第13話

 雪が舞う。

 郵便局から出てきたジョフロアは、顔を綻ばせた。

「脱稿!」

 彼ははマリー・マンステールとして連載小説を書き上げ、原稿を編集者に郵送した。

 第2王子行方不明の続報はなく、あのときの新聞記事は人々から忘れ去られていた。

「そろそろ、聖誕祭ノエルだね」

「そうだな」

 ジョフロアは言わないが、ここを去るつもりだ。少ない荷物を全て持ち、何か言いたそうにしている。

「ミュゼットには隠せないな」

 ジョフロアが向かうのは、大きな道路のある方だ。

「この国は、王族が支配してはならなかったんだ。僕は、この国を民主政治の国にする。その準備のために、協力してくれる親戚の元に厄介になっていた。引き寄せられるようにミュゼットの家に行ってしまったのは、予想外だった」

 小説の内容かと錯覚してしまう話が、ジョフロアから語られる。

「ミュゼットと一緒にいる間は、心穏やかで楽しかった。本当は……いや、何でもない」

 ジョフロアは歩みを止め、言葉も切ったた。ミュゼットを見つめ、身をかがめる。顔が近くなり、ミュゼットは目をつむってしまった。

「ジョワイユー・ノエル、ミュゼット。どうか、幸せに」

 額に口づけされた。

 ジョフロアはミュゼットから離れ、歩みを進める。

 ミュゼットもいつの間にか、彼の隣が心地良くなっていた。歌子と湊人とは関係なく、ジョフロアという人の存在が大きくなっていた。ミュゼットはまだまだ子どもで、世間のことをよく知らない。でも、このまま彼を見送ることもできない。

 遠くなる背中を追いかけ、辻馬車を拾って乗ろうとする彼に抱きついた。

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