ大沢さん、小吉とは幼馴染みで腐れ縁だと聞いていたが、相変わらず仲良しだな。


 言い合いするたびに大沢さんに後ろから抱き着かれ、その…… 豊満な胸部で後頭部を包み込み小吉を黙らせるのも相変わらず…… 本人達は付き合ってないと言っているが、絶対嘘だろ。


 あとは…… 全員揃ったみたいだし、そろそろ会場に入るか。



 そして成人式、小、中学の同級生達と再会して話したり、みんなで記念写真を撮ったりと久しぶりに笑いながら楽しい思いをしながら過ごした。


 ただ中学時代の友達に『あの時口説いていた古江さんとはどうなった?』と聞かれ、色々返答に困ってしまった。




 そして成人式を終えた俺達は、今日の飲み会の会場だという居酒屋まで歩いていた。


「……で? 誰か気になる人は出来たのか?」


「……いや、仕事でそれどころじゃないからな、いないよ」


 途中、リキに聞かれたが、俺はそう答えた。

 ……そう答えるしかないっていうのが正解だがな。

 そんな俺の様子を見て、リキは少し笑顔になって俺の肩をポンポンと叩いた。


「そうかそうか…… まあ仕方ないよな! 仕事なら」


 ここまでリキ達からは愛梨の話題は一切出ていない。

 気を遣わせて悪いと思うが正直助かる。


 あのまま付き合っていたら、今頃愛梨と共に成人式に…… と思うと胸がチクリと痛む。


「おっ! 小葉紅、早いな」


「ふふっ、まあね、楽しみで早く来ちゃった」


 居酒屋に着くとすぐに席に案内され、そこにはリキの彼女の小葉紅さんが既に予約したという席に座っていた。


「じゃあ始めるかー、へへっ」


 大人数で入るような個室、掘りごたつの席で俺達は五人しかいないのに、それにしては広すぎるような気はしたが、あまり気にせず皆それぞれ好きな席に座った。


 リキは小葉紅さんの隣に、小吉が席に着くとすかさず隣に引っ付くように大沢さんが座る。


 そして俺は一人で少し離れて座ると


「何だよ秋司、もうちょっとこっちに来いよ、一人じゃ寂しいだろ」


「いや、別に寂しくはないけどな」


 カップル同士で座っている所に近付くのは少し気が引けるから離れてるだけ、だから気にせず始めていいぞ。


「へへっ、じゃあそんな寂しい秋司のために…… スペシャルゲストを呼ぶか! ……おーい! 入って来ていいよー」


 スペシャルゲスト? ……誰を呼んだんだ?  高校の同級生とかかな?


 そして疑問に思っていると個室の襖がゆっくりと開き、そこに立っていたのは……


「……えっ? な、何でここに……」


「……久しぶり、シュウ」


 少し大人びた、でも忘れられない、忘れるはずのない人が…… 今、東京にいるはずの愛梨が襖を開けて入ってきた。

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