偵察

 ——六番街・グロキシニア区、十一月十五日。


   ◎


 六番街の中でも特に賑やかなエリア、というか。夜になればさぞ目に痛いほどのネオンが輝くだろう繁華街。夜の店が並ぶそんな地区の程近くにノーテの屋敷はあった。

 ロベリーから連絡先を聞いて直前に知らせを入れていたとはいえ、突然の訪問には変わりない。けれど意外にも彼は面会を受け入れた。


 周囲の様子とは場違いなほどに整然とした敷地。名前の分からない綺麗な花の咲く庭を抜けた先に見える重厚な扉をくぐれば、いかにもな絵画や彫刻が迎えるエントランス。床はぴかぴかに磨かれ、足跡を付けるのが忍びない。

 こういう場に出向くのは経験がなく不安だが、メルクやロフィは堂々としたものだ。グラフェンはやや居心地が悪そうでちょっと安心する。不慣れなのは俺だけじゃなさそうだ。


「いらっしゃいませ。主人は奥におりますわ。こちらへ」

 分厚いレンズの眼鏡を掛けたメイドに案内されて進むと、豪華なカーペットの敷かれた廊下の果てに応接室はあった。遠い。つまりは客を歩かせつつ、広い家やら高価なコレクションやらをひけらかしたいのだろう。


 辿り着いた先、エントランス同様に飾り立てられた応接室の中央。大きな椅子に腰掛けたままで俺らの訪問を歓待しているのが噂の男、ノーテだ。


 室内だというのに真っ黒なサングラスを掛けて、見るからに高級そうなスーツに身を包んでいる。例のごとく香水は強い。海の潮風を瓶詰めにして凝縮したような。香りを薄めれば爽やかなんだろうに。

 フィディのところで懲りたので、今回は万全を期して事前にマスクを用意していたのだが、それでも席がノーテから遠くてある意味助かった。そうでなければ、俺はまた新鮮な空気を求めて外へと走り出す羽目になったろう。


「やぁ、これはこれは。突然の事だったからたいしたもてなしもできなくて悪いな」

 けれどそう言いつつも、ソファに座る俺らそれぞれの前には、彼の指示でメイドが綺麗に揃いのティーセットと甘そうな菓子らしきものを並べてくれていた。

 らしき、と言うのはあれだ。Z型の提供する食品を口にしてはならないと俺の魂が告げているので味見ができないからだ。メルクとロフィも同じ気持ちに違いない。


 出されたものに手を付けないこちらに、ノーテはどうぞ、とでも言うように改めて机の上を示した。穏やかな所作とは裏腹に、サングラスの奥に微かに揺れる瞳は見開かれていて圧がすごい。

「味の心配はしなくてもいい。それぞれの種に合わせて女達に用意させたさ。四種族がこうしてきっちり揃ってるなんて、珍しいこともあるもんだ」


 ノーテの言葉のとおり、今日俺らはあえて家族ごっこの芝居はしていない。その理由は二つ。

 一つめは、ロフィがまたあの衣装を着るのを嫌がったから。残念ながら彼女は気付いてしまった——俺とメルクがT型風衣装を着れば、自分が楽をできるということに。

 そこでメルクがした言い訳が二つめ。今回はそもそも芝居なんて必要ないんじゃないか、と。彼はそう述べた。


 単純な話だ。

 商売内容の都合上、ドゥイスやコーデリアと違い、ノーテ相手に一般人が会いに行くのは難しい。そのため今日の俺らは新しく義体屋を開業しようとしている、というていで話を聞きに来たのである。

 そうすると、俺らはノーテにとって客であると同時にビジネスパートナーにもなる。今後の付き合いを考えて、しっかりと値踏みをされることだろう。

 そもそも。急ぎで直接会いたい、なんて。付き合いたてのカップルみたいなことを言っている時点で結構怪しいし、嫌でも印象に残ってしまう。もし下手に演技して万が一それを見破られでもしたらかえって面倒だ。


 そうメルクに言いくるめられ、ロフィはどことなく腑に落ちなそうな様子ながらも了承した。元々芝居に不満のあったグラフェンは当然ながらメルクに異論はない。


 まあそんなところで。

 こちらとしても種族を隠してはないわけだけども、このノーテという奴はそこらへんをきっちり確認して対応するだけの聡いところがある、と。それが今の台詞で分かった。

 外見上特徴のあるS型メルクT型ロフィ、同種のZ型グラフェンは雰囲気で分かった説でいいとして、俺のことまで分かったのはなんでだろう。特徴からの消去法?


