第9話 溜まり場

「神奈は私の幼馴染みなんです」


 団子屋で相承くんと別れた後、腹ごなしの散歩の途中で天南ちゃんはそう呟いた。


「正義感が強くて、格好良くて、弟思いで、いつもみんなの中心にいました。なにかもめ事があると真っ先に飛んでいって解決してしまうような、そんな人なんです」

「そうなんだね。天南ちゃんの話を聞いてると、とても姉御肌ないい人って感じがするけど……」


 でも、相承くんの情報がもたらした印象は真逆もいいところ。星霊王の装備を手に入れ、身に余る力を持ち、ハイになって暴れている。

 とても天南ちゃんの言うような善良な人間には思えない。


「神奈にいったい何が……あの、蒼鍵隊長!」

「どうしたの?」

「私、やっぱり自分の目で確かめないと納得できません。だから行きたい場所があります!」

「いいよ。今も何から手をつけてやらだし。解決の取っ掛かりになるかも。どこに行くの?」

「昔、私達が溜まり場にしていた空き地があるんです。本人がいなくても居場所を知っている人がいるかも知れません」

「なるほど」


 昔の溜まり場か。

 あくまでも昔のって所が懸念点だけど、行ってみる価値は十分にありそうだ。


「じゃ、そうしようか。案内お願いね」

「はい! こっちです!」


 ぱっと表情が明るくなった天南ちゃんの背中を追って進路変更。空を見上げると綺麗な茜色が雲を染めていた。

 目的地につく頃には夜かな? と、思いつつ足を進める。

 予想は的中してそれらしい場所が見えて来た頃には、辺りは真っ暗になっていた。

 周囲の人工的な光源は空き地にしかない。

 大気中の魔力を使って光を放つ魔導具が何台も設置されている。

 ということは、天南ちゃんの昔の知り合いがまだここを使っている可能性が高い。

 手掛かり、手にはいるかな?


「蒼鍵隊長。申し訳ないんですけど、話は私に任せてもらえませんか?」

「黙って後ろに立ってろってこと?」

「そ、そんなつもりじゃっ!」

「ははは、冗談だよ。わかってる。完全に部外者な俺が口を挟むより、知り合いの天南ちゃんのほうが円滑に話が進むって話でしょ?」

「も、もう! 隊長! からかわないで、下さい!」


 嫌に神妙な顔付きで、思い詰めている様子だっから、ついからかってしまった。けど、やった価値はあったと思う。

 表情がすこしだけ明るくなった。


「行きましょう」


 溜まり場の空き地に近づくと、次第に騒がしくなってくる。若者の声だ。何かが割れる音もする。

 穏やかじゃない感じ。

 更に近づくと詳細が見えてくる。

 魔導具の明かりをスポットライトのように浴びて屯する若者たち。団子を食い、ビンをあおって、誰もが大なり小なりの武装していた。

 いつでも戦えると言わんばかり。

 そんな中に天南ちゃんは怯むことなく飛び込み、一人の人物の目についた。


「おいおいおい、誰かと思ったら天南じゃないか。こんなところで何してるんだ?」


 この場にいるすべての視線が俺たちに集まる。


「聞きたいことがあるの、咲夜さや

「へぇ、聞きたいこと。こっちもだ、後ろにいるのは?」

「私が所属してる部隊の隊長」

「隊長! ついに隊士にまでなったのかい。そりゃめでたい話だ。で、なんだっけ?」

「神奈の居場所が知りたいの」

「あぁ、それで顔を出したのか。変わっちまったよな、神奈の奴もさ。大層な斧を持っただけで、あたしらとは即座にさよならだ」

「待って、抜けたの!? ここは神奈が作ったチームなのに!」

「あたしらも引き止めたさ。だが、何を言っても無駄だった。今じゃあたしがリーダーだ。柄じゃないってのにさ」

「そんな……」

「残念だけど居場所は知らない。あたしらも追うのは諦めたよ」


 なにか解決の糸口があればと思ったけど、空振りか。ただ天南ちゃんが衝撃を受けただけになってしまった。


「天南。昔の神奈はもういないんだ。諦めな」

「……わかったよ、咲夜」


 そう告げて天南ちゃんは踵を返す。

 俺と向き合うと視線が合う。

 その瞳には強い意思が宿っていた。


「行きましょう」

「あぁ、そうしよう」


 天南ちゃんはまだ諦めてない。

 この場で俺だけがその事実を知りつつ、多数の視線に晒されながら溜まり場を後にした。

 それからしばらく歩いて、溜まり場の明かりも随分と小さくなった頃のこと。


「もうすぐ神奈が暴れ始める時刻です。蒼鍵隊長、現れたら私に行かせて下さい」

「どうするつもり?」

「なにか事情があるのか、本人に聞きたいんです」

「その事情がなかったり、納得行かないものだった場合は?」

「その時は神奈との縁を切って私が捕まえます」


 言葉から強い意思を感じる。


「わかった。天南ちゃんに任せる」

「ありがとうございます!」

「でも、相手は星霊王の装備を持ってる。危ないと思ったら加勢に入るからね」

「はい!」


 そうと決まればいち早く発見するために、俺たちは街の物見櫓ものみやぐらの一つに登り、夜の町を見下ろした。

 灯籠とうろうが光を放ち、提灯ちょうちんが町を彩り、篝火かがりびが道を示す。

 夜の町は中々どうして華やかで、きっと夜ならではの楽しみもあるのだろうと、そう思わせてくれた。

 けど、風情のある景観は破壊音と振動によって破壊されてしまう。


「いました! あそこです!」


 ついに星霊王の神斧が振るわれた。

 

 

 


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