別れ (シュウ 高校生) 1
「シュウ……」
「んっ、飲み物か?」
「うん、喉渇いちゃった」
俺達が付き合い始めて二年、高校生活も残すところあと一年という時期になっても俺達は相変わらず仲良しのままだ。
世の中のカップルには倦怠期というものもあるらしいが、俺達にはあまり関係のない話かもしれない。
付き合いが長くなりお互いへの理解も深まったのもあるけど、多分俺達は元々相性が良いんだと思う。
思考が似ているのか、それともお互いに似てきたのか。
今も何となく愛梨が飲み物を飲みたそうにしていると感じ、言われる前にベッドの脇に置いてあったスポーツドリンクが入ったペットボトルを手渡した。
「ふふっ、ありがと…… ねえ、今度の休み、どこか出かけない? デートしようよ」
デートか、いつも週末になればあちこち行ったりどちらかの家でまったり過ごしていたが、雪解けしたこの時期は親父の仕事が忙しくなるから、その手伝いで愛梨とのデート時間がなかなか作れなかったんだよな……
いつも一緒に登下校しているし、学校ある日は家の手伝いもないから、少し遠回りして帰ったり、こうしてどちらかの家で二人で過ごしてはいるんだけどな。
……それなら街をブラブラ歩いて昼は一緒に外食かな? それとも遊園地や動物園に行くか、うーん…… 映画を見たいような気がするけど、久しぶりの外でのデートだから愛梨の希望も聞かないと決められない。
「あー、そうだな、親父の手伝いもないし…… いいよ、愛梨はどこに行きたいとかある?」
「うーん…… あっ、うふふっ、最近公開になった映画は? あの監督の最新作アニメ」
『シュウならあの映画みたいよね?』っていう顔をしている…… 前作、前々作も面白かったから気になるとは思っていたけど、愛梨にはだいぶ前にチラッと公開になることを話しただけだったはず、やっぱり愛梨の言うように……
「私、シュウの考えてる事、何となく分かっちゃうんだぁー、うふふっ」
お互いに何となく分かってしまう。
だからあまり喧嘩にもならないし、喧嘩になる前に話し合って終わらせることが出来てとても良いんだが、サプライズプレゼントなんてしようとしたら、すぐにバレちゃうのが難点、隠しごとも何となく分かっちゃうんだよ。
「俺も愛梨の事、何となく分かるぞ、そうだなぁ…… ちょっと太った?」
「……っ! デリカシーないんだから、バカ! 信じられない……」
いや、太ったのは一部であとは変わらないんだよな? なぜか俺に知られたくないみたいだけど。
「いやいや、そうじゃなくて…… ここだけ太ったというか、大きくなったんだろ?」
そう言って指で太った部分をつついてみると、怒ったような顔をした愛梨に手を払われた。
「気にしてるんだから言わなくてもいいじゃない! 太って見えるから可愛い服を着れないんだもん……」
確かにお胸様の存在感が強すぎてそう見えるかもしれないが、俺は好きだし気にしなくていいのに。
「ふん! シュウはお胸様星人だからでしょ? 私は気にしてるの! はぁっ、ダイエットしよっかなぁ」
「愛梨、映画の後はスイーツバイキングに行くか」
「ダイエットするって言ってるのに!? ……私を太らせたいの?」
「そう、まるまると太らせて…… 食べちゃうぞー! なんちゃって、ははっ」
「もう、シュウは本当に…… ふふっ、食べられちゃうのかぁ、じゃあ食べられる前に私が食べちゃおっかなぁ……」
そして再びお揃いのペンダントがぶつかり合い……
そんな風に、俺達のペースでまったりと、そして楽しく交際を続けていたのだが、ある日……
何となく分かっていた。
愛梨が進路に悩んでいることを。
そして俺を本当に大切に想っていてくれていることも。
「シュウ…… 私、東京にある映像製作の専門学校に進学しようと思ってるの」
愛梨がそう打ち明けたのは、進路調査の最終段階になってから。
本当にギリギリまで悩んで決めたんだと思うが、結局一度も愛梨の口から相談される事はなかった。
今住んでいる場所からだと、どう頑張っても通学出来ないから、そうなれば東京に下宿して学校に通うことになるだろう。
つまり遠距離恋愛になるという事で……
俺は高校を卒業したら家業を継ぐためにそのまま親父の工務店に就職する予定で、地元からは離れられない。
それは愛梨に伝えているから分かっているはずだ。
今の家からだって通える専門学校はあるけど、そこを選ばなかったのは多分、愛梨が尊敬するクリエイター達の中に東京にある専門学校出身の人が多いからだと思う。
付き合い始めてからも愛梨は趣味で多くの映像作品を作り、色々と勉強していたのは知っていたから応援したい気持ちはある。
だけど……
「二年間、寂しいけど将来のために頑張るつもりだから! ふふっ」
夢に向かって知らない世界に飛び込もうとする愛梨。
なのに俺はたまたま家が小さな工務店で、昔から親父に『跡継ぎ』だと言われてずっとその気になって生活していただけ。
「あっ! 夏休みとかは帰って来るから安心してね? 二年間会えないのは私だって寂しいもん、うふふっ」
「あ、あぁ、そっか! 愛梨は才能あるからな! 頑張れよ」
その時抱いた小さな劣等感。
その小さな傷が、頑張る愛梨の姿によって少しずつ傷口を広げていく事になった。
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