 俺は目の前に置かれた菓子を見る。ケーキっぽい。美味しそうだけども、手を出す気にはなれなかった。周りを見ても誰も、グラフェンですら口を付けてはいない。俺もそれに倣おうと思う。

 食べ物を粗末にするのは不本意だが、食えたとて無害であるかは分からない。こんな状況下じゃなかったら、と悔やまれる。

 リラックスして贅沢を味わえるほどまで、俺はこのノーテという奴を信用できていなかった。


 俺の視線の先、ノーテの座る椅子の横には二人の召使いが控えている。

 どちらも外見年齢としては二十代後半くらい。片方は濃いメイクが全然似合っていない眼鏡の女。この応接室まで案内してくれたのは彼女だ。もう片方は顔面の至る所にピアスを空けた女。穏やかな表情が逆に怖い。

 髪はそれぞれピンクとグリーンで、俺の感覚においてはかなり人工的な色だ。彼女達にはなんて事ないカラーだろうが、とても目に痛い。眩しい。

 彼女らは微笑みながらノーテの隣に寄り添っており、その距離感がなんとも近かった。そういや女癖が悪いとかってロベリーも言っていたっけ。


 そして、使用人はこの二人だけではない。この部屋に至るまで、庭や玄関、廊下でも多数の女性を見かけていた。仕事をしている者、休んでいる者。みんな一様にぼんやりとした笑顔を浮かべており、言ってしまえば不気味。まるで意志がないかのようににただ佇んでいた。


 そんな状態の女性達をはべらせ、平然とした態度で王様でもあるかのごとく偉そうにしている男。完全なる偏見で悪いけど、性格が良い奴とは思えない。


 こちらへの待遇に関してもそう。菓子こそ出されてはいるが、通された席は別々。椅子はゆったりとしているのに、ノーテの前に通されたのはメルクだけ。あとの三人は少し離れたテーブルで待たされている。

 女と子供、それに外界種よそものは同じテーブルにすら案内されない。だいたいどんな奴かはこれで分かるわけ。


 メルクがここに来たきっかけ等々をつらつらとでっち上げているのを遠くに聞きながら、俺はノーテを観察することにした。

 閉鎖的な外界種のコミュニティで生まれて原種オリジンに育てられた為に言語が分からない、ということになっている俺は多少不躾な行動をとってもバレないだろう。何かあれば、きっとメルクが誤魔化してくれる。


 睨まれる覚悟で相手をガン見する俺。

 深海のように暗い青というか、藍色というか。落ち着いたカラーのスーツを着こなしている。手足は長くスタイリッシュでいて、それなりに筋肉もついている。絵に描いたようなモデル体型だ、と思ったがそうか義体か。

 俺はこの間、コーデリアが持ってたカタログの爽やかなイケメン氏を思い出した。もっとも、サングラスによって表情が分かりにくいノーテはあのような好青年とはだいぶイメージ違うけど。


 俺が凝視していることが気になるのか、ノーテもじっとこちらを見ている……ような気がする。サングラス越しでも目力が伝わるほどだ。ちょっと居心地が悪い。


「——というわけでしてね。それで、僕らで事業を始めることになったんですよ」

 視線を逸らしてふと意識をメルクに戻すと、ちょうど会話に一区切りをつけたところだった。


「なるほど。それできみとご友人達はいきなり僕の屋敷を訪ねて来たわけだ」

「そういう事です。失礼だとは思ったんですが、何しろこちらにも猶予がなくて。一応、もしご在宅なら話ができればと。でも本当に会っていただけるとは」

「たまたま予定が空いてたからな。そりゃ会ってやるさ」

 特別だ、と良くも悪くも表情を変えずにノーテは言う。メルクは深い会釈でそれに応じた。

「助かります」

「こういう話は早く片をつけた方がいいに決まってる。だろ? きみらには時間があるかもしれないが、俺は暇じゃない。ここで俺と話す時間がとれた幸運を神にでも感謝するといい」

