第49話



 どういう原理か若返り、線が細い美青年となったスペルディア侯爵。

 

 後衛の魔法使いにしか見えない彼は、添えられた剣を素手で掴みどんどん首元から引き離していく。


 ユリフィスは勿論、力を入れている。力の限り抵抗しているにも関わらず、剣はどんどん首から離される。


(つまりは素の俺以上の筋力を持っているのか?)


 抵抗しながら、【探究者の義眼】に魔力を送って侯爵を視る。


名前 ルフト・スペルディア

レべル:68

異名:大魔法使い(血統魔法の威力が30%上昇)

種族:人造魔人族

体力:1200/1200

攻撃:593

防御:574+150

敏捷:533+250

魔力:1500/1500

魔攻:604

魔防:604+250

異形魔法:【憑依ポゼスト】【呪葬毒ポイズン・カース】【地獄炎ヘル・フレイム】【破滅光線カラミティ・ゲイザー】【装甲岩化アーマー・ロック

固有魔法:【なし】

血統魔法:【魔法模倣マジック・ミラー】 

技能:【身体能力超強化】【身体活性】【超再生】




 表示されたステータス欄を見て、ユリフィスは珍しく頬をひきつらせた。


 あのグライスよりも強い。

 ゲームでは終盤の終盤に登場するレベルの強敵だ。


 今のフリーシアやマリーベルでは一撃でもくらったら致命傷になる。


 危機意識を高めたユリフィスは再度剣に力を籠めるが、


「――マンティコアの毒をくらってみるかい? <呪葬毒ポイズン・カース>」


 ユリフィスの剣を掴んだまま侯爵が不敵に笑った。

 その瞬間、剣の刀身に紫色の毒が這いあがってくる。


 すぐに手を離すと、剣は脆く砕け散った。


「惜しいね。良い反応だ」


 侯爵は余裕そうに呟き、体術を駆使して接近戦を挑んでくる。

 彼の蹴りをユリフィスが腕で受け止めると、自らの骨が軋む音が耳に届いた。


 感じた苦痛に奥歯を噛み締めながら耐えつつ、ユリフィスは灰魔鋼グレイ・メタルを使って侯爵の背後に灰色の斧を生成する。


「――これで、どうだッ!」


 それを空中で掴んだマリーベルが侯爵の背に向かって斧を勢いよく振り下ろす。

 しかし、


「アーマーザウルスの皮膚は外敵を前にすると厚くなるんだよ。<装甲岩化アーマー・ロック>」


侯爵の背中から岩石のような装甲が突如として生えた。


それによって斧は弾かれ、マリーベルの体勢が後ろにのけ反る。

 

「メイド風情が……私に刃を向けるとは」


 致命的な隙を見逃さず、侯爵は流れるような動作でマリーベルに手のひらを向けた。


「ヤバいッ!?」


「<破滅光線カラミティ・ゲイザー>」


 侯爵の手のひらの中央にぎょろりとした魔物の眼が開かれる。

 その瞳から超速の光線が放たれた。


「私がお守りいたします……! <白の聖王結界アーク・リフレクト>」

 

 間一髪、マリーベルの前に光の盾が現れた。

 光線が結界に激突する。


 だが光の盾はびくともせず、超速の熱戦を反射した。


 至近距離だったためか、その一撃を侯爵は避ける事ができず左肩に命中。

 貫かれた個所から鮮血が舞う中、ユリフィスは竜化を発動した。


 一瞬で第二形態――純白の竜鱗を纏う鎧武者と化したユリフィスは、<灰魔鋼グレイ・メタル>で生み出した剣に<獅子王の光炎レオ・ブレイズ>を纏わせて一閃した。


 しかし、


「属性武装なら私にもできるさ」


 侯爵の右腕が岩石のような装甲に包まれ、更にその岩の拳に蒼い炎が灯る。

 その大きな拳によってユリフィスの必殺の剣は受け止められた。


「ケルベロスが操る地獄の炎とそのブランニウル家の黄金の炎。どちらが強いかな?」

 

「悪いが、俺の剣はまだ強くなるぞ」


 そのユリフィスの言葉に侯爵が内心首を捻るが、


「……私もいるのよ、クソジジイッ。<覇風ハスカール>」


 ノエルが侯爵の死角から魔法模倣マジック・ミラーによってコピーしたグライスの魔法を行使した。


 この魔法の真髄はグライスを見て分かる通り武器に纏わせる事で真価を発揮する付与魔法だ。


 振動する風の力がユリフィスの剣に加わった事で、切れ味が凄まじく上昇する。


 結果蒼炎を纏った岩石の拳を一刀両断する事に成功。そのままユリフィスは二撃目に繫げ、侯爵の身体を袈裟斬りにするが、


「――素晴らしい。その力、その姿」


 白い煙を上げながら、まるで逆再生のように傷が治癒していく。

 普通なら命に関わるような傷を与えたはずだ。


 だが、侯爵は依然として余裕を崩さない。


 ユリフィスは一度距離を置いて、マリーベルとフリーシアを背後に庇うような立ち位置を取った。


「皇子殿下、貴方がまさか竜種の血を引いているなんてね」


 完全に元通りになった侯爵がユリフィスに対して優し気な笑みを浮かべる。


「……」


「その力が欲しい。貴方にも魔石があるのかな? あるとしたら、それは身体のどこにあるのかな?」


 瞳を不気味に光らせながら、舌なめずりをする侯爵の姿にマリーベルが顔をしかめながら腕を摩った。


「な、なんか気持ち悪いねッ」


「……それには同意するが、気をつけろよ」


「ユリフィス様、貴方様の身は私がお守りいたします」

 

 婚約者の言葉に頷き返しながら、油断なく侯爵を見据える。


 侯爵は着ている豪華なローブについた自らの血を払いながら、


「それにしてもノエル。君は……唯一災害級の魔物の魔石を埋め込んだ自信作だったのに。裏切られるとはショックだよ」


「……ふざけないで。誰がこんな身体にしてくれなんて頼んだの」


「子は親に従う。君が大好きな”普通”の事だろう?」


「……貴方は普通の親じゃない。いや、人族ですらないわ」


 吐き捨てるように強い口調で、ノエルが言う。


「それは君もだろう。反抗期の子供には罰を与える必要があるね。シセンの粉は、君にはもう与えないよ。心が壊れる程の痛みを体験して、君の方から許しを請うまで私は君を決して許さない」


 冷え切った親子の会話に、ユリフィスは割って入った。


「侯爵、もうこれからの事を考える必要などない。ここがお前の墓場になるのだから」

 

 刀身に再び黄金の炎を纏わせたユリフィスが、剣先を侯爵に突き付けた。


 

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