第9話
気づけば、ミュゼットは床に座り込んでいた。ジョフロアはミュゼットの両肩に手をかけ、支えてくれていた。
ミュゼットは肩で息をしながら、涙目でジョフロアの視線を受ける。ジョフロアの黒い瞳が、夢に出てきた湊人と重なった。
「スギサキクン」
夢の中の名が、声となってこぼれてしまった。
「タナカサン」
ジョフロアが明瞭に言った。
夢の内容を、訊ねるまでもなかった。
「おそらく僕も、君と同じ心地だ」
ジョフロアは手の力を緩め、ミュゼットを包むように抱きしめる。ミュゼットは体を委ねる……はずだった。
床に落ちた帳面が開いており、文章が目に入ってしまった。なんかこれ、心当たりがある。「聖女は労働歌を唄う」の今の章の後の展開ではないだろうか。青年活動家が取引のために公爵に抱かれそうな場面が描写されている。
こんなに若い読者もいたのか。
刺激が強かったかな。
あれはそういう意味か。
「あ、はい、その……僕がマリー・マンステールです」
ジョフロアは、恥ずかしそうに俯いた。初めて見せた一面だった。
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