 初対面にも関わらず横柄な言い方だと感じなくもないが、言うてこちらも急かした身。お互い様であると聞き流そう。


 さてと、どこから事件について切り出すか。

 メルクがそう思案しているだろう傍らでノーテはふと横を向く。隣に立つピアスの女へ向けて手招きをし、顔を寄せると何かを耳打ちした。女は頷き、そのまま部屋を出て行く。


「彼女はどちらへ?」

「なに、手みやげになりそうな物を持ってくるように命じただけだ。そのうちに戻る」

「みやげ……ですか」

 訝しむメルクに、さも当然と言ったようにノーテは告げた。

「ああ。きみの提案を受ける気はない。さっさと帰ってくれ」


 申し訳なさそうに、どころか。顔色ひとつ変えず。そのあまりにもあっさりとした返答に、メルクは一瞬呆けたような表情で固まった。

「えーっと、あの……」

「聞こえなかったか? 残念だけど、僕との取引は諦めろ。交渉しようが時間の無駄だ」


 淡々とノーテは告げる。

「誰が僕の連絡先を伝えたかは知らないが、そいつから聞いていないのか? 僕は近々この商売から手を引くつもりだ。今更、新たに事業の拡大なんて考えてないんだよ」


 確かに、そのような噂についてロベリーも触れてはいた。けれどそれにしてもにべもない。なさすぎる。事件への手掛かり云々の前に、まともに取り合ってすらもらえない。

 メルクがノーテに何を伝えたのかをちゃんと聞いてないので正確なところは言えないのだが、これまでの短い経験からでも、メルクが他人との対話に長けているのは分かる。なのにこの反応だ。


 他人をひたすらに馬鹿にしているのか、早々に会話を切り上げたいほどの後ろめたい何かがあるのか。

 程なくして戻って来た女は、手に数本の酒瓶を抱えていた。俺にはその価値は分からないが、そこそこ高価なんだとは思う。見た目豪華だし。

 これ持ってとっとと出ていけ。そう言外に告げ、女はその瓶を持ってこちらへと歩み寄る。


 どうする?

