第82話
ユリフィスは唐突に思い出した。
ハーズの街で死にかけた最初の臣下の話を。
ブラストは教会の中で瀕死の状態で倒れていた。
彼を追い込んだのはジゼルの力量もあっただろう。
しかし何よりあの教会の英雄が持っていた十字剣の存在が大きかったと、ブラストは後に語った。
それと同じで、魔物としての力を封じる何かがあの義手に仕込まれているらしい。
身体能力を倍増させる竜化が使えなくなったが、それでもユリフィスはスペルディア侯爵との闘いでレベルが上がっているため、素のステータスでグライスを超えている。
(……だが風の付与魔法は厄介だ)
「<
暴風を身体と武具に纏うグライス。
不敵な笑みと共に、彼は振動する槍で高速の突きを連続して放った。
対するユリフィスは再び灰色の剣を生成して二刀流になり、両方に金の炎を纏わせ迎え撃った。
属性武装同士の衝突が大気を震わせる。
「おいおいどうした? 随分と苦しそうだな?」
一発だけ防ぎきれなかった。グライスの豪槍がユリフィスの肩を掠る。
付与魔法によってグライスの身体能力が大幅に向上している影響だ。
素のステータスで勝っていても風の加護が相手にある以上、ジリ貧だ。
「……やれやれ」
とは言え、魔物としての力は封じられても魔法は使える。
ユリフィスは二本の剣を交差して受け止めた槍を強引に払い、一度大きく距離を取るために後ろへ飛んだ。
(<
追撃しようとしたグライスだが、目の前に顕現した黄金の炎の身体を持つ獅子が邪魔する。
肌を焼くような熱気と共に爪が振るわれるが、グライスはそれを腰を屈めて難なく躱した。
それから間髪入れずに風を纏わせた槍を横凪ぎにするが、獅子の身体を覆った灰色の金属によって止められる。
「合成魔法<
「森での続きだな、だが――今度は俺が勝たせてもらう」
グライスが右手の義手を持ち上げた。
空洞になっている手のひらの中央に再び光の粒子が集まっていく。
「<
一条の光が金属の鎧を纏った獅子の胴体を吹き飛ばした。
そのままグライスは金の炎の中を、全身に風を纏わせ強引に突っ切ってユリフィスに肉薄する。
瞠目するユリフィスの目前まで迫った英雄は笑みを浮かべて纏う風を回転させた必殺の突きを放つ。
「これで終わりだッ、【
回避はもはや間に合わない。
「――仕方ない。使うぞ、セレノア」
瞬間、ユリフィスの身体から黒い風が吹き荒れる。
「<
風を付与した事で、より速さと力が向上する。
一瞬のうちにユリフィスは金の炎を消して、黒い風を長剣に纏わせる。
翡翠の風と、黒き風。
同じ属性を付与した武具同士が衝突して、耳鳴りのような甲高い音が鳴り響く。
二人は鍔迫り合いを激しく演じながら、
「……クソッ、それはヴィントホークの……!」
「第二ラウンド開始と行こうか」
そう告げたユリフィスの背後に、黒い風が集まり巨大な鷲が現れた。
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