第12話

 探し物の豆は、拍子抜けするほどすぐに見つかった。小豆あずきという、米に入れて料理したり、菓子に使う豆だ。粒が小さく、臙脂色に似た渋い色をしていた。

 高価で驚くミュゼットのすぐそばで、ジョフロアがさっと支払ってくれた。

 すぐに家に帰り、小豆を煮る。ジョフロアが鍋の番をしてくれる間に、ミュゼットはパン生地を捏ねる作業をした。ジョフロアの手元を見ると、彼は慣れた手つきで木べらを動かしていた。

 野宿をしたこともある、と言った彼は、王族らしからぬ経験をしたのかもしれない。

 小豆を煮て潰し、砂糖を加えたフィリングは、えぐみがあるが不味くなく食べられるものになった。

 ジョフロアが強く頷いた。

 パン生地の発酵が終わり、焼く時機には、夜中になっていた。両親は何も訊かずに台所を使わせてくれている。

 焼き上がったパンを手で割ると、紫がかった黒い中身が現れた。

「これだ!」

「美味しい!」

 夜中なのに声を弾ませ、ふたりは高らかに手を叩き合わせた。

 その日のミュゼットの夢は、歌子と湊人がつかの間の幸せなひとときを過ごす夢だった。

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