第11話

 パンの中身フィリングの見当がつかないまま、12月になってしまった。

 ジョフロアは相変わらず、居候している。第2王子は人質云々と話していたから、追手が来るのかと思いきや、それらしき動きは、ない。ジョフロア曰く、今まで匿ってくれていた親戚が上手く誤魔化してくれている、とのことだった。

「お父さんは、ジョフロアが相手なら喜んでミュゼットを送り出すよ」

「お母さんも、ジョフロアがお相手なら、喜んでミュゼットの花嫁衣装を縫うわ」

 昼食の席でそんな話になり、ジョフロアは戸惑いの表情を見せて黙した。スープの豆を匙で割り、動きが止まった。まばたきはしている。

 朝食後、ジョフロアはコートを着て外出の準備をしていた。

「ジョフロア、さっきはどうしたの?」

「豆だ。パンの中身は、潰した豆だ。町で探してくる」

「あたしも行く!」

 両親に賑々しく見送られ、ふたりは町へ向かった。

「ウタコという響きは、母の故郷の女性名に似ている。ならば、夢の世界も似たような文化圏で、食料も似たものがあるかもしれない。幸い我が国は、東の果ての国と繫がりを強めているため、その国の食材を仕入れているかもしれない」

 ジョフロアは頭が良い上に回転が速いな、とミュゼットは感心した。

「しかし、豆の名前がわからない」

「店の人に聞いてみよう。外国の豆で、潰して砂糖を混ぜる……かもしれない豆、ということで」

「ありがとう、ミュゼット」

 ジョフロアが微笑んだ。東洋の血が入った、綺麗な顔をしている。父の評価がわかる気がした。こんな宝物のような人がしばらく近くにいたことが、嬉しいようなむず痒い感じがした。

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