出会い (シュウ 中学生) 

 愛梨との出会いは中学三年の時。


 当時中学校の文化祭があり、その中で行われた体育館でのステージでの出し物で見た映像がきっかけだった。


 ステージ場では同じ学年の別のクラスの人達が楽しそうに歌を歌っていた。


 当時流行っていた曲だったと思うが、俺は歌ではなく、学校の大きなプロジェクタースクリーンに映る映像に心を奪われていた。


 学校のプロジェクタースクリーンだから、今考えれば映像も綺麗には見れないし、そんな良いものではない。


 ただ、薄暗い体育館の中で当時見た時の感動は今でも忘れられない。


 ステージで歌っていたのは『四季』をテーマにした曲で、それに合わせて作ったのか、春夏秋冬の移り変わりを写真とCGを上手く組み合わせて映像を作っていた。


 桜の花びらが綺麗に舞い、ピンクの花びらが徐々に黄色に変わりひまわりへ、そして眩しいギラギラとした夏の太陽がやがて赤く染まり紅葉へと、その紅葉はヒラヒラと空へ舞い上がって消えていくと、やがて空から白い雪が降ってきて……


 みんな歌に気を取られ映像なんて気にしていなかっただろうが、とにかく俺は映像ばかりをずっと見ていて、どうせなら学校のプロジェクタースクリーンじゃなくて綺麗な映像で見てみたいと思った。


 そして家に帰って動画サイトで検索してみたが見つけられず、文化祭の次の日、どうしても気になった俺は、あの出し物をやっていた別のクラスの知り合いを訪ねて聞いてみる事にした。


「なあ、あの映像ってどこで見つけたんだ」


「あれ? ……ああ、確か古江ふるえが作ったんじゃなかったかな?」


 古江? 知らないな……


「あそこの席の、ほら…… あの女子だよ」


 そして知り合いが指差した方にいたのは…… 愛梨だった。


 初めて見た印象は…… 垂れ目で幼く見える顔立ち、身長が低いのか、机に座っている姿が小さく見えて、それなのに…… 胸がデカい。

 その時は机に座り本を読んでいて、何だか暗そうな印象の女の子だった。


 ただその時の俺は、あの凄い映像を『作った』と聞いて興奮してしまい、初対面なのに急に話しかけ、馴れ馴れしくしてしまったのを少し反省している。


「あの映像、古江が作ったって本当か!?」


「ひゃあっ!! えっ、あっ、そ、その…… そ、そうだよ……」


「すげぇ! なあ、あれもう一回見たいんだけど」


「あ、あれは…… その、簡単に作ったやつで、まだ完成してないというか…… 途中だから」


「それでもいいから! あの映像、めちゃくちゃ良かったよ!」


「はぇっ!? ひぁ、あ、あり、ありがと…… でも、あのデータは恥ずかしくて消しちゃったし、私のパソコンの中にしか今は…… ないんだ」


 えぇっ!? じゃあ俺んちのパソコンに送る…… いや、完成してないから恥ずかしいって言ってたよな…… それなら!


「じゃあ古江んち行くからさ! 見せてくれよ、お願い! なっ? なっ?」


「えっ、えぇーっ!?」


 思い返せばあの時、我ながら図々しくて、何も考えずに大きな声で話していたな……

 愛梨は恥ずかしかっただろうし、知らない男子が自分の家に来ようとしててきっと困っていたはずだ。


 でも俺は気にせず、何度も褒めてはしつこく頼み込んで、ついに愛梨が折れて許可を得た。


 その後、俺が愛梨の家に行きたいと必死に頼み込んでいる姿を目撃していた愛梨のクラスメイトからは、俺が愛梨を口説いていたと勘違いされていたのが後々分かったんだが、今その話はいいか。


 そして渋々といった感じで一緒に下校し愛梨の家へと初めて行った。


 初めて入った愛梨の部屋。

 あまり物が無くすっきりとした部屋だったが、可愛らしい小物などがさりげなく置いてあっておしゃれで女の子らしい部屋という印象だったな。

 

 それよりも俺は映像を見たくて仕方なかったから、その時はそれどころではなかった。


「……黒田くんが見たいっていう映像はこれだけど、再生するよ?」


 そしてパソコンのモニターでちゃんと見せてもらった映像に…… 再び心を奪われた。

 映像に詳しくないが、色使いや細かなこだわりのポイントなどを愛梨に説明してもらいながら見せてもらい……


「古江! こんなの作れるなんて凄いな! 天才だよ!」


「や、やめてよ! 私、ただ好きで色んなクリエイターさんの真似事をしてるだけだから」


「それでも凄いよ! 古江天才! ブラボー!」


「ぷっっ! ふふっ…… なにそれぇ、ふふふっ!」


 それがきっかけで仲良くなった俺達。

 時々学校ですれ違ったら挨拶し、たまに愛梨が新しい映像を作ったら報告してくれて愛梨の家に遊びに行ったりする友達になった。


 そして


「私、風前かざまえ高校を受けるんだー、黒田くんはどこの高校行くの?」


「風前!? 俺も家から近いから風前受けるぞ!」


「えぇっ! ……じゃあ、受かったら一緒の高校だね、ふふっ」


「そうだな! じゃあ高校入ってからも古江の動画を見せてもらえるな!」


「ふふっ…… そうだね、うん、高校入っても仲良くしてね?」


「もちろん! ……あっ、その前に受験勉強頑張らないと!」


「ふふふっ、黒田くん受験大丈夫そう? ……もし良かったら私が勉強教えてあげようか?」


「マジで!? 教えてくれよ、大丈夫だと思うけど不安なんだよなぁー」


「じゃあ…… 今度から動画を見るよりも勉強会だね」


「動画も見たいなぁ…… 古江の動画、好きだし」


「ふぇぇっ!? す、す、好きぃ!?」


「……っ? あ、あぁ、好きだぞ」


「…………ありがと」


 そして、受験勉強も一緒にする事になり、会う機会が更に増えた俺達。


 受験勉強や動画の他にもくだらない話で盛り上がったりと、どんどん仲良くなり……



「……あった! 受かったよ! 黒田くんは?」


「……184 ……184 ……ない」


「えっ!? ……んっ? 184? 黒田くん、148じゃなかった?」


「……あっ、そうだった!! ……あ、あったぁぁぁっ! あったぞぉー!」


「ふふふっ、黒田くん、おっちょこちょいなんだから! 良かったぁ…… 高校でもよろしくね、黒田くん」


「ああ、よろしくな、古江」



 その後、高校に入学する頃にはお互いに意識するようになり、どちらからともなく告白し合った俺達は高校一年の時、恋人同士になった。

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