 俺は喋るなと言われているし、そもそもここまでの会話がよく分からないというていなので、困惑しつつも何もできない。

 メルクも苦い顔のまま、瓶を受け取るべきか躊躇っていた。もしもそれを手にしたなら、帰れと言われた言葉をも受け取ってそれに従う、と決めたことに等しい。


 そんな中、俺の座るソファがほんのわずかに浮いた。見れば、隣に居たはずのロフィの姿がない。


 まさか、と思って前を向く。ロフィは颯爽と迷いなくメルクと女の間に割って入り、代わりに瓶に手を伸ばした。

 そして——誰もが止める間もなく、差し出された品を床に叩きつける。


「えっ、ちょっ」

 思わず声をもらすメルクを、ロフィは完全に据わった目で一瞥する。ノーテはもちろん、仲間まで威圧するほどの凄まじいオーラが全身から漂っている。


 目前で酒瓶を叩き割られた女はそれでも取り乱すことなく佇んでいた。服には赤黒い酒が染み込み、まるで血まみれ。

 もちろん当のロフィも同じ状況なのだが、本人は一切気にしていないようだ。いや、服が濡れていることに気付いてすらいないかもしれない。


「何なのその態度。あなた達、喧嘩売ってるの? 私、今にも怒りだしてしまいそうなんだけど」

 圧し殺した低い声でノーテに話しかけるロフィ。もう充分キレてると思う。俺はもちろん、メルクやグラフェンもロフィの啖呵を黙って聞くことしかできない。


「何か言ったら? あなた、あまりにも失礼すぎ」

 俺らだけでなく相手方も何も言わない。ただ違うのは、ロフィの剣幕に押されているというよりも、煽られても意に介さないといった反応であるところ。

 ノーテはロフィの発言を聞いていないかのごとく無視し、酒まみれの女に言う。

「着替えて来い。ついでに、そこの瓶の破片を片付けたいから誰か呼んでおけ」


 ピアスの女はノーテに一礼し、服の裾から雫を滴らせつつ再び部屋を出た。残されたのは酒に濡れた床と無惨に砕けた鋭利なガラス。カーペットが敷かれていなかったのは幸か不幸か、敷物の汚れはないが傷が心配だ。

 弁償が頭をよぎって怖いんですけど、ロフィはたぶんそんなこと考えてない。


 体感数倍にも感じる両者の沈黙を経て、これまで静観していたグラフェンがゆっくりと立ち上がった。惨状の中心部へと向かうと、ノーテの方へ形だけの会釈を送る。

 それからすぐにロフィへと向き直り、腕を大きく振り上げるとその横顔を叩き——は、しなかった。

 直前で手を止め、そのまま下ろす。

「もういいでしょう、これ以上話していても仕方がない。帰りますよ」


 冷静なグラフェンを前にロフィの頭も冷えたのか、先程までの殺気を少しやわらげる。けれども謝ることはない。

 メルクはさすがにそのままとはいかず、ノーテに頭を下げる。

「連れがすみません……なんとお詫びしたらいいのか。清掃費や修繕費は後日お支払いしますので」

「いや、いい。そんなものは要らないからそこの馬鹿女を連れていってくれ」


 その言葉にロフィは眉を上げたが何も言わず、そのまま出口の扉へと向かった。グラフェンも少々間をおいてからそれに続く。メルクは改めて深い一礼を添えてノーテに背を向け、俺も慌ててみんなを追った。


 先に外へ出た二人は妙にゆっくりとした足取りで進んでいたため、俺らはやや早足で歩きすぐに追いついた。

「あのさぁ……いきなり何をやってくれてるのかな、ロフィちゃん……?」

 メルクは小声で、しかしはっきりとロフィに詰め寄る。誰かに聞かれるのを警戒してか、話し掛けつつも足は止めない。


 ロフィの機嫌はどうか、とひやひやしていたが、意外にも彼女はあっけらかんとした顔でメルクの方をちらと横目に見た。

「だってメルク、展開が行き詰まってたじゃない」

「いや、まぁそうなんだけど……他にやりようがあったと思うんだけどなあ?」

「ねー。私ももっとギリギリを狙うべきだったかなとは思うよ? ちょっと加減しちゃった」

「加減」


 メルクと俺が絶句している横でロフィは一瞬だけ顔を残念そうに曇らせ、また真顔に戻る。あえて目を合わさず、俺らにしか聞こえないくらいのささやき声で呟く。

「向こうから手とか出してくれたら楽だったのにさぁ。そしたら反撃ついでに色々やっても正当防衛って言ってゴリ押せたのに」

「そりゃそうなれば理想だけどね?」


 あっ、えと、そうなんだ……。

 メルクが納得したようなので俺もメンバーの力関係というか、それぞれの担当分野を察する。そういえば最初に会った日、メルクが撃たれた時にも、即相手に反撃を仕掛けに行ったのはロフィだったっけ。


「でもでも、ほんとダメだったね。想像以上にあいつ無反応だわ。殴れたら話は早かったし、何より私の気が晴れたのに。残念ながらプランAは大失敗。運任せのプランBに移行でーす」

