第19話
ユリフィスは、背中に鋭い痛みを感じながら腕の中の少女を見下ろした。
彼女は、驚いた表情でユリフィスを見上げている。
思わず安堵した。
ブラストの大切な人は間違いなく生きている。
「……お、お前……」
彼女の後ろで、ブラストは目を見開いて呆然としていた。
ユリフィスは良かったと、素直にそう思った。
原作ではブラストは裏社会を支配する大犯罪者として主人公の前に立ち塞がる強敵だ。
そんな奴が魔導帝の一部下である事に戦慄しながら主人公は戦いを挑んでいく。
もし、彼の恋人であるレイサが死んでいたら。
ブラストは怒りのままに鬼化して暴れ、その後殺戮の限りを尽くす。
そして恐らく指名手配されていただろう。
騎士団や教会からの捜査を逃れるために、裏社会に身を潜めたのだとしたらその後の展開に納得がいく。
だがその結果、彼の半生はきっと血に塗れた戦いの連続だったはずだ。
ユリフィスと同じく愛する者の死によって彼は闇落ちした結果、最後は
あまりに救われないと、ユリフィスは思うのだ。
「ふふ、ははははッ、やっぱり僕の魔法の力は素晴らしいな! 視た通りに事が進んだよッ」
「……」
ユリフィスは背後を振り向きながら、長剣を抜いた。
動く度に、血がダラダラと流れ落ちる。
「ちょ、ど、どこの誰か知らないけどありがとう! 本当に! でもその傷で動いたら死んでしまうわ!」
「……お前……何で」
背後に庇う二人を他所に、ユリフィスは【探究者の義眼】に魔力を流して十字剣を持つ青年を視た。
名前 ジゼル
レべル:59
異名:浄剣(魔に属する者と相対した時、全能力7%上昇)
種族:人族
体力:600/600
攻撃:258+140
防御:234
敏捷:304
魔力:284/284
魔攻:187
魔防:288
固有魔法【
血統魔法:【なし】
技能:【身体能力強化】【浄掃剣】
現時点のブラストより一回り高いステータス。
魔の者への特攻能力。
確かに強い。
流石は教会の最強戦力である【正義を正す者達】だ。
固有魔法は、偉業を達成した者に与えられる崇高な力。というのがこの世界での認識である。
まさしく神に祝福された選ばれし英雄の証。
だが固有魔法を持つその英雄は、英雄に似つかわしくない残虐な笑みを浮かべてユリフィスを見下ろしていた。
「元々僕の狙いは君だった。君さえ殺せば後はどうにでもなる」
「……お前が視た未来でっ……俺は本当に死んでいたか……?」
「はぁ? その傷は致命傷だよね? どう考えても死ぬ――」
その瞬間、ユリフィスは一瞬だけ
古今東西のラスボスは、よく形態を変化させる。
当然、彼もそうだ。
それも三つの形態を持っている。
第一形態は人族と大差ない人間形態。
第二形態は、人型のままで竜の鱗を鎧のように全身に纏う竜人形態。
とは言え、傷が治るわけじゃない。
そこはゲームのようにはいかないが、目的はレイサを救う事だ。
既に目的を達成しているのだから、この場にいる必要はない。
「……ならこの未来は……視えていたかっ?」
ユリフィスは長剣を振るった。
その一刀がジゼルの首を切断する寸前。
ジゼルは十字剣を斬撃の軌道に割り込ませて盾とした。
しかし、その威力は予想以上で、到底抑えられずジゼルは物凄い速さで屋敷の壁目掛けて吹き飛んでいく。
「……クソッ」
ユリフィスは仮面の下で唇を噛んだ。
(殺しきれなかった……)
欲を言えば教会最高戦力を削っておきたかったが仕方ない。背中に走る激痛で、上手く力が入らなかったのだ。
視界が霞みだしたユリフィスは竜化を解く。
そして崩れ落ちそうになる彼の身体をブラストが支えた。
「……お前には……一生かかっても返せない借りができた」
「……なら、将来の進路は決まりだな」
ブラストは躊躇いなく頷いた後、ユリフィスの身体を横に担ぎ、
「痛い……」
「我慢しろ。それくらいじゃ死なねえ事を俺は知ってんだ」
さらにブラストの恋人であるレイサも同じように担いで、
「……ふあッ」
「掴まってろッ」
ブラストは走り出した。
気が付けば完全に朝日が昇っている。
街中でこれだけ大騒ぎしたからか、周りには多くの民衆が遠目からこちらを見つめていた。
だが、そんな事を気にしている場合じゃない。
まずはユリフィスの護衛部隊と一刻も早く合流しなければならない。
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