恋人時代 2

「いらっしゃいませー」


 店のドアを開けると正面にカウンターがあり、その向こうで眼鏡をかけた長いストレートの黒髪の綺麗なお姉さんが座っていた、そしてその横には


「よっ、秋司、古江ちゃん! 」


「リキ、それと……」


「へへっ、紹介するよ、俺の彼女の小葉紅こはく


望月もちづき小葉紅こはくです、よろしくね」


「黒田秋司です、今日はよろしくお願いします」


「ふ、古江愛梨です、よろしくお願いします……」


「ふふっ、可愛らしい彼女さんね…… デカッ!」


 いや、愛梨は身長低いですよ…… って、ああ、そこか。

 愛梨は何を言われたのか気付いて、その部分を隠すように俺の背中に隠れた。


「あははっ、ごめんごめん、思わず口に出ちゃった…… それで? 今日はその彼女さんのためにプレゼントをしたいって話よね」


「はい、出来ればペアで付けられるような物が欲しいんですが」


「うーん…… 指輪は将来にとっておくとして…… ブレスレット ……あっ! ペンダントなんてどう?」


 ペンダントかぁ…… それならいつも付けていられそうだな。


「愛梨はどう思う?」


「わ、私!? 私は…… シュウがプレゼントしてくれるなら何でも嬉しいけど……」


「愛梨ちゃん? ペンダントなら学校でも隠して付けていられるよ? それに…… ちょっと耳貸して!」


「えっ、あ、はい……」


 小葉紅さんが愛梨を手招きして、耳元で何かを伝えている。

 何を言っているかは聞こえないが、愛梨の顔が真っ赤になっているのは分かる。


「ぜ、ぜひペンダントでお願いします!」


「うふふっ、じゃあ…… デザインと使う宝石の案をいくつか出すから選んでね?」


 そして小葉紅さんがあらかじめ用意してくれていた、何種類かのチェーンの見本や、ペンダントの飾りに使う小さな宝石とその周りを囲う飾りのデザインを見せてくれた。


「まだまだ駆け出しだから、オリジナルで作ってくれって言われたら大変なの、だからこの中から選んでくれたら嬉しいなぁ、あっ、どうしてもって言うなら時間はかかるけど頑張るよ?」


 そこまで負担をかける訳にはいかないな…… 只でさえ友達価格で格安で作ってくれると言ってくれているのに。


「シュウ、この青くて丸い宝石…… 私、気になるなぁ」


 そう言われるとなぜか俺もそれが一番気になる…… まるで愛梨の瞳みたいだ。

 おかしい、愛梨の瞳は黒いのにどうしてこんなに気になるんだろう。


 これは運命なのかもしれない。


「これが良いな、うん、これにしないか?」


「そうだね、私もこれ以外に良いと思うのないかも」


「じゃあ決まりね! あとはチェーンと……」


 そしてデザインについて色々と話し合い、ようやくどんな形のペンダントにするか決まった。


 出来上がるのは数日後ということで、一週間後ねは休みの日に取りに来る約束をして、俺達はアクセサリーショップを後にした。


「シュウ、ありがと…… でも本当に大丈夫? 結構高かったよ?」


 確かに予算は少しオーバーしてしまったが、二人で決めて、二人で納得したペンダントだ、ケチってはいられないよな。


「大丈夫だよ、だから…… 愛梨も大切に使ってくれたら嬉しいな」


「うん! 絶対大切に使うよ! ずっと…… ずっと使うから……」


 愛梨が想像以上に喜んでくれて嬉しい。

 まだ受け取ってもいないのに目がうるうるしてるし…… ははっ、夏休み頑張って良かった。


「シュウ、大好き……」


「俺も大好きだよ」



 ◇



「うふふっ、どう? 似合うかな?」


「ああ、似合ってるよ、俺の方はどうだ?」


「うん、似合ってる! お揃い…… うふふっ」


 翌週、出来上がったと連絡が来て、再び小葉紅さんのアクセサリーショップに行き、ペンダントを受け取った。


 シルバーの細いチェーンに青くて丸い小さな宝石、その宝石の周りに絡む蔦のような小さな葉っぱのデザインがとてもおしゃれで良い。


 小さなトップの飾りだから邪魔にならないし、いつでもどんな格好でも付けられそうなのがまた良いな。


 愛梨は余程嬉しかったのか、先ほどからトップの飾りを手に取って確認し笑顔に、更に鏡で自分の姿を見て笑顔にとご機嫌だ。


「シュウのも見せて! うふっ、同じだぁ…… うふふっ」


 こんなに笑顔で喜んでくれて、プレゼントは大成功だな。


 

 その後も俺達はずっとお揃いのペンダントを付けていた。

 学校やデートの時、二人で家でイチャイチャする時すらずっとだ。


「なあ…… する時くらい外したら?」


「んーっ? うふっ、やだよぉー、だってイチャイチャしている時も邪魔にならないって小葉紅さんに言われたからペンダントにしたんだもん! ……シュウはイヤなの?」


「いや、別に愛梨が邪魔じゃなければいいんだけど……」


 だって密着しているとカチャカチャ言うし、その…… 体勢によっては谷間に挟まって邪魔じゃないのか心配していたが、愛梨が大丈夫なら俺は特に言う事はない。


「あぁ…… 凄く幸せな気分…… ふふっ、ねぇ、まだ時間大丈夫だよね?」


「……俺は大丈夫だけど」


「お母さん帰って来るまで時間あるから…… ねっ?」


 

 お揃いのペンダントを買って、更に仲が深まった俺達……


 だが、このペンダントのせいで愛梨をずっと縛り付けてしまっていたんではないかと、今更ながら思っている。 

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