 ロフィの呟きにメルクは前を向いたまま、怪訝な声音で訊く。

「そんな計画あったっけ?」

「メルクがあいつと話し込んでる間に私とグラフェンで相談して決めた。もしこっちの挑発に乗らないようなら頼むねー、って」

 軽い調子で言うロフィに対し、グラフェンが横から口を挟む。


「悪いですけど、特に相談はされてないです。今から勝負に出るから相手が動かないようなら三分後に止めてくれ、と。そう一方的に言われただけですよ、俺は」

「止めて、じゃなくて。私を殴って、って言ったんだけどね。その方がリアルっぽいし、壊した物の弁償とかうやむやにできそうだし」

「嫌ですよ……いいと言われても、無抵抗な女を殴る気はないです」

 ロフィが思っていた以上に打算的なのに対し、グラフェンは意外にも紳士っぽい。


 ところで。

「さんぷん、なんで」

 ずっと聞いているだけなのもつまらないので、そっとロフィに尋ねてみる。あんまり喋ると怒られそうだから、ちょっとだけ。

「あ、それはね。もしも運が良ければリアヴァッドに会えるんじゃないかなって思ったのよ」

 えーと、その根拠はどこから……?


 怪訝な様子の俺を見てロフィは続ける。

「あの状況でさ、ノーテ本人が片付けすると思う?」

「おもわない」

「でしょう。かといって、酒まみれの本人にすぐ片付けさせるとも思えないし。着替えさせるついでに、誰か呼ぶかなって思ったの」

 そう言われてみれば納得。


「予想は大当たり。ピアス付けた人、誰か呼ぶように言われてたでしょ? あの人が手みやげってお酒取りに行って戻るまで約五分。準備の時間を考えると片道は約二分。ここに来るまでに部屋は多数あったけど、通路はここのみで応接室の扉も一ヶ所」

 ほう。なんだか面白くなってきた。


「庭に二人と玄関に一人使用人がいたけど、そっちに行くことは考えにくい。だって、あれだけ服汚してやったんだもの。誰かを呼びに行くなら、万が一他にも来客が来た時に見られるかもしれない場所じゃなくて、裏方。厨房とかね。きっとそこにも会ってない人が誰かしらいると思う」

 確かにキッチンには他に人間がいる可能性が高い。酒瓶を選んでいたにしては戻りが早かったし、屋敷に入ってすぐにそれぞれ専用の菓子も出されたし。誰か、まだ見ぬ相手が手伝っていたとすれば納得だ。


「てことは。三分後くらいにあの部屋を出たら、ちょうどあのピアスの人に声をかけられた誰かがこっちに向かって来るのに出くわすんじゃないかと思って」

 俺は時間差で家を出るたかしくんとその兄について思いを馳せる。動く点PとQでもいい。


「ちょっと止まって」

 そう言ってロフィは床を差す。酒の雫が垂れた跡が点々と残っている。きっとさっきのピアスの女が歩いたに違いない。

 その水跡が少し先の扉の前で途切れていた。先に通路があるのだろう。キッチンに続くのかもしれない。


 少しここで待ってみるか。誰かがそう言い出す前に、その扉の向こうに気配がした。


 現れたのは女性。これまでに見かけた使用人と同様の衣装を纏っている。いや、そんなことはどうでもいいか。

 彼女の外見に関して重要なのは、鮮やかな金色の髪に目立つほくろが二つ。位置は目元と口元。それから、耳には何か文字が彫られた大振りの金のピアス——つまり、アサヒから聞いていたリアヴァッドの特徴と一致する。


「え、嘘でしょ……?」

 メルクが思わずそう声をもらした。俺も同じ気持ちだ。きっとグラフェンもそう。

 なんならさっきそれを分かっていたような発言をかましたロフィまでもが、ちょっとびっくりした反応を見せている。


「あの、もしかしてだけど、あなたリアヴァッド……?」

 戸惑いつつもロフィが問うが、彼女は何も答えなかった。微笑み、会釈をする。肯定の笑みでも頷きでもなく、ただ単にそういう動きをしているだけ。


 リアヴァッドはまるで人形か何かのように無感情に、俺らが後にした応接室の扉の方へと歩いて行く。

 無理にでも呼び止めるべきなのか、そのまま行かせるべきなのか。誰もその判断がつかないまま、リアヴァッドらしき女は遠ざかっていった。

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