不倫の発覚 3

 このまま逃げ出したい気持ちになりながらも車を走らせ自宅に帰る。


 そして深呼吸をしてから玄関のドアを開けると、愛梨がすぐに出迎えてくれた。


「おかえり、調子は大丈夫?」


「ただいま…… うん、昨日よりは良いかな?」


「そう…… ご飯は食べれそう? 一応お粥も作ってあるけど」


「ありがとう、とりあえず先に風呂に入っちゃうかな」


「お風呂の用意もしてあるから大丈夫だよ」


 心配そうな顔をして俺を見つめてくる愛梨に、笑顔で答えてそのまま風呂場へと向かう。


 脱衣場には既に着替えも用意してあり、いつもの事のようになってしまってはいるが、毎回感謝している。

 ……でも、結婚した当初に話し合って家事は分担しようと決めたのに、気付けば今は愛梨の方が多く負担しているよな。

 

『在宅で仕事をしているから気にしないで』とは言っていたが、そういう不満が溜まった結果、浮気に走ったのか?


 ……いけない、また悪い方へと思考が傾いてしまっているな、これじゃあ愛梨の前で顔に出てしまいそうだ。


 服を脱ぎ風呂場に入るとすぐに、悪い考えを消すために頭からシャワーを浴びた。

 少し冷たかったがおかげで気持ちが引き締まったように感じた。


 そして身体を洗い、湯船に浸かりながら何も考えないようにぼんやりと天井を見つめていると、脱衣場に愛梨が入ってきた。


「シュウ…… 一緒に入ってもいい?」


「……えっ?」


 ……たまに一緒に入る事はあるけど、今日? 


「風邪とかではないんでしょ? なら一緒に入りたいなぁ」


 風呂場の扉を少し開け、隙間からこちらを覗きながら甘えるような声を出している。

 いつもなら可愛いと思うかもしれないが、今は何かあるんじゃないかと疑ってしまう…… 


「……ダメ?」


「……いや、大丈夫だよ、一緒に入ろう」


「ふふっ、ありがと」


 嬉しそうに笑いながら扉を一旦閉め、服を脱いだ愛梨はそのまま風呂場へと入ってきた。


「失礼しまーす、うふふっ」


 身体を少し手で隠しながら、恥ずかしそうに笑っている。

 相変わらずと言っていいのか分からないが肉付きの良いスタイル抜群の身体。

 特に目を引く豊満な胸は、愛梨にとってはコンプレックスらしく、普段は目立たないような服装を好んでしている。


 流石に俺の前ではそんなに恥ずかしがる事はないけど、明るい所で見られるのは少し恥ずかしいみたいだ。


「恥ずかしいからそんなに見ないで……」


「あ、ああ、ごめん……」


「もう! 冗談だから真に受けないでよ、ふふっ」


 そう言いつつも、少し赤くなった顔を誤魔化すようにシャワーを浴び、軽く身体を洗ってから湯船に入ってきた。


「よいしょ……」


 一緒に湯船に入る時には必ず背中を俺に預けるように同じ向きで入りたがる愛梨、そのためにスペースを開けると笑顔で俺の方を見てから、愛梨は俺に持たれかかってきた。


「調子が悪いのにワガママ言ってごめんね……」


「昨日ほどではないし、今はそんなに悪くないから大丈夫だよ」


 ……気分が落ち込んでるだけで、と付け加えたかったが悟られるといけないと思い、愛梨の身体を抱き締めた。


「うふふっ、良かったぁ……」


 俺の答えに安心したのか、愛梨は抱き締めている俺の腕に手を添えてきた。



 その後、色々と他愛のない話をしながらお互いに身体を洗ったりとゆったりと風呂に入り、風呂から上がってからリビングのソファーで二人で冷たい飲み物を飲みながら少し休憩し、愛梨の用意した晩御飯を食べ、リビングでくつろいだ後は……


「シュウ…… 今日、いい?」


 そういう雰囲気はしていたが、愛梨に誘われ夜の営みを……


 やはりと言うべきか、愛梨は甘えるように求めてきて、行為中も何度も俺に対する愛の言葉を繰り返していた。


 それに答えるようと俺も愛梨に何度も愛を囁き、行為が終わった後もしばらく離れずに抱き締めていた。


 ただ、興奮が冷めてくると頭の中には再び不安が襲ってくる。


 最近、行為中の愛梨はいつもより積極的になっているような気がする。

 それは愛されているからなのか、それとも元カレとの浮気がバレないようにするためなのか、普段の愛梨の様子からは浮気なんてしているとは一切感じないのだが、俺が鈍いからなのか、本当に浮気してないからなのか……


 ああ、また悪い思考に…… せっかく家では忘れようと頑張っていたのに。


「シュウ、愛してる……」


 キスをされたが、愛梨、その言葉を本当に信じていいのか?


「俺も愛してるよ、愛梨」


 不安を消し去りたくて、愛梨を強く抱き締めてから再びキスをした。


 

 ◇



 愛梨の言っていた通り、次の日は毎週行っていた『打ち合わせ』には出掛けず、いつものように自宅で過ごしていた。

 そして次の週も打ち合わせはなく、愛梨は在宅で仕事をしていた。


 その他にも特に怪しい行動もないし、少し安心していたのだが、数日後……



「シュウ? 実は高校時代の同級生と旅行したいんだけど…… あっ、女の子だよ? 美鳥みどりちゃんって覚えてる? あの子に誘われて、あと美鳥ちゃんの友達二人とあわせて四人で三泊四日の旅行なんだけど…… 良い?」


 それを聞いて、俺は胸を締め付けられるような感覚がした。

 高校時代? いや、美鳥っていう子は知っているけど…… 本当か?


「久しぶりに会うから出来れば行きたいんだけど…… 駄目かな?」


「……良いんじゃないか? 行っておいで」


「……っ! ありがとう、シュウ」


 胸が苦しい…… けど、気付かれないよう笑顔でそう答えると、愛梨は横髪を人差し指でくるくると触りながら笑顔で喜んでいた。


 だけど俺は知っている。

 愛梨が横髪を人差し指で触っている時は、嘘をついている事が多いという事を。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る