第14話


 原作で、魔導帝ユリフィスを支えた六名の腹心【覇道六鬼将】。


 彼らは皆、過去に大切な人を亡くしている。

 ユリフィス同様、世界に一度絶望しているのだ。


 だから人類の殲滅という目的に賛同して、ユリフィスに手を貸した。


 悪役側の詳しい過去はゲーム上では描かれなかったため、詳しくは分からない。

 しかしこの流れ。


 恐らく本来はこの一件によってブラストは大切な人を失ってしまうのだろう。


 原作でユリフィスが彼と出会うのは四年後。ユリフィスが自らの婚約者の死を知り、二人の皇子を殺害して帝位を簒奪してからである。


 その時、ブラストはとある貴族を殺害した罪により犯罪者になっており、裏社会で闇組織を束ねる王となっていた。


「……何でお前が」


 月明かりに照らされた一人の青年の姿がユリフィスの視界に浮き上がる。


 角が生えた頭部に鍛え上げられた大柄な肉体、そして野性味溢れる顔立ち。

 ブラストは街道で蹴られた腹を忌々しそうに撫でながら、背後から近づくユリフィスの姿を睨んだ。


「……連れ戻しに来たのか? 余計な事をすんなって」


「いや、違う」


 ユリフィスは地図を見ながら歩く。

 ハーズの街、その場所を確認しながら、


「お前の目的に手を貸すために来た」


「何でだッ⁉ なんでお偉い皇子様があんな村に……俺に手を貸すッ」


「お前が配下に欲しいからだ」


「……何だと?」


「真実を言うと、俺はあの村の人々含めて可哀想な人達を助けたいなんて思っていない。ただお前に恩を売りつけて、配下に加えたいと考えているだけだ」


「……」


「悪い話じゃないはずだ。あの村では受け入れられているが、お前は半魔だろう? 街じゃ――」


「んな事は知ってる」


 ブラストは自らに生えた角を触りながら、


「元々、あの村の奴らだって最初は俺を嫌ってたからな」


「……そうなのか? 意外だな」


 ユリフィスは軽く驚きながらブラストの隣に並んだ。


「俺は半分、魔物の中でも特に凶暴な大鬼オーガの血が流れてる。そんな俺が受け入れられたのは全部アイツのおかげだ」


 切なそうに月を見上げる彼の表情を見て、相手の事をどれだけ大切に想っているか伺い知れた。


「……それがお前の目的か」


「……ああ、そうだ。俺にとっての恩人であり、恋人でもある」


「……恋人?」


 素っ頓狂な声を上げるユリフィスに、ブラストは意外そうに片眉を上げた。


「お前でも驚くんだな。ずっと無表情だったから感情がねえのかと思ってた」


「……そんなわけがないだろう。だが、お前に恋人とは」


「……おい、なんだその言い方」


 ジト目を向けられ、ユリフィスは失言だったと咳払いをして誤魔化した。


「アイツーーいや、レイサは特別顔が良い。てめえが連れてるお姫様と同じくらいには可愛い」


 それは盛りすぎだろうと思ったが、ユリフィスは反論しなかった。


 喧嘩したいわけじゃないのだ。


「……もしクソ貴族に見初められたら何されるか分からねえッ」


「……なら、早く行くぞ。俺とお前なら馬より速く走れる。朝日が昇る前に着くはずだ」


「言われずともそうするつもりだ。てめえ、


「それは俺の台詞だ」


 夜は魔物の時間である。


 街道を歩くだけで、黒い影が周辺に広がっている草原の至るところに確認できた。

 辺りに獣の遠吠えが響き渡る。


 肉食の魔物は基本的にどんな肉でも食うが、人の肉が一番の好物である。


「ナイトウルフの群れだ。囲まれてんな」


 月の光によって、黒い影の全貌が明らかになっていく。

 紅い眼に獰猛な牙。


 黒い毛並みの狼、それを一回り程大きくした魔物。十体以上は確実にいる。


「……村を襲うという魔物か」


「丁度良い。ここで狩りつくしてやる」


 ユリフィスはブラストと背中合わせになりながら、ガーランドから受け取った長剣を鞘から引き抜いた。


 そして剣を持ち上げ、刀身に反射した自分の姿をユリフィスは【探索者の義眼】を使って見つめた。




名前 ユリフィス・ヴァンフレイム

レベル:5

異名【なし】

種族:半魔【竜人】

体力:1000/1000

攻撃:380+80

防御:357

敏捷:410

魔力:100000/100000

魔攻:407

魔防:384

固有魔法:【なし】

血統魔法:【統べる王エンペラー・マジック

技能:【竜化】




 まさに圧倒的なステータス。

 ブラストよりもレベルは下だが、全ての値で勝っている。


 ラスボスに相応しい天才的なスペックだったが、ユリフィス自身は既に原作知識によって知っていた事である。


 一応ステータスを調べた理由は、今現在のレベルの確認とどの程度の戦闘を熟すとレベルが上がるのか。


 その二つを知るためだった。


「……全て俺がやってもいいが」


「半分ずつだ。その方が早く終わる」


 余裕を醸し出す二人の雰囲気に苛立ったのか、ナイトウルフは牙を剝き出しにして飛び掛かってきた。

 一体は正面から。そして、二体目は死角から。


 ユリフィスは無言で剣を水平に振るう。


 常人には何をしたか見えない程の速さで振るわれた一刀に、ナイトウルフは反応できずに臓物を撒き散らして両断される。


「……確かに良い剣だ。特に銘はないようだが」


「――グルァッ!」


 呑気に剣を見下ろすユリフィス。

 その姿に死角から来た二匹目のナイトウルフは内心ほくそ笑んだ。


 必殺の牙がユリフィスの喉に突き立つ――前に彼は視線を向けないまま魔法を発動した。


【獅子王の光炎】レオ・ブレイズ


 地面から突如として金の炎が吹き上がる。

 ナイトウルフは今まさに飛び掛かった直後という事もあり、空中で身動きができないまま焼き尽くされる事となった。


 悲鳴を上げる暇なく、骨すら残らなかった同族の焼け跡に、ナイトウルフ達が怖気づいたように後ろに下がり始める。


「――逃げるなら最初から襲い掛かってくるんじゃねえよッ」


 ブラストの戦い方は街道で出会った時とは違って徒手空拳である。


 ユリフィスとの闘いで剣を失ったからだろう。


 その拳は容易くナイトウルフの毛皮を貫き、蹴りに至っては身体を爆散させる威力だ。

 逆にナイトウルフの爪や牙では彼の薄皮一枚すら破れない。


 ものの数秒で魔物達を壊滅させた二人は、顔色一つ変えずハーズの街へ走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る