第27話

 

 かつてない死闘を終えて、ブラストは荒い息を吐きながら片膝をついた。


 自らの血みどろの身体を見下ろし、顔をしかめる。

 【再生】の技能スキルはまだ発動しない。


 傍にあるもう二度と動かないジゼルの死体を恨めし気に眺める。


 このままでは折角勝ったのに相打ちになりそうな勢いである。


 とは言え、死力を尽くした甲斐があった。


 彼を殺した直後、ブラストは己の身体に


「……もしかするとこいつは……」


 朦朧とする意識を何とか繋ぎ止めながら呟くブラストの耳に、しわがれた声が届いた。


『こんな事が起こり得るのか……』


 ブラストは祭壇の上にある水晶玉に視線を向ける。


『……まさか、まさかだ。興味本位で覗いていたら、よもやこんな結果に終わるとは……』


 戦いになる直前、ジゼルが連絡を取っていた人物だろう。


 つまり教会の者だ。


 戦いの一部始終を視られていたとは思わなかったブラストは、苛立たし気に水晶玉を睨んだ。


『……何とも不甲斐ない男だ。あれだけ目をかけてやったのに恩を仇で返すとは……』


「……てめえは誰だ」


『黙れ大鬼オーガの半魔。貴様の顔は覚えたぞ。すぐに次の【世界を正す者達スティグマ】を派遣しよう。貴様ら半魔は世界の害悪。我々が地の果てまで追いかけて駆除してやるッ』


 姿は見えなくても、色濃く憎悪が感じられる老人の声にブラストは笑みを浮かべた。


「……いくらでも来いよ教会」


 もはや何を言っても無駄だ。


 彼らが半魔を殺すというなら、自分達も教会を滅ぼすまで。


 数多の英雄たちが籍を置く神正教。だが存外、滅ぼす事は可能なように思えてくる。


 ユリフィスとの魔力共有。

 それだけでも自分は遥かに強くなった。


 そして今、更に強くなる。


 神正教の最強戦力【世界を正す者達スティグマ」】。彼らは偉業を達成し、神から固有魔法を得た英雄である。


 そして、その英雄をブラストは討伐した。

 英雄の討伐。


 それは紛れもない偉業である。


 。しかしブラストは魔法なんて当然行使したことはない。

 未知の力のはずだが、どういうわけか今は使い方が良く分かる。


「……試し射ちに丁度良い的だ」


 固有魔法【灰魔鋼グレイ・メタル】。


 その能力は鋼の生成である。

 いうなれば、ベリル家の石創成という血統魔法の完全上位互換。


 突き出した手のひらから、魔力によって鋼状の杭が生み出される。


『それは……まさか魔法だというのか……?』


 水晶玉から驚愕の声が漏れる。


「……どうせ教会は滅ぼすんだ。そっちから来てくれるなら手間が省けるってもんだ」


 ブラストの髪色と同じ灰色の巨大な弾丸が射出される。

 凄まじい速さで飛んでいくが、狙いは寸分違わずに水晶玉に命中した。


 木っ端微塵になった水晶の欠片が教会中に飛び散っていく。

 もう耳障りな声は聞こえない。


「……どんな……使い方が……強え、かな……」


 それを確認してから、ブラストは力尽きたように前のめりに倒れた。


 新たに得た固有魔法。

 その力の使い方を夢想しながら。


 

 

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