第11話
他の馬車の邪魔にならないよう街道から少し外れた場所で、ユリフィス達は怪我人の手当てに勤しんでいた。
死者はいない。
だが精強と知られるブランニウル公軍が誇る騎士達が負けた事は、醜聞以外の何物でもなかった。
騎士達の何人かは落ち込んでいる様子を見せていたが、ユリフィスとしては相手が悪かったとしか思わない。
元々、ゲーム上のボスに主人公たちはパーティで挑む。
その関係上、悪役となる【覇道六鬼将】のステータスは個々だと原作主要キャラに勝る。
つまり並外れた英雄たちにすら同レベル帯では勝ってしまう青年に、多少優秀な騎士程度が束になったところで負けるのは道理である。
当の本人はまだ気絶しており、騎士達は鋭い視線を向けて監視していた。ちなみに拘束はユリフィスの命令でしていない。
「負傷者は六名。どれも打撲や打ち身、酷い者で骨折レベル。命に別状はなく、
馬車の中ではなく、周囲一帯に広がっている草原に寝転びながらユリフィスは被害状況についてガーランドから報告を受けていた。
「……それを聞いて安心した」
ユリフィスとしては宰相の軍に所属する騎士達なので、正直どうでもいいが一応そう言っておく。
「フリーシアや俺にも怪我はない。青年が起き次第、俺に知らせて欲しい」
了承の意を示して頭を下げるガーランドだが、報告を終えても下がる気配はない。
「……あの、どうかされましたか?」
ユリフィスの隣で彼に倣うよう座っていたフリーシアが尋ねる。
ガーランドはユリフィスに尖った隻眼を向けつつ、
「二つ質問しても?」
「……好きにしろ。彼が意識を取り戻すまでの暇つぶしにはなる」
ユリフィスはゆっくりと首肯した。
「皇子、ご自身の噂について何か知っている事は?」
その問いに、ユリフィスは片眼鏡の位置を直して瞑目した。
「……何も。どういう噂が広がっている」
「病弱で、碌に外にも出れないと」
「ふむ」
それはユリフィスが今まで作り上げてきたイメージである。
彼にとっては演技が実って満足だが、ガーランドからしたら今この時はとても信じられるものではないだろう。
何せ手練れの騎士達を寄せ付けぬ強さだった青年を文字通り一蹴したのだから。
「この護衛任務を引き受けてからも、儂はその噂を信じていた。半魔に限らず、種族が違う者同士の間に生まれた子供は言い方は悪いが、あらゆる障害を持って生まれる事が多い」
手足が片方しかない者。
生まれつき目が見えない者や耳が聞こえない者。
そして逆にユリフィス等五体満足で生まれた者でも、その分内臓等に欠陥があって病気にかかりやすいハーフの子は多い。
「その件に関しては、俺は健康体そのものだ」
その言葉に隣に座っているフリーシアも軽く驚いているが今は置いておく。
そもそも全員が全員、欠陥を持って生まれるわけではない。
両親の相性次第で、健康なハーフや半魔が生まれる可能性もある。
「今までは病弱だと思われていた方が都合が良かったからそうしていたまで。そして、今回の巡遊でも公の場ではそのイメージ通りに接してくれ」
「……承知した。既に儂をも超える強さを持つのだろうが、護衛対象として見る事を心掛ける」
恐らくガーランドはその辺の確認をするために質問してきたのだろう。
「……次にあの金色の炎でできた獅子について。アレは
「……その通りだ」
ユリフィスは肯定した。
ブランニウル公爵家が代々継承する血統魔法【
黄金色の炎を操る魔法であり、通常の炎とは一線を画す熱量を誇るシンプルに強い魔法である。
「だとすれば皇子、貴方の身には公爵家の血が流れていると?」
「いや、そういうわけではない」
そう思うのは至極当然の事だが違う。
「……ヴァンフレイム家が保有する血統魔法の力、とだけ言っておこう。皇室は自らの一族が継承する血統魔法の詳細を明らかにしていないのでな」
ユリフィスは皇室の方針に従う気はないが、自分の能力を殊更にバラすつもりもない。
「……なるほど。詮索は無用と」
「一つ言えるのは、ヴァンフレイム家が皇帝位に長くあるのは血統魔法に因るところが大きいだろうな」
ヴァンフレイム家が保有する血統魔法は、原作でもラスボスたるユリフィスの力を大幅にアップさせていた。
いわば、皇帝という地位に相応しい王の魔法である。
「……質問は終わりだな。ではマリーベル。彼は起きたか?」
ユリフィスは青年の怪我を手当てしてくれたマリーベルが、こちらに駆け寄ってきた事を確認して尋ねた。
「……ううん。まだ起きないよ。というか多分骨まで折れてるから結構な重症みたい……」
報告を聞いて、ユリフィスはバツが悪そうに頭を掻いた。
戦闘自体、経験が少ないので加減があまりできなかったらしい。
「マリー。仮にもユリフィス殿下の傍仕えなのだから、言葉遣いはしっかりと。既に一度教えた事です」
「あ、ご、ごめ……じゃなかった、申し訳ありません、ルミア様……」
「私にではなく、殿下に」
「はい! 申し訳ありません!」
茶髪の真面目そうな美女メイドに注意を受けるマリーベル。
ちなみにルミアというのが茶髪の美女、フリーシアの専属メイドである。
彼女にはマリーベルの指導係をお願いしていたのだった。
「――皇子。あの青年の回復を待っていたら夜になりかねない。そろそろ出発しませんと」
「……そうだな。騎士達の治療も終わった事だし、事情を聞くのは後にする。彼は俺の方で見ておく」
「承知した。皆、移動するぞ。一先ずここから一番近い村へ立ち寄る事とする」
ガーランドの号令に騎士達が一斉に返事を返す。既に夕日が沈みかけており、あと数十分程度で月が昇るだろう。
ちなみに夜は魔物達の活動時間帯だ。だからこの世界では基本、日中しか移動しない。
深夜になると馬車が良く通る街道でさえ魔物がうろつき出すので、早めに出発した方が良さそうだ。
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