第43話
スペルディア侯爵は熱心な魔物の研究者だ。
寿命を延ばす為にあらゆる非道なことに手を染め、結果として教会と敵対している。
それだけ聞けば原作のユリフィスと手を組んでも良いものだが、作中での侯爵は半魔の皇子が皇帝となった新生ヴァンフレイム帝国から離反し、隣国のブレンダイア闘国に亡命した。
それ以降、物語には登場しない。
だから戦い方はおろか、容姿すら分からない。
ちなみにそのブレンダイア闘国を攻めていたのが、覇道六鬼将の一人である【不死姫ノエル】だった。
恐らく闘国との戦争は建前で、亡命した侯爵を殺そうと躍起になっていたのだろうと今考えれば分かる。
「――侯爵と戦う上で作戦を練りたい。まずはどうやって魔法都市へ侵入するかだ」
ユリフィスは手近な場所にあった切り株に座り、意見を募った。
瞳が複眼になっている少年レインは地面に座り込んだ体勢で挙手をした。
「……魔法都市は遺跡から発掘した古代魔道具の能力で透明化しています。内側にいる者がその能力を解除しなければ永遠に姿は見えません。ですが、そこは俺が中にいる者に合図を送れば済む話です」
「侵入は可能と。では侯爵側の戦力については」
「主力は魔石を身体に埋め込み、魔物の能力を獲得した我々魔人兵です。皆侯爵の子供たちで、二十数名はいます」
ユリフィスは一つ頷きながら、
魔人兵の強さの指標を確認するべく、ユリフィスは魔道具に魔力を送り、レインのステータスを覗く。
名前 レイン・スペルディア
レべル:40
異名:糸使い(異形魔法の威力が5%上昇)
種族:人造魔人族
体力:354/354
攻撃:203
防御:134+35
敏捷:232+35
魔力:134/114
魔攻:123
魔防:198+35
固有魔法【なし】
異形魔法【
血統魔法:【
技能:【身体能力強化】【再生】
「――中々に強いな」
ユリフィスの護衛役であるブランニウル公の騎士を優に超える魔人兵。
彼らは原作で侯爵についていったのか、作中にはノエル以外登場しなかった。
「……お前と他の奴らで強さに差はないか?」
「年長になればなるほど強いですが、そこまでの差はないはずです」
一対一ならユリフィスは片手間で片付けられるレベルではある。
だが、多対一の状況になると少々手こずるかもしれない。
再生の
ノエルの様子を診ながら、今まで黙って聞いていたマリーベルが思いついたように口を開いた。
「……でもさ、レイン君と同じで皆シセンの粉に依存させられてるんだよね?」
「……レイン君……い、いやそうだな」
複眼を奇妙に瞬きしながら、レインは肯定した。
「であれば、事情を説明すれば私たちの味方になってはくれないでしょうか?」
フリーシアが後を引き継ぎ、レインに問う。
彼は俯きながら、
「父を恨んでいる兄弟は多い。ですが、それ以上に恐れてもいます。離反する覚悟よりも、逆らう恐怖が勝るかと」
「……魔人兵と戦うのは得策ではない。そもそもノエルと約束したしな」
兄弟姉妹を傷つけないという約束。
だがそれとは別に、ユリフィスとしては魔人たちを丸ごと配下として迎え入れたいという思惑もある。
その存在に同情した事も確かだが、それ以上に戦力として価値がある。
もし全員を配下にできれば凄まじい戦力の上昇だ。
「あとは侯爵の研究に協力している帝国の一部の貴族達も魔法都市にいます。領民はほとんどが古代遺跡を研究する為に集まった学者でしたが、侯爵は彼らを捕らえて人体実験の被験者にしたため、今では誰一人としていません」
「……一人もか」
「はい。それ以外には研究の仮定でできた
ユリフィスは乾いた唇を舐めながら、顎に手を添えて思案する。
「……軍隊か。フォードの街を治めるエルバン伯爵家に要請すれば軍を出してくれるだろうが、あまり大ごとにはしたくない」
帝都にいる第一皇子や第二皇子の耳に入るような大きな動きはしたくない。
それも本心ではあるが、ユリフィスとしては予想以上に多くの戦力を保有するスペルディア侯爵について興味が出てきた。
叶うなら、侯爵本人も殺した後で戦力として迎え入れたいという欲が芽生えたのだ。
(……ノエルは嫌がるだろうが。折角侯爵は教会と敵対してくれているんだ。侯爵には死後も教会の力を少しでも削ってもらわなければ)
片腕を失ったグライスは、きっと戦力をかき集めて報復にくる。
だが、その相手は侯爵にさせれば良い。
ノエルの能力で
「侯爵側の全ての戦力を傷つけず、侯爵だけを始末したい」
「……無理難題にも……ほどがあるわね」
禁断症状に苦しむノエルが、ユリフィスに対して呆れを滲ませながら会話に混ざった。
「いや、意外とそうでもない」
ユリフィスは心の中で嗤いながら口を開いた。
「――フリーシアとマリーベル。ついてきたいなら、君達には芝居に付き合ってもらうぞ」
きょとんとして顔を見合わせる二人の美少女に対して、ユリフィスは作戦の内容を説明